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廃ゲーマーな妹と始めるVRMMO生活  作者: 鈴森一
第一章

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133 アンガーマネジメント

 ギョクにブルレザー装備を作ってもらった後、俺は夕食休憩を取ったついでに少し調べものをしてから再ログインをした。


 一応次の目標となる装備について調べてみたが、これまでと比べると必要な素材の種類や数が一気に増えていた。


 その上狩るべきモンスターも出現位置がバラバラだったりと、順調に装備を更新出来ていたこれまでと違って、次からは何日にも渡って計画的な狩りをする必要がありそうだ。


 まあそのあたりは明日から考えるとして、今日の残りの時間は適当に街をぶらついてみることにした。


 こうして街を歩いてみると、毎回新しい発見がある。たとえば以前だとただ世間話が出来るだけだったNPCからクエストが受けられるようになっていたりした。


 そうしたクエストが受けられるようになる条件は様々で、他のクエストのクリアが理由だったり、レベルが上がったからだったりもする。今回増えていたのはどうやら緊急クエストをクリアしたことが条件になっているもののようだった。


 一人で簡単にこなせそうなクエストで、報酬が良ければ受けてみても良かったが、かかる手間の割に貰える報酬が微妙そうな感じだったので、今回はスルーすることにした。


 この辺りの感覚もだんだんと掴めてきたので、俺もそれなりにゲームのことが分かってきているのかも知れない。


 ただそれと同時に、今までのように何もかもが新鮮で楽しく思えていたときの感覚が少しずつ薄れてきているのを感じたりもした。


「あら、チトセ? 装備が違ったから、一瞬違う人かと思っちゃったわ」

「ああ、キリカか。ん、そっちの人は?」

「チトセには前に言ったと思うけど、私の大学の友達のミヤコよ」

「あのね、キリカ。私、一応このゲームでは『みゃこ』って名乗ってるんだけど?」

「あはは、そういえばそうだったわね」


 ミヤコさんにツッコミを入れられても、キリカは全く悪びれた様子がなかった。そんな二人の様子を見るだけでも仲の良さが充分に分かる気がする。


 ミヤコさんはショートの黒髪に、目尻のつり上がった猫目が印象的な人だった。革装備を見に纏っていることから、おそらく俺と同じ物理アタッカーの職業なのだろう。


 服装はノースリーブの服に大きなベルトが目立つショートパンツで、肌の露出は多めだけれどすらりと伸びた長い手足によく似合っていた。


「それで、君が噂のチトセ君? ふーん……?」


 ミヤコさんはそう呟くといきなり至近距離まで近づいてきて、俺の目を覗き込むようにまじまじと見つめた。


 普段キリカがどんな風に俺のことを言っているのかは分からないし、何となく値踏みされているようで居心地が悪いけど、別にやましい所があるわけでもないので、とりあえず堂々としておくことにする。


 しかし何とも不思議な感覚で、ミヤコさんの猫目に見つめられると、心の裏側まで見透かされたかのように錯覚してしまう。


「重度のシスコンって聞いていたけど、案外普通の子なのね」

「……キリカ?」

「言ってない言ってない!」


 キリカは顔の前で手を横に何度も振りながら、首も横に振って必死に否定していた。キリカは嘘を言っている感じではないので、だとすればそれはミヤコさんの冗談なのだろう。


 しかし、シスコンかぁ。


 確かに俺とハルカは仲が悪いわけではない。ただ昔からハルカとは生活が噛み合わなくて、あまり一緒にいることがなかったから、周囲からそんな風に言われることはほぼ無かったように思う。


 せいぜいハルカが野球の試合を見に来たときに俺が打ちまくったりすると、チームメイトから「シスコン打法」と名付けられるくらいだった。……言われてるじゃねーか。


「でもキリカがチトセ君を凄い子だっていつも褒めてる理由は、何となく分かったわ。たぶんこの子、負の方向への感情の振れ幅が凄く小さい……いや、負の感情を自分でコントロール出来るって言ったほうが正確かな」

「……? それってつまり、どういうことなんだ?」

「簡単に言うと、怒ったり悲しんだりっていう、ネガティブな感情に振り回されにくいってこと。チトセ君は自分で心当たりがあったりしない?」

「あー、もしかして昔メンタルコーチに言われたアンガーマネジメントとかいうあれか?」

「そう、まさしくそれ。……というか、やっぱりね」


 ミヤコさんはそう言うと、右手の親指を唇にくっつけるような形で軽く手を握ったポーズをして何やら考えこむ。


 どうやらミヤコさんは俺が今まで出会った中でも、かなり変わったタイプの人らしい。


「なあキリカ。ミヤコさんには俺のことをどんな風に話してたんだ?」

「別に普通のことよ? チトセは味方がミスをしても冷静に対処するし、ミスを引きずったりもしないから常にプレイが安定してて凄い、とかね。私は結構そういうの引きずるタイプで、一回誰かが大きいミスをするとそのままリカバリー出来ずに大崩れしちゃうこともあるから」

「……なるほど」


 確かにその辺りの精神面に関して、俺は間違いなく野球で鍛えられていた。


 たとえば味方がエラーをしたからって、いちいちフラストレーションを溜めていては自分のプレイにも悪影響を及ぼす。


 そのような外的要因で試合中に自分のパフォーマンスを落とさないためにも、怒りのような不要な負の感情をコントロールするのは重要なことだ、という風に俺は子供の頃から教わってきた。


 ――それがチームのマウンドを預かるエースの在るべき姿だ、と。


 といってもさすがに怒りの発生自体を抑えることは出来ない。だから怒りをコントロールし、飼いならす。


 アンガーマネジメントとは、そういう形で習得できる技術なのだという風に俺は教えられたのだった。


「ああ、ごめんね、ちょっと考えこんじゃって」


 ミヤコさんはそう言って俺とキリカに謝る。


「ミヤコは大学で脳科学とか心理療法とかそういう勉強をしているから、すぐこんな風に人を分析しようとして友達を無くすのよね……チトセも良い気はしてないと思うけど、もし良かったら仲良くしてあげてね」

「ああ、俺は別に気にしてないから大丈夫だよ。むしろ感心してしまったというか……ミヤコさんは俺とほとんど話してないのに、そんな簡単に分析出来たりするものなのか?」

「まあチトセ君の場合は事前にキリカやハルカちゃんから話を聞いていたのが大きいかな。あとは私が不躾に値踏みするように見ても全く動じなかったのと、根も葉もないシスコンのレッテルを張っても冷静だったこと。そこに加えて元々全国区のアスリートだったという話から、子供の頃から特別な訓練を受けていたんじゃないかなって想像しただけね」


 ミヤコさんが言うには、俺の目の動きなどを観察しながら、俺をわざと怒らせるようなことをしてみて反応を探っていたらしい。


 ただ苛立ちが俺の目の動きに現れてもすぐに消えてしまうことから、感情をコントロールする技術を持っているんじゃないかと仮説を立てたのだという。


 俺にはよく分からないけど、ミヤコさんはそうした分野においてかなり高度な知識を持っているのかも知れない。


 何にせよ変な人ではあるけど、面白い人でもあるのは間違いないようだった。


『みゃこ』というキャラクターは最初の掲示板回に登場しているので実は新キャラではありません、というどうでもいい情報を補足しておきます。


あとお盆休みを利用して新作を書いています。


『左遷された最強賢者、教師になって無敵のクラスを作り上げる』

https://ncode.syosetu.com/n0757ey/


学園モノというか教師モノです。もしよろしければこちらの方も読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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