150 三人娘会談その8
「――それじゃあハルカがチトセに言いたかったことは全部言えたのね」
「まあ、そうだね。ちょっと口喧嘩みたいにはなっちゃったけど。とはいってもお兄ちゃんに私たちをもっと頼ってなんて言ったところで、素直にそうしてくれるわけもないんだけどね。お兄ちゃんは頑固だし意地っ張りだし格好つけだから」
「んー、それって妹のハルカから見ると悪い面かもしれないけど、逆に言えばチトセはひたむきでまっすぐで格好いい、ってことでもあるのよね?」
「あはは、確かにそういう見方も出来るんだと思うよ。というより、地元でもほとんどの人がお兄ちゃんをそういう風に見てきたと思うし。でもお兄ちゃんは特別な野球の才能を持っていただけで、その他の部分は年齢相応の、普通の人間なんだよね。だから辛いときは辛いって言ってくれないと困るんだよ。そうじゃないとこっちも助けてあげられないんだからさ」
「つまりそれがハルカから見たチトセの弱さ、ってことね。確かに弱音を吐いたり、助けを求めたり……そういうのって、自分の弱さを認めないとなかなか出来ないものだし」
「うん。どんなときでも平気な振りをして笑えるのは強さかも知れないけど、私たちにはお兄ちゃんが平気じゃないのは分かり切っているから、無理してるのを見ていたら不安にもなるし何とかしてあげなきゃ、って思っちゃうんだよ」
「……前から思ってたけど、やっぱりハルカって凄くいい子よねぇ」
「当たり前でしょ? そもそもいい子じゃないとこんなゲーム三昧な生活、許してもらえないし」
「そういう自信満々なところは、本当にチトセと兄妹って感じがするわね……ってあれ、そういえばマコトは?」
「ん、何? キリカちゃん」
「ああ、いるのね。いや、会話に入ってこないからどうかしたのかなぁって。だってマコトの大好きなチトセの話だし」
「だから、好きなんじゃなくて憧れているだけ……だったんだけど」
「ん? あれあれ? もしかしてマコト、それはラブな話?」
「いや、全然キリカちゃんが思ってるような話じゃないよ! ただちょっと考えちゃったというか……私がチトセさんに憧れて、期待して、応援して。そういう風に、理想の格好いい姿を押し付けちゃったせいで、今チトセさんが苦しんでいるんだとしたら。それは、私にも責任があることなんじゃないかなって――」
「それは違うよ、マコト。お兄ちゃんは元々目立ちたがり屋だし、人に期待されてそれに応えるのが大好きなお調子者だもん。だからお兄ちゃんは、地元の人たちにだって期待してくれたことには感謝しているんだと思うよ」
「ただみんなの期待に応えられなかった自分を、なかなか受け入れられなくて苦しんでいた……そういうことよね?」
「うん。だからマコトが気にすることなんて何もない……って私が言葉で言っても仕方ないか。それじゃあマコトは、明日にでもお兄ちゃんに直接訊いてみたらいいと思うよ」
「直接……? でもそれは――」
「出来るよ、マコトなら。一歩踏み出すのは怖くて難しいかも知れないけど、考えているだけじゃ何も変わらないって分かってるはずだもん」
「……ハルカって、私に優しいよね」
「でしょ? もっと褒めてくれてもいいよ?」
「ハルカのそういう所、私は嫌いじゃないわね」




