122 二人乗り
すぐにマコトも合流したので、俺たちは四人で狩りについて相談を始める。
「といっても私たちの今の装備とレベルだと、こっち側で効率よく狩れる場所ってそんなにないのよね」
「そうなのか?」
「まあキリカの言う通りだね。質より量の範囲狩りとかをやるには、さすがに格上のモンスター相手だと厳しいかな」
「なので狙う素材を絞って戦うモンスターを決める必要があるんですけど……今日はもうそんなに時間もないし、チトセさん向けに皮でも集める?」
「そうね。となるとチトセは次の装備を何にするか決める必要があるわけだけど」
「一応さっき着せ替えしたときにお兄ちゃんとその辺の話をしたら、素早さと攻撃力を上げてダメージ効率を上げるのがやっぱり理想かなって」
「それならやっぱり牛の皮かな?」
それだけの情報で俺が次に目指す装備をすぐに把握して必要な素材まで分かってしまうあたり、さすがに三人娘はゲームの知識が豊富だった。
ちなみにその装備はさっきダサいと言っていた黒い装備ではなく、普通にシンプルな見た目の装備だ。これならとりあえず着せ替えを考える必要はないので、お金なども節約できる。
「牛ということは、今日北側で戦ったヒースバイソンか?」
「そうだね。たださっきと同じでスナイプホークには気をつけなきゃいけないんだけど、今回はヒヨリとシャルがいないから慎重にヒースバイソンの群れだけ狙って戦う感じになるかな」
狩りの場合は効率的にも四人パーティーでの戦いが基本になり、六人いたさっきと比べると戦力や対応力で劣るので、あまり無茶は出来ないという話だ。
実際さっきの場合は敵の複数リンクに絡まれることも気にせず荒野の真ん中を突っ切っていたから、色んな種類の敵と同時に戦ったりしていたけど、今回は欲しい素材的にも戦う相手をヒースバイソンに限定することになるだろう。
「それじゃあさっそく馬を借りて行こうか」
狩りの方針が定まったので、俺たちはハルカの言う通りに厩舎で馬を二頭借りる。馬は二人乗りまで出来るようで、四人でまとまって移動するなら二頭で良いらしい。
「馬のレンタル料は安いのだけど、もしモンスターに倒されたりしたら弁償が結構大変なのよね。まあ馬の耐久力は結構高いから、滅多にないんだけど」
「そういえば私たちは一回もないよね、馬の弁償って」
「モンスターが馬を優先して狙うことはまずないからねー。敵の攻撃タイプ次第で巻き込まれる可能性はあるけど、逆に言えばそれだけ警戒すればいいし」
とはいえ守る対象は少ない方が楽なのは間違いないので、二頭で済むならそれに越したことは無いようだ。
ちなみに大柄な男性でも小柄な女性でも二人乗りで、三人以上が乗ると馬が動かなくなるというのがこのゲームでの馬の仕様らしい。
というわけで俺たちは二つのグループに分かれる。俺はハルカと同じ馬に乗ることになった。
「というかハルカ、俺が前でいいのか? 馬の動かし方とか分かってないけど」
「何事も経験だよ。というか凄く簡単だから、何も心配しなくて大丈夫だって」
ハルカがそう言うので俺が先に前に乗り、後ろに乗ったハルカが俺の腰に手を回した。
説明によると手綱を握って、あとは動かしたいようにイメージすれば動くという話だったが、イメージするという説明が曖昧すぎてよく分かっていなかった。
ただ実際に言われたとおりにしてみると、確かにイメージすれば動くとしか言いようがない感じで、凄く簡単に馬が動いてくれた。これは結構不思議な感覚だ。
「ね、簡単でしょ?」
「ああ、めちゃくちゃ簡単だな」
そのまま俺たちはそのまま厩舎の近くにあった出口から街を出て、北の荒野に向けて移動を開始する。
キリカとマコトが乗った馬が俺たちを先導するように走っていた。ちなみにあっちはキリカが手綱を握っている。金属鎧を着て馬を駆る姿は凄く絵になっていてかっこよかった。
一方、その後ろでキリカの背中に全力でしがみついているマコトは少しかわいい気がした。マコトはここぞという時の度胸はあるけど、基本的には怖がりだったりする。
そんなことを考えていると、ふと俺の腰に掴まっているハルカの力が強くなった。
「ん、どうした? もしかして怖いとか?」
「いやいや、マコトじゃないんだから。……ただ、しばらく見ない間にお兄ちゃん大きくなったなぁ、って思って」
「祖父ちゃんかよ」
「そこはせめてお祖母ちゃんって言ってよ」
俺とハルカはそんな風に軽口を叩きあう。ちなみにうちの祖父母は久々に会うと、どちらも必ずその言葉を口にしていた。
ただ実際ハルカの言う通り、俺の身長は高校に入ってから三センチ以上伸びたし、何よりトレーニングの成果で筋肉量もかなり増えている。退部したからといってそれがすぐに萎むわけでもない。
「というかゲームを一緒にやり始めてもう何日も経ってるのに、今になって気付いたのか?」
「いや、何となく気付いてはいたけどね。でもこうしてくっついてみると、やっぱり前とは全然違うし」
「まあ、かなり鍛えたからな」
そんな風に特に意味のない話をしていると目的地に着く。さすがに徒歩と比べると十倍以上速かった。
「それじゃあヒースバイソン狩りだけど、昼に戦ったから覚えてるよね?」
「ああ、耐久力は高いけど厄介な攻撃はしてこない、普通の動物系のモンスターだよな?」
「といってもレベル的にはまだ格上のモンスターには違いないから、油断はしないようにね。特に後衛にだけは敵が向かわないように」
「分かった」
そうして戦い方を確認してから、俺たちは荒野に生息するヒースバイソンの群れを探し始めるのだった。
そういえばKラノベブックスの創刊一周年記念ということで、本作の短編を一本書かせていただきました。
http://lanove.kodansha.co.jp/k_lanovebooks/first_anniversary/
もし良ければそちらの方も読んでいただけると幸いです。