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143 グレイブキーパー戦1

 グレイブキーパーは魔法使いタイプのモンスターのようで、杖を振ると黒い球体がキリカに向かって飛んで行ってダメージを与えてくる。


 さすがにボスだけあってなかなかの威力があるけれど、キリカもしっかりと盾で受けてダメージを軽減しているし、ハルカも【シャイン】の魔法で攻撃に参加しつつ、キリカの体力を見て適切に回復魔法を使っていた。


 俺たちが強くなったこともあるが、今まで戦ったボスと比べても単体では特別脅威を感じるような相手でもなさそうだ。もちろんこうしたボスは単体の強さよりも厄介な要素を持ち合わせていたりするのだけど。


 そんなことを考えていると、やはり予想していた通りに周囲の墓からゾンビやスケルトンといったアンデッド系のモンスターが複数出現する。


「お兄ちゃん、そっちお願い」

「おう」


 出現したモンスターは【奇襲】の乗った【パワースラスト】なら一撃で倒せるけど、通常攻撃から【二段突き】の連携では倒せないという絶妙な耐久力をしていた。


 あと不思議に思ったのは、俺が攻撃してもこのモンスターたちは俺を無視してハルカやマコトの方に目掛けて突進していこうとすることだ。


 もしかしたら出現した時点で狙う対象が固定されているのかも知れない。まあ俺としては死角が取りやすいのでそれはそれで構わないのだけど、倒すのが遅れるとすぐにパーティー全体のバランスが崩れかねないので責任重大ではあった。


 ハルカとマコトもすぐにその法則に気付いたようで、モンスターが出現する度に俺が倒しやすい位置関係になるように、詠唱の合間を縫って移動してくれる。


 何があるか分からないので【迅雷風烈】は温存しつつ、【パワースラスト】が使えないタイミングでは【二段突き】以外にも【ペネトレイト】で複数の敵を攻撃したりと、色々工夫しながら押し寄せるモンスターたちからハルカたちを守ることにしばらく専念する。


 そうしてグレイブキーパーの体力を俺以外の三人が着実に削っていくと、あるタイミングでぴたりと墓からモンスターが出現しなくなった。多くのボスがそうであるように、どうやらこのボスも体力を一定量減らしたことで行動パターンが変わるタイプのようだ。


「ここからが本番ということかしら」

「たぶんそうだね」


 ハルカたちがそんな話をしていると、グレイブキーパーの元にいくつか魂のようなものが集まっていく。そしてその魂を吸収すると、どうやらグレイブキーパーはパワーアップしたようで、攻撃のパターンが変化した。


 今まではただひたすらにキリカに黒い球体を飛ばしているだけだったけど、どうやらキリカへの攻撃はそのままに、今度からは時折キリカ以外の三人にも飛んでくる攻撃が追加されたようだ。


 そうしてハルカを狙って放たれたグレイブキーパーの魔法がハルカに直撃すると、一気に体力の六割を持っていかれる。


「つぅ……さすがに魔法は避けられないか」


 痛みのフィードバックはないゲームだけど、衝撃はあるので被弾すると思わず声を出してしまうのはよくあることだ。


 ハルカは頑張って避けようとしたようだけど、弾速と誘導性に優れた攻撃ということもあって直前で安全を取って防御に切り替えていた。そうした判断と切り替えの早さはさすがといったところだ。


 魔法を扱う職業なので魔法防御力はそこそこあるはずのハルカでも二発で倒される威力ということで、後衛にとっては脅威に違いない。特にヒーラーのハルカはキリカだけでなく、他の味方の体力も回復させる必要があるので、ここからは忙しくなるだろう。


 何にせよ周囲からモンスターが湧かなくなったことは、俺にとって本体であるグレイブキーパーに攻撃するチャンスなので、この機を逃すことなく全力で攻撃を叩き込むことにした。


「【アタックチャージ】からの……【パワースラスト】!」


 グレイブキーパーの死角に回り込み、一回限りの【奇襲】に現時点での最大ダメージを出せる攻撃を合わせて叩き込む。


 すると次のグレイブキーパーの魔法は俺を狙っていたようで、グレイブキーパーの頭上に発生した黒い球体が俺に目掛けて飛んでくる。


 至近距離ではあったけど、【パワースラスト】の隙はすでに解消されていたので、俺は右に魔法を引き付けるように体を動かしつつ、魔法の弾道を見てから一気に左へと跳んだ。するとグレイブキーパーの魔法は俺の体の右側を通過していく。回避成功だった。


 俺の動き自体は反復横跳びのような感じだったけど、素早さの高い装備のおかげで多少慣性を無視したような無茶な動きが出来る。


 俺はこういった回避が出来ると見込まれてこの装備をみんなに薦められているので、こうして被弾を減らすことでハルカの負担を減らすのも重要な仕事に違いない。


「さすがお兄ちゃん、ナイス!」

「おう」


 さっきハルカも避けようとしていたので、あの魔法は決して回避が出来ない攻撃ではないのだろう。素早さが高い俺ならなおさらだ。それでもハルカはこうして声を出して盛り上げてくれる。


 そのまま俺たちが攻撃を続けていくと、グレイブキーパーの体力が4割ほど減ったところで、またグレイブキーパーは周囲から魂のようなものを集めてパワーアップする。


「グレイブキーパーの足元に何か出たわね」

「魔法陣かな……あ、ハルカ、火がついたよ」

「うーん、見た目から考えると、火が一周分点火するだけの時間が経ったら何か発動するタイプかな?」

「たぶんそうじゃないかしら?」

「だとすると全体攻撃の可能性もあるから、ちょっと耐久寄りにシフトするね」


 何の情報もない中で、ハルカたちは少ない手がかりから敵の行動パターンを予想して対策を練っていく。このあたりはゲームの経験が豊富な三人だからこそ出来ることだろう。


 グレイブキーパーはキリカへの攻撃と、それ以外へのランダムな攻撃はそのままに、足元の魔法陣に不気味な火を着実に灯していく。もしかしたらパワーアップする度に行動パターンが一つずつ追加されていくのだろうか。


 とすればグレイブキーパーの体力の残りから考えると、まだあと二回くらいはパワーアップするのかも知れない。


 まあ何にせよ俺は攻撃してダメージを与えることしか出来ないので、黙々と槍を振ることにした。


「【ガードコート】!」


 ハルカはヒールをする合間を縫って【ガードコート】の魔法を一人ずつかけていく。これで防御力が上昇するので、仮に全体攻撃が飛んできても被害が抑えられるということのようだ。


 そうこうしているうちに、グレイブキーパーの足元の魔法陣には一周するだけの火が灯ってしまう。


 そして――グレイブキーパーを中心に、黒い衝撃波が発生して俺たちを弾き飛ばした。


 やはりハルカたちの予想どおり、時間経過で回避不能の全体攻撃が発動したようだ。


 戦闘エリアの端まで弾き飛ばされた俺は、すぐに体を起こしてグレイブキーパーに駆け寄ろうとして――そこでようやく自分の体が動かないことに気付く。


「やばっ、お兄ちゃんが死んじゃった」


 そんな風に、ハルカの珍しく焦ったような声が響き渡るのだった。


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