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142 長い通路

「【ファイアボール】! チトセさんトドメお願いします!」

「はっ! 【二段突き】!」

「お兄ちゃんナイス!」

「その調子で一体ずつ確実に数を減らしていきましょう」


 二層に出現するモンスターはどれもレベルが30を超えていて、手ごわいモンスターが多い。種類はゾンビにスケルトン、コウモリにゴーストと今までにも見たことのあるものばかりだったけれど、ステータスが段違いに高い上に攻撃パターンもいくつか増えていた。


 ハルカによると、こういったタイプの敵は毒などの状態異常攻撃を行ってくることが多いらしい。


 毒は継続的にダメージを受ける他、回復の効果が下がるので、ハルカの【キュア】やアイテムの毒消しなどで優先的に解除しないとすぐにピンチに陥ってしまう。


 ただそれでもさっきのイビルオークのように時間に迫られたりはしないので、基本通りハルカがキリカを回復させながら耐えている間に、俺とマコトが同じモンスターを集中的に狙っていく形で何とか倒すことが出来ている。


 攻撃力も耐久力も今まで戦ったモンスターとは段違いで、一つのミスが命取りになりかねない中、俺たちは集中を切らさないようにしながら着実にダンジョンの奥に進んで行く。


 そうしてしばらく進んで行くが、長い通路はまだ終わりが見えない。そろそろいい所まで来ていると思うのだけど、実際のところは誰にも分からなかった。


「二層は一層よりもだいぶ長いみたいだね。みんなちょっと疲れてきたみたいだし、この辺りで少し休憩しようか」

「そうね、無理をして変なミスで死に戻りするくらいならその方がいいわね」

「私も賛成ー」


 さすがに気を張り詰めて戦闘を続けていたこともあり、そんな感じで俺たちは休憩することにする。


 外とは違いダンジョン内では一度倒したモンスターは復活しないので、こうしてタイミングを見て休憩することも可能だった。


「そういえばマコト、ハルカから怖いのが苦手って聞いたんだけど今日は大丈夫か?」

「あ、あはは……このダンジョンは薄暗いし実は少し怖かったりしますけど、今回はチトセさんとキリカちゃんが壁になってくれてるから大丈夫です」

「まあベータテストの時の雑魚ラッシュはねぇ……本当にゾンビの大群が押し寄せてくる感じだったから、そういうのが平気な私でも少しきつかったくらいだもの。本当にどこのホラーゲームかって話よ」

「え、キリカそうだったの? 誰よりも勇ましく戦ってたから、てっきり何も感じてないのかと思ってたよ」

「それはだって、マコトがあれだけ怖がってたら逆に冷静になるというか」

「その気持ちは分からなくもないな。ちなみにその時って三人だったのか?」

「ううん、あの時はミヤちゃんも一緒だったよ」

「そういえばミヤコもああ見えて結構怖がりなところあるのよね。まあ顔には出さないんだけど」


 ハルカたちによると、ベータテストの頃はミヤコさんともパーティーを組んで狩りやダンジョン攻略をすることがよくあったらしい。


 ミヤコさんの職業はローグといって剣の中でも短剣しか扱えない採集職であり、ヒヨリのハンターと同じくパーティーのドロップアイテムの量や質に貢献するアビリティを持っている。


 ただミヤコさんは強くなるためにそこまで熱心に狩りをしたりするタイプではなく、スタンスの違いから攻略が進んでいくうちにハルカたちとはパーティーを組むことも減っていったようだ。


 ちなみにミヤコさんはレアドロップ狙いの狩りを好むらしい。それだけ聞くとヒヨリに近いのかとも思うけど、ヒヨリの場合はあくまでも自分で使うためのものであって、ミヤコさんはどちらかというと人に売るためにレアドロップを狙っていたという。


