123 ヒースバイソン狩り
他にもヒースバイソンを狩っているパーティーの姿があったので、俺たちは彼らの邪魔にならない場所まで移動して陣取ることにした。
幸いこのゲームはマップが広いので、現状狩り場に困ることはない。
「さすがにもうこっち側で狩りしてる人もいるんだな」
「そうだね。今日の時点でこっち側まで来れてるってことは、結構順調に攻略してる人たちだと思う」
「ヒースバイソン自体は狩りやすくて美味しいモンスターだから結構狩り場として人気があるんです」
「考えることはみんな一緒ということね。まあ馬が見当たらなかったから、ツアーはまだ終わってないパーティーみたいだけど」
「なるほどな」
さすがにツアーをのんびりしていたこともあって、俺たちのリードはすでに失われつつある。というかカインと話した時点で彼らはツアーを終えていたようだし、トッププレイヤーたちにはすでに追い抜かれていると考えていいだろう。
まあそれ自体はあまり気にしても仕方がない話だ。周囲を気にしてばかりいては、本当に大切なものを見失いかねない。焦ったからといって強くなれるわけでもないのだから。
何にせよ、俺たちは自分なりのペースで最善を尽くすしかないだろう。
「よーし、それじゃああっちのパーティーに負けないように全力で狩るよ!」
「そうね。見た感じこっちの方が装備の質は上だったし」
「何より私たちにはチトセさんの火力があるからね」
「おう、任せてくれ」
それでも同じ狩り場で戦っている別パーティーの存在は刺激になったようで、ハルカたちは対抗心を燃やしていた。まあこれくらいは当然の感情だ。
そうして俺たちはヒースバイソンの群れを一つずつ狩っていく。スナイプホークに見つからないように移動しながら、ハルカの指示に従って【投擲】で石を投げてヒースバイソンをおびき寄せる。
ちなみにこうやって遠距離からの攻撃で敵をおびき寄せることを「釣る」なんて言ったりもするようで、狩りの中ではよく行われることだった。俺もハルカに言われて、今までに何度かやったことがある。
現状【投擲】で石を投げてもそこまでダメージは与えられないけど、その方がむしろヒースバイソンから脅威に思われにくくて、キリカが簡単にターゲットを剥がすことが出来る利点もあった。
そうして俺たちはヒースバイソンとの戦闘を開始する。
ヒースバイソンは魔法も打ってこないし、状態異常攻撃もしてこない。ただ突進攻撃を警戒しておけば、厄介な攻撃も他にはなかった。
ただそれでもレベル的には格上のモンスターなので、気を抜けば一気にピンチになることもあるので、俺たちは集中しながら戦っていく。
「チトセ、一体抜けたわ!」
「ああ、見えてる……【石突き】!」
後衛目掛けて突進を仕掛けるヒースバイソンに俺はスタン効果のあるアビリティを叩き込む。
スタンしたからといって突進がその場で即座に止まるわけではないが、ヒースバイソンは足をもつれさせるようにして転倒した。
倒れたヒースバイソンに俺は追撃を重ね、確実に仕留める。
そうしている間にキリカが四体のヒースバイソンに囲まれていた。さすがのキリカといえどあの数に囲まれては盾でのブロッキングの成功率も落ちるようで、ハルカのヒールを受けながらもそこそこ体力を削られている。
「チトセさん、範囲魔法を撃つので――」
「よし、それなら俺がマコトに合わせるよ」
敵が一ヶ所に集まっているのでマコトは範囲攻撃魔法の【ファイアバースト】を詠唱する。確か敵を三体以上巻き込める場合は【ファイアバースト】の方がダメージ効率が良いという話だ。
ただ詠唱時間が長いのでその間に敵が移動するなど巻き込める数が安定しづらかったり、そもそも一気に大ダメージを与える関係で敵から脅威に思われたマコトがターゲットされることも起こり得るなど、扱いが難しいという欠点もある。
それでもパーティーでその欠点を補えるのなら、やはり魔法使いの一撃は大きな魅力に違いない。
状況を理解したキリカは敵のターゲットを一身に集めながら立ち位置を調整して、敵を巻き込みやすい状況を作ってくれた。
そして前に出た俺は【アタックチャージ】で自分の攻撃力をアップさせながら、マコトの攻撃直後のタイミングを見計らう。
「行きます! 【ファイアバースト】!」
「【ペネトレイト】!」
マコトの【ファイアバースト】に合わせて、俺も【ペネトレイト】で直線上に貫通する範囲攻撃を行う。
キリカの位置調整によって、全てのヒースバイソンに【奇襲】が乗った状態でヒットさせることに成功した。
そうすることでヒースバイソンが脅威と思う対象はマコトではなく俺になる、はずだった。
というのも残っていた四体のヒースバイソンのうち三体は今の攻撃で倒せてしまい、瀕死状態だった最後の一体もハルカの【シャイン】がトドメを刺して戦闘が終わってしまったのだ。
というかハルカはこの場面で回復魔法ではなく攻撃魔法を詠唱していたのか。まあ確かに敵を早く倒せばその分ヒールする必要はなくなるので、理にかなってはいるのかも知れない。
とはいえキリカの体力と敵の体力を考えながら、正しい選択をするのは相当な判断力が要求されるのは間違いなかった。これもハルカのプレイヤースキルなのだろう。
「うん、かなり良い感じだね」
「私とチトセさんでダメージは充分みたいだし」
「確かにこれなら範囲狩りとはいかなくても、もう少しまとめて戦っても大丈夫かもね」
三人娘は今の戦闘に手ごたえを感じたようで、次はもう少しヒースバイソンの数を増やしていく方針を立てた。もちろん俺としても異論はない。
そうして俺たちはその後もヒースバイソンを狩り続ける。
一度調子に乗ってヒースバイソンを集めすぎたせいでキリカが大量のヒースバイソンから大ダメージを受けて、慌ててヒールしたハルカが今度はヒースバイソンからターゲットされて追いかけまわされるといったハプニングもあったが、持ち前のチームワークで何とか切り抜けたりもした。
「いやー、死ぬかと思ったよ」
「さすがにちょっと無茶しすぎたわね」
「チトセさんが【ウォークライ】使ってから全力で逃げた機転がなかったら立て直せなかったよね」
「まあフレッシュイーターと戦ったときと同じで、時間さえ稼げばみんなが何とかしてくれると思ったからな」
何にせよここで全滅したら歩いて馬の回収に来なきゃいけないので、全員必死だった。
ただそんなハプニングさえ笑いに変えられるのはゲームの魅力だった。これが現実だったらこうはいかない。いやまあそもそも現実で命がけの戦いなんて起こることはないのだけど。
「でもキリカちゃんが耐えられるなら、範囲狩りも出来そうな火力があるって分かったのは収穫だね」
「まあそのためにはもっと狩りを頑張らないといけないけどね」
「大丈夫? 借金する?」
「しないわよ! ……まだ」
ハルカがそんな風にキリカをからかった。借金をしないと言い切れないキリカに、みんなが笑う。
やっぱり雰囲気の良いパーティーだよなと、そんなことを再認識しながら、俺たちはヒースバイソン狩りを再開する。
そうして今日の狩りが終わる頃には、充分すぎる数の牛の皮が集まった。