126 野良パーティー
翌日、俺がいつも通り昼頃にログインすると、ハルカたちはすでにパーティーを組んで狩りをしていた。
ただ珍しいのはハルカ、マコト、キリカの三人娘に加えて、今日はヒヨリがパーティーに参加していることだ。
《LF》を抜けてからのヒヨリはソロ狩りが多かったという話だけど、昨日のツアーを通じて同じクランの仲間になったことで、ハルカたちとは仲良く狩りが出来る関係になったらしい。
「さて、それじゃあ俺の方も何かやるか」
一応昨日の狩りで牛の皮は充分な数が集まったのだけど、実はそれだけだとまだ装備を作ることは出来なかったりする。というのもまず牛の皮をなめして装備用の革素材にする必要があるし、その革を繋ぎ合わせるための糸や留め金用の金属も必要になるからだ。
このあたりは市場で買った方が早いものもあるので、全てを狩りで集める必要はなかったりもする。ただ俺は市場のことはあまり詳しく知らないので、どの素材が今出回っているのかまでは分からない。
ということで、そのあたりのことについては詳しい人に訊いてみることにした。俺はフェリックとリムエストを行き来している馬車に乗って、リムエストの市場エリアの一角にある彼女の定位置に向かう。
「シャルさん」
「あ、チトセさん。こんにちは」
真剣な顔でマーケットボードを確認していたシャルさんは、俺の声に気付くとにっこりと笑ってあいさつをした。
俺とシャルさんは昨日のツアーを終えてからは別行動だったので、お互いに何をしていたのか情報交換から始める。シャルさんは市場の状況を見ながら、錬金術師が作ることの出来る薬品の生産を中心にしていたらしい。
確かに見てみるとシャルさんのレベルはもう23まで上がっていた。ちなみに俺は現時点でLv.20目前というところだ。
昨日から考えるとレベル差こそそこまで開いていないが、当然レベルが上がるほど必要な経験値は増えるので実質的にはシャルさんの方が効率よく経験値を稼いでいると言えるだろう。
「チトセさんはブルレザー装備を作るんですか?」
「ああ。それで市場で買えそうな素材は買って揃えようかなと思うんだけど」
「そうですね……なめし革を作るのに必要な茶葉は採集職が常に供給しているので手に入れるのは簡単ですが、他の素材はやはり現時点だと自力で集める必要があると思います」
「やっぱりそうか」
俺たちがここまで順調に攻略を進めてきたこともあって、新しい装備に必要な素材もまだ広くは出回っていないようだ。
ただ狩りをしようにも、さすがにソロでフェリック側のモンスターを狩るのは難しい。倒すだけなら問題はないだろうけど、どうしても効率は悪くなる。
そうなるとハルカたちの手が空いてから手伝ってもらうのが一番なのだけど、しかし昨日も俺の狩りに付き合ってもらったわけだし、さすがに気が引けてしまう。
「……あの、もし良ければ私が手伝いましょうか?」
「え、いいのか?」
「はい。今は特にやることもありませんし、それに他ならぬチトセさんのためですから」
そういってほほ笑むシャルさん。確かにヒーラーであるシャルさんの協力があれば、ダメージを受けることにもそこまで慎重になる必要はなくなるし、狩りの効率は格段に上がる。
ちなみに俺がまず狩ろうとしているのは大きな蜜蜂のモンスターだ。蜜蜂の巣から作れる蜜蝋というものが糸を作るのには必要なのだった。
「ただ蜂を効率的に狩るのであればやはりタンク役と、可能であれば範囲火力がある魔法職のアタッカーもいるのが理想ですね」
「知り合いだとキリカとマコトだけど、二人ともハルカと一緒にパーティーで狩りしてるんだよな」
「ええ、それは私も把握しています。なので今回は、野良のパーティーを募集してみませんか?」
「野良のパーティーか……」
シャルさんが言う野良のパーティーというのは、知らない人と即席で組むパーティーのことだ。このゲームにはパーティー募集機能というものがあって、簡単にパーティーメンバーを募集することが出来る。
ただ人が集まるかどうかは時と場合によりけりだ。一応すでにフェリック側まで攻略を進めている人はそれなりの数いるようだけど、現時点で野良パーティーを組んで狩りをしようという人がどれだけいるのかまではさすがに分からない。
といってもまあ、誰も集まらなければ二人で狩りをすればいいだけなので、試してみるのはありかも知れない。
「ちなみに私も野良のパーティーを募集するのは初めてです」
「ああ、そういえばシャルさんって今まではずっとソロだったんだっけ」
その割にはかなり自然な感じでパーティー募集を提案してきたように思う。どうやらシャルさんはパーティーを組むこと自体に苦手意識があったわけではないようだ。
まあ俺としてもゲームの中での交友関係が広がる可能性もあるし、経験してみるにはいい機会だった。
「それではせっかくですし、チトセさんがパーティーリーダーで募集してみてください」
俺もシャルさんもパーティー募集は初めてなのでどっちが募集しても同じことではあるのだけど、ここはシャルさんの言葉に従って俺がパーティー募集機能を使うことにする。
基本的な操作はフレンド申請を送ったりするのと同じで簡単だったが、パーティー募集の場合はパーティーの目的と募集する人数や役割を指定する必要があってそこに少し手間取ったりした。
その後何とかパーティー募集の設定を終えて、数分。
「思ったよりも早かったですね。特にタンク役は人口が少ないので、簡単には集まらないかと思っていましたが」
「二人同時にレスポンスがあったから、もしかしたら二人組なのかもな」
予想よりも早くパーティー募集に反応があったので、俺たちはその二人と合流するためにさっそくフェリックへと向かうことにした。