「ミヤコの変わったところは、そういうレアなアイテムや装備を市場に流さないで、直接取引でしか売買しないところね」

「確かミヤコちゃんは『どうせなら直接売って感謝されたい』って言ってたっけ」

「おかげで顔は広いし、やたらとお金持ちだったよね。私たちも何回かアイテムを売ってもらったことあるし、キリカは借金してたし」

「なるほどな。でもキリカ、大学の友達なのにミヤコさんと一緒に遊ばなくて良かったのか?」

「チトセの言いたいことも分かるけど、でもゲームに求めているものが違うんだから、こればかりは仕方ないのよ。同じゲームをしているからって、みんなが同じスタンスでプレイしているわけでもないでしょ? それに別に喧嘩したわけでもないし、お互い納得の上だから心配いらないわ」


 それと同じようなことを以前ハルカにも言われた覚えがある。それは少しドライな考え方のようにも思えるけど、よく考えると俺も野球では同じような考え方をしていた。


 同じチームだからって全員と仲が良かったわけでもないし、途中で野球を辞めてチームを抜けたからって仲が良かった奴と突然険悪になることもなかった。まあ中には単純に顔を合わせる機会が減ったことで疎遠になったパターンも当然あるが。


「…………」

「……ん? ハルカ、どうかしたか?」


 気付くとハルカが俺の顔をじっと見ていた。表情からはその意図がよく分からないけど、どことなく心配そうにしているように思える。


「いや……いつもお兄ちゃんがそういう顔で考え事をしてるときって、何を考えているのかなって、少し気になっただけ」

「そういう顔?」

「何だろう、昔話をするときのお父さんみたいな感じなんだけど、少し違ってて……ごめん、上手く言葉に出来ないや」


 ハルカはそう言っておどけたように笑った。


 たぶんハルカが言っているのは俺が野球のことを考えているときのことなのだろう。さすがに自分がどういう表情をしているのかは自分では分からないけど、まあ実際当たらずも遠からずという感じなのだと思う。


「さて、それじゃあ休憩は終わりにして先に進もっか!」


 ハルカがテンションを盛り上げるようにそう言ったので、俺たちはダンジョンの攻略を再開した。


 それから一度だけモンスターとの戦闘を行うと、すぐにドーム状の開けた場所に出る。これまでの通路は石で出来ていたけど、ここは足場が土だった。周囲にはいくつか十字を形取った墓のようなものが立っている。


「あら、意外と目の前だったのね」

「……もしかしてあれがここのボスか?」


 その中心にはフードを深く被り、手に杖を持ったゾンビのような人型のモンスターがいた。


 表示された名前はグレイブキーパー。どうやら墓守らしい。


「オ前タチニモ聞コエルカ――ココニ眠ル者ドモノ怨嗟ノ声ガ」

「うわ、喋ったぞこのモンスター!」

「一応ボスだとたまにいるんだよ、喋るモンスターって」


 うめき声のような音で聞き取りづらかったけど、確かに言葉を発していた。


 それを聞いて俺は初めての経験だったのでかなり驚いたけど、みんなは慣れているのか落ち着いている。


 確かにゲームの世界ではモンスターが喋っても何も不思議なことはないのかも知れない。


「たぶんこれ墓からゾンビとか湧いてくるパターンだよね?」

「そうだね……もし雑魚モンスターが湧いたら基本はお兄ちゃんに処理を頼んでいい? 状況次第で別の指示出すかもだけど」

「ああ、分かった」


 実際のところセオリー的には、ボス戦で湧く雑魚モンスターは遠距離アタッカーが担当する方が移動などのロスが少なくて効率が良かったりするらしいけど、俺の場合は一体に一回だけ発生するデモンズスピアの【奇襲】がそうしたモンスターと相性が良かったりする。


 それに俺は装備で素早さを重点的に高めているので、移動のロスもそこまで大きくはならないというのもあった。


 ということでそれ以上の事前情報は何もないのでこれ以上の作戦は立てようがなく、あとは状況をみながら頑張ることになる。


「それじゃあ行くわね」


 キリカが全員の準備が出来ていることを確認してからそう言うと、先陣を切って駆け出すのだった。


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