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廃ゲーマーな妹と始めるVRMMO生活  作者: 鈴森一
第一章

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121 借金女王

 その後、俺たちは着せ替え屋でしばらく装備の試着をして遊んでいた。


 NPCからは試着室という広めの個室も借りられたので、他のプレイヤーとばったり出くわす心配もなくて、俺もハルカもかなりリラックスした雰囲気だ。


 最初は俺の装備をいくつか試していたが、最初にハルカに着せられた黒くてダサい装備以外は普通の見た目だったので安心した。


 実際にどの装備を次に選ぶかは性能を比較してから決めることになるけど、仮にダサい装備を着ることになっても着せ替えには困らないだろう。


「ねえお兄ちゃん、これとさっきのだったらどっちが良いと思う?」

「うーん、俺的にはさっきのロングコートみたいなやつの方がいいかな」

「あー、確かにあれデザイン可愛かったよねー。だとするとこのスカートに合わせるならロングブーツの方が――」


 そんなこんなで今はハルカの試着に付き合っている。


 ちなみに俺は全身の装備一式をまとめて着せ替えしていたので大して時間もかからなかったのだけど、ハルカは装備の一部分だけを変えて色々な組み合わせを試すので結構時間がかかっている。


 現実でもよく女の子の買い物は長いというけれど、あれはもしかしたら目の前の商品と家のクローゼットの中身を、頭の中で組み合わせながら選んでいるからなのかも知れない。


 しばらくそんな風に鏡の前で色んな服装をチェックしているハルカを眺めながら、時折飛んでくる質問に答えたりした。


「お兄ちゃんは結構はっきり意見を言ってくれるから助かるね」

「そうか? まあ役に立ったなら良かったけど」


 そうして試着を終えたハルカと着せ替え屋を出ながらそんな話をする。


 ちなみに俺とハルカは二人とも今回は着せ替えを行っていない。というのも実際の着せ替えはその装備を所持していないと出来ないからだ。


 逆に言うと装備を持ってさえいれば、それが消費されたりもしないので自由な組み合わせで着せ替えが出来るという話でもあった。


 もちろん着せ替えをするたびにお金はかかるのだけど。


「着せ替えはこだわるとお金がすぐ無くなるから注意が必要だね。見た目が良い装備は性能が悪くても市場での値段が高かったりするし」

「見た目が良い装備は欲しがる人も多いってことか」

「そういうことだね。あとこれはもう少し攻略が進んでからの話なんだけど、プレイヤーがデザインしたオリジナル装備とかもそのうち出回るようになるかな」

「オリジナル装備?」

「性能は初期装備と同じだから完全に見た目装備なんだけど、プレイヤーが好きにデザイン出来るんだよ。ただまあ普通にファッションデザインのセンスとか絵心なんかが求められるから、手を出す人は限られてるけどね」

「でも好きにデザイン出来るっていうのは面白そうだな」


 確かに言われてみればこれだけ自由度の高い世界なのだから、そういうことが出来ても全然おかしくはない。他にも絵を描いたりなんかも出来るようだ。


 ちなみにそれらの生産物に関してはゲームの運営側が定期的にコンクールを開くようで、そこで入賞したものはゲーム内で正式に販売されたりもするらしい。


 まあ俺の場合だと作るのは明らかに無理なので、誰かに作ってもらうしかないだろう。


「さて、それじゃあ次行こうか」

「次はどこに行くんだ?」

「厩舎だよ。さすがに活動できる範囲が広くなりすぎて、移動に時間がかかり過ぎるでしょ? だから乗り物を借りられるようにしときたいんだよね」


 ハルカが言うには、無理をしてでもツアーのクエスト攻略を急いだ一番の理由がそれらしい。


 確かにこのゲームはマップが広大なので、移動するだけでも結構な時間がかかる。リムエストの周辺だけならそれほどでもなかったのだけど、フェリック側に来てからはその傾向が顕著だった。


 風景を見ながら歩くのも楽しいのだけれど、狩り場やクエストの目的地に急いで移動したいときには、乗り物があると便利なのは間違いない。


 ちなみに借りられる乗り物は馬らしい。当然ながら馬なんて乗ったことはないのだけど、このゲームではプレイヤーが思った通りに動いてくれるので問題ないようだ。


「ゲームによっては馬の挙動なんかを無駄にリアルに作ってたりもするんだけど」

「それは何というか、色々大変そうだな」

「まあそういうのが好きな人もいるからね」


 そんな話をしているうちに厩舎に着く。街の隅の方に大きな敷地を確保しているだけあって、馬の数も何十頭いるのか分からないくらいだ。


 馬の貸し出しにはバッジとは別に登録が必要で、登録料やら何やら諸々で50kほど取られた。金銭的にはまだ余裕はあるけど、そこそこ痛い出費だ。


「あら、ハルカたちも来てたのね」

「あ、キリカ」


 俺とハルカが厩舎の登録をしていると、そこにタイミングよくキリカがやってきた。おそらく目的は同じだろう。


「ちょっと遅くなっちゃったから、みんなとっくに登録も終わって狩りにでも行ってるのかと思ってたんだけど」

「ちょっと着せ替えの試着して遊んでたから。ね?」

「ああ。装備も結構色々あって面白かったよ」


 どうやたキリカは夕飯に少し時間がかかったようで、再度ログインするのが少し遅くなったらしい。


「というかキリカ、登録料足りるの?」

「いくら私でもさすがにそれくらいはあるわよ」


 ハルカがからかうように言うと、キリカは苦笑いしながら答えた。キリカがいくら私でも、というのは俺にはよく分からないけど、二人の間で通じる何かがあるようだ。


 すると俺の表情を見たハルカがすぐに補足してくれる。


「あ、一応お兄ちゃんに説明しておくと、キリカは借金女王なんだよ。ベータテストでは最終的に1.5Mくらいの借金を抱えてたし」

「へぇ、そうなのか。キリカってしっかりしてるイメージだから、それは意外だな」

「……チトセ、前にも言った気がするけど、私ってそんなにしっかり者じゃないからね?」

「でもキリカの借金はしっかりしてるからこそ、って感じだったけどね。タンク役が柔らかいとパーティーの死活問題になるから、いつも最優先で装備の更新にお金をかけてたわけだし」

「それはまあ、私も無駄遣いをしたