140 システマチックな攻略
「【ファイアバースト】!」
「【ペネトレイト】!」
「【スピンスラッシュ】!」
『打ち捨てられた墓所』の一層は、今の俺たちにとってかなり格下のモンスターしか現れず、一撃で倒すことが出来るので片っ端から範囲攻撃で一気に殲滅していく。
これだけレベルの差があると経験値はほとんど入らないが、ドロップアイテムはちゃんともらえる。ただドロップアイテムの方も今は供給が増えていてあまり高くは売れないらしい。
ということであまり得るものがあるわけでもないので、俺たちはボスまでの道中をさっさとクリアしてしまうことにする。
ちなみにハルカたちの装備も更新されていた。
ハルカは相変わらずスカートは短いが、前に試着したときの白いロングコートと膝まであるロングブーツを身に着けている。
マコトはスカートがふわっと膨らんでいる黒を基調とした簡素なドレスの上に、長めのストールを肩から羽織るような格好になっていた。
あとキリカはさっき一緒に狩りをしていた時からそうだったけど、金属鎧の装飾や模様が前よりも豪華になっている。
装備のランクとしては俺のブルレザー装備と同じランクらしいので、強さも大体同じ感じだと考えて良さそうだ。
「――さて、噂のデーモンエグゼクターだね。キリカは正面からなら何発か攻撃に耐えられるはずだから、あまり無理に回避ばかり意識しなくてもいいよ」
「ええ、そうね」
「あとは姿が消えてからの攻撃だけど、みんなで声を出すんじゃなくて、二人組でお互いを見る感じにしようか」
「それじゃあ前衛と後衛で別れるのがいいかな」
そんな風にデーモンエグゼクターと戦う方針はすんなりと決まっていく。
ちなみに二人組にする利点は、誰が声を出したかで狙われているのが誰か分かるのと、見る場所が単純に少なくて済むということらしい。
俺はキリカとコンビなので、キリカが声を出したら俺が狙われていることが分かる。なのでキリカも伝える情報は「上」か「後ろ」だけで充分になる。
デーモンエグゼクターの奇襲攻撃は単純に素早いので、誰が狙われているかを伝える時間すら省略した方が攻略しやすいという話のようだ。
「まあ今となっては格下のボスだし、クリア経験者のお兄ちゃんもいるから、そんなに警戒する必要もないんだけどね」
そんな風に言いながら、ハルカとマコトはそれぞれエリアの端の壁を背負うような形で散開した。
実はああすると背後にデーモンエグゼクターが現れなくなって、上だけを警戒すれば良くなるらしい。遠距離で戦える職業だけが使える攻略法ということになるようだ。
そうして準備が整ったのを確認したキリカがデーモンエグゼクターに攻撃を仕掛けて戦闘を開始する。
前にヒヨリと来たときは俺がデーモンエグゼクターから攻撃されていたので、回避の合間にたまに攻撃するくらいしか出来ず、あまりダメージを与えられなくて長期戦になっていたけれど、今回はキリカがターゲットを引き付けた状態で俺とマコトが好き放題に攻撃出来ることもあって、みるみるうちにデーモンエグゼクターの体力は減っていく。
まあ俺たちの装備とレベルが強くなっている影響も間違いなく大きいのだけども。
そうしていくうちに一定のダメージを受けたデーモンエグゼクターは、以前と同じように黒い霧を発しながら姿を消した。
俺は役割通りキリカの背後と頭上を警戒する。
「上だよ、ハルカ」
「わーい」
マコトの声を聞いて、ハルカは何故か少し嬉しそうな声を出しながら壁沿いを走ってデーモンエグゼクターの急降下攻撃を回避する。
すかさずキリカがデーモンエグゼクターに近寄ってターゲットを引き付け、また俺とマコトがしっかりとダメージを与えていく。
そんなことを数回繰り返すとデーモンエグゼクターは二体に分身するが、そのうちの一体を俺がキリカから引きはがす形で相手をする。
ちなみにこの分身はやはりヒヨリが予想していたとおりで、片方だけを先に倒すと生き残った方がパワーアップしてしまうらしい。ということで俺とキリカが対峙しているデーモンエグゼクターを、マコトが攻撃を調整しながら均等にダメージを与えていく。
二体の姿が消えてからの攻撃も特に問題なく回避することが出来て、瀕死になったデーモンエグゼクターを最後はマコトが【ファイアバースト】でまとめて焼き払う形で決着がついた。
「さすがに今の私たちのレベルだと苦戦する相手じゃなかったね」
「そうだね。火力があって戦闘時間も短くなるから、事故の心配もほとんどなかったし」
そんな風にハルカとマコトは軽く感想を言い合っていた。ちなみにデーモンエグゼクターを倒して出現した宝箱は素材や換金用アイテムばかりで、デモンズスピアはドロップしなかった。
それにしても何というか、ハルカたちの攻略はとてもシステマチックで、周到に準備されているのがよく分かる。
基本的にゲームの攻略は課題を解決していくことであり、そこに喜びがあり、成長がある。もちろん苦労もあるのだけど、そんな苦労さえ楽しめるからこそハルカたちはゲームが好きなのだろう。
「それじゃあ次は二層だね。この先はお兄ちゃん情報だとかなり危険だから、要警戒だよ」
ハルカがそう言ったので、俺たちは気を引き締めながら二層へと向かうのだった。