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廃ゲーマーな妹と始めるVRMMO生活  作者: 鈴森一
第二章

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155/155

155 負けず嫌い

 フェリック南西部の草原に着く。すでにいくつかのパーティーがここで狩りをしていたので、俺たちはお互いに邪魔にならないように、ある程度距離を取った場所に陣取ることにした。


 ちなみにカラクールという羊は毛が黒くて、見ると少し不思議な感じがするモンスターだ。さすがゲームだなぁと思っていたのだけれど、シャルさんにカラクールは実在する生き物だと聞いて驚かされた。


「それじゃあお兄ちゃんたちはあっち側でいいかな?」

「おう」


 それからハルカの言う通りに百メートルくらい離れたところまで行く。ハルカたちが向こう側で手を振っていたので、俺も振り返してみたら三人は楽し気に笑ったように見えた。


「よし、俺たちも頑張るか」

「はい、頑張りましょう」

「それじゃあチトセさん、シャルさん、さっそく狩るっすよ!」


 いつもどおりクールなシャルさんとは対照的に、ヒヨリはやる気満々といった感じでテンションが高かった。


 ちなみにヒヨリはここに来るまでの移動中、何やらずっとウィンドウを開いて作業をしていた。何をしていたのか質問すると、「ちょっとダメージ計算をしてたっす」という言葉が返ってくる。


 俺はまだ使ったことがないけれど、LLOには関数電卓など様々なツールがあらかじめ用意されていて、ヒヨリやシャルさんのようなトッププレイヤーにはしっかりと活用している人も多いらしい。


 そういえば最初はぐれゴーレムを倒したときも、マコトがしっかりとダメージを計算していた覚えがあった。みんな何気なく自然にやっているけど、もしかしなくても実は凄いことなのだと思う。


「こっちは範囲攻撃が強力な魔法職がいないから単体狩りも視野に入ってたっすけど、計算してみたところやっぱり範囲狩りの方が効率良さそうだったので、今回は散らばってるカラクールの群れを一ヶ所に集めて、チトセさんの【ペネトレイト】と自分の【アローレイン】で一気に倒そうと思ってるっす」

「ああ、いいんじゃないか? ……といっても、さすがに【ペネトレイト】が当たるように敵全員を直線に並べるのは難しそうだな」

「別に討ち漏らしがあっても問題ないっすよ? 何体か残ったら単体狩りに切り替えて各個撃破していけばいいだけっすから」

「……確かにそのやり方だったら、私の【ヴェノム】や【アシッド】みたいな継続ダメージの魔法も、長い時間ダメージを与えられそうですね」


 錬金術師のシャルさんが扱う攻撃魔法はどれも詠唱時間が短いかわりにダメージを与えるのに時間がかかるのだけど、確かにこのやり方なら敵を集める段階からダメージが入り続けるので無駄が少なくなる。


 ちなみにカラクールはフェリック側のモンスターだけあって、攻撃力がそこそこ高く耐久力も兼ね備えていた。基本的に群れで行動していて六体以上のリンクになっていることが多く、囲まれると波状攻撃でこちらが一気にやられてしまうこともあるので、狩りとはいえ一応注意が必要な相手だったりする。


「まあチトセさんの素早さとプレイヤースキルなら問題ないとは思うっすけど、今回は複数のリンクをまとめて狩るので、自分やシャルさんが狙われているときとか、あとチトセさんの【ペネトレイト】後の硬直時間は要注意っすね」

「そうだな、気を付けるよ」


 基本的には防御力と回避力が備わっている近接職の俺がターゲットを引き付けるのが安全ではあるけれど、範囲狩りのためには俺もダメージを与える必要があるので、今回はその辺りの意識配分が鍵になりそうだった。


 野球だとランナーの盗塁を警戒しながらバッターを抑えるときの雰囲気に近そうだ。


「……ん、メッセージだ」


 そんな風に範囲狩りについての方針を確認したあたりで、突然メッセージが送られてくる。送り主はハルカ。


≪どっちのパーティーが多く稼げるか、競争しない?≫


「ハルカさんっすか?」

「ああ……どっちのパーティーが多く稼げるか競争しないかってさ」

「競争、ですか」


 正直なところ今までハルカから勝負を挑まれたことなんてなかったから、少し驚いている。そもそも昔から趣味も嗜好も性別も違う俺たち兄妹は、お互いを競い合う対象だとは思っていなかった。


 ――けれど、今だったらどうだろう?


 俺たちは今、同じゲームを一緒にプレイする仲間だった。そして同時に、攻略を競い合うライバルでもあるのだろう。


 ステータスという数字の元で平等なゲームの世界では、性別によるフィジカル的な差も存在しない。もちろん近接職の俺とヒーラーのハルカでは、ゲームでの役割的に同列で語れないことも理解はしているけど。


 そんなことを考えていると、シャルさんが口を開いた。


「何かを賭けたりするのでしょうか?」

「いや、そういうわけじゃないらしい。単純に勝敗を競おうってだけみたいだ」


 俺がそう回答すると、シャルさんは少し安心したような様子を見せた。何かがかかっているならともかく、ただ競うだけならシャルさんとしてはそこまで緊張しなくて済むということなのかも知れない。


「でも確かに競争となれば気合が入りますし、集中して狩りをするという意味では良いアイディアかも知れないっすね。範囲狩りは作業的な面もあって、やってるうちに集中が途切れやすいっすから」

「それじゃあこの勝負は受けてもいいか?」

「自分は大丈夫っすよ」

「私も問題ありません」


 二人から同意を得られたので、俺はハルカのメッセージに返信する。


≪おーけー、競争だな≫


 すると俺のメッセージを確認したらしいハルカが、百メートル以上向こうでこっちに手を振ってきたので、俺もそれに応える。


 ――しかし、ハルカたちと勝負か。


 別に負けたって何があるわけでもない。そう考える人もたぶん多いのだと思う。見たところシャルさんも実際そういうタイプのようだ。


 けれどそれが何であれ、戦うというのであれば絶対に負けたくない……なんていうタイプも確実に存在していた。


 ――負けず嫌い。


 十年以上野球という勝負の世界で生きてきた俺は、まさしくその負けず嫌いなタイプだ。勝負である以上は、たとえ相手がハルカたちであっても手を抜くつもりはなかった。というよりゲームでは俺の方がビギナーなので、手を抜くような余裕は最初からない。


 何にせよハルカが挑んできた勝負が、俺の闘争心に火をつけたことだけは、間違いようもない事実なのだった。


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