127 ザキとギド
パーティー募集に参加してくれた二人の男性とフェリックで合流した俺たちは、さっそくお互いの自己紹介を始める。
「どうもー、俺はザキって言います。職業は棍術士でタンクメイン、アタッカーもやるけどそっちの装備はまだ全然だね。それでこっちの大きいのがギド。こんな見た目だけど職業はドルイドで打たれ弱いんで、そこのところよろしく」
「……よろしく」
ザキという人に振られるかたちで、ギドと呼ばれた大柄な男性もそう小さく挨拶をした。
ザキと名乗った男性は赤い短髪につり目が特徴的で、明るく親しみやすいタイプの人だった。身長は170cmくらいで体格も平均的。装備は金属鎧に盾、ハンマーとこちらも普通な感じだ。
一方で寡黙な印象のギドという人は190cmくらいある長身で、胸板も厚く体格が良い。しかし何よりも特徴的なのは日焼けした肌にドレッドヘアーという髪型だった。こんないかにも武闘派な見た目なのに職業は魔法職のドルイドということで、装備はゆったりとしたローブにズボン、そして木製の杖だ。
ドルイドというのはいくつか種類のある魔法職の中でも、土属性や風属性、あとは植物を操るタイプの魔法を得意としている職業らしい。
ちなみに今ここにはいないけどマコトはマジシャンとも呼ばれる標準的な魔法使いで、火属性や氷属性、あとは雷属性なんかを得意としているという話だった。
そんな風に職業ごとの個性という形で、得手不得手が設定されているのは他の職業と変わらない。
「それじゃあ今度はこっちの番かな。俺はチトセ、職業は槍術士でアタッカーをしてます。それで――」
「錬金術師のシャルローネです。長くて呼びづらいと思うので、よかったらシャルと呼んでください」
「ああ、了解。んじゃチトセ君とシャルさんね。あと俺たちのことはそのままザキとギドって呼んでくれたらいいよ。これ自体がニックネームみたいなものだから、さん付けとかも無しで」
そうして自己紹介を終えると、さっそく俺たちはフェリックから東に向かって出発する。
東には以前スパイクビーストというモンスターと戦った森が広がっている。そのときはまっすぐに突っ切ったけど、この森は結構広くて脇道がいくつか存在していた。
そのうちのひとつを進んで行くと、蜜蜂のモンスターであるハニービーがたくさん生息するエリアに出る。
ちなみにこれは本当に不思議なことではあるのだけど、このゲームではハニービーを倒すと蜜蜂の巣がアイテムとしてドロップしたりする。
まあ以前にもコウモリのモンスターを倒したらコウモリの血がガラス容器に入った状態でドロップしたので、これがゲームなのだと納得するしかないだろう。
「それじゃあさっそく行ってみますかね」
そうして俺たちはザキの言葉とともにハニービーとの戦闘を開始する。
ハニービーは現実の蜜蜂とは違い、人の頭くらいの大きさがあった。まあそれくらい大きくないとこちらの攻撃が当てづらいのでゲーム的に仕方がないのだろうけど、最初に見たときは少しびっくりさせられた。
ハニービーの一体一体は大して強いわけではないが、かなり多数の個体でリンクされていて、同時に十体以上と戦うことも頻発する。
そうなると当然タンク役のザキ一人では全てを抑えきることは出来ず、何体かは後衛を狙って飛んでくるので、それを仕留めるのが今回の俺の役割だった。
ハニービーをザキが集め、それをギドが風属性の範囲魔法【タービュランス】三発でまとめて倒し、傷ついたザキはシャルさんがヒールする。
そしてギドとシャルさんが安心して役割に専念できるように、素早さと攻撃力の高い俺が駆け回って遊撃するという形だ。
パーティーとしてかなりバランスが取れていることもあって、ハニービーは順調に狩れていく。蜂の巣はドロップ率がそこまで高くないという話だったが、倒す数自体が多いのもあって特に問題なく集まっていった。
「……チトセ君は、良い腕をしているな」
「そうか? ありがとう」
「ギドが自分から人を褒めるのは珍しいなぁ。というかその武器って今話題のあれだよね、『打ち捨てられた墓所』のレアドロップとかいうデモンズスピア」
「ああ、少し前に知り合いと二人で頑張って周回したんだ」
「なるほど。掲示板ではようやく攻略者が出たって話だったけど、やっぱり先行してクリアしてる人もそりゃいるよな。忍耐回避系のボスらしいから、腕さえ良ければ一人でもクリアは出来るみたいだし」
戦闘の合間にはそんな風にゲームについて世間話なんかもした。
どうやらすでにデモンズスピアの存在も話題になっているようで、それ目当てで『打ち捨てられた墓所』の一層を攻略している人も一気に増えたらしい。
そんな風に一気に情報が拡散して共有されていくのは、こういったゲームの大きな特徴に違いないだろう。
「あの、ザキさん。私の動きに問題はありませんか?」
「ん? いやもう全然問題ないよ。シャルさんは装備が強いから一回の回復量が多いし、ヒールのタイミングも的確で合間には攻撃参加までしてる。これで文句言ったら誰も俺とパーティー組んでくれなくなるレベルだって」
「……良いヒーラーは、何も起こさない」
パーティーでの動きを確認してくるシャルさんに、ザキは明るい感じで応え、ギドは短い言葉でそんなことを言った。
確かにギドが言うように、ヒーラーが上手ければ滅多なことではピンチになったりはしないのだろう。野球でも守備の名手はファインプレーを普通のプレーのようにこなすと言われたりする。
上手ければ上手いほど一見すると何も起きない。本当の凄さというのは案外そんな風に、目には見えないところにあったりするものだった。
ちなみに俺たちのパーティーがよくピンチになっているのは決してハルカが下手だからではなく、いつも格上のモンスターとばかり戦っているからだ。逆に言えば上手いハルカがヒーラーをしてくれているからこそ、今までそういった無茶が出来ていたのだ。
そうして俺たちはしばらくハニービーを狩り続ける。途中で別のパーティーもやってきたが、ハニービーが出現する範囲はかなり広いので特に取り合いになることもなかった。
蜜蜂の巣は自分で使うだけではなく、市場価値も高いのでいくつあっても困らない。だからこそ順調に狩れている今の状況だと狩りのやめ時が難しい。そういえばパーティーを組む時にも状況を見て適当にとしか決めていなかった。
そんな風に俺が狩りを終えるタイミングを考えていると――ふとハニービーの湧きが止まった。
「ん、何だ?」
「これは……緊急クエストの予兆です」
俺の疑問に、シャルさんが答えてくれる。そしてその直後。
「た、助けてくれ!」
そんな風に叫ぶ、男性の声が周囲に響き渡るのだった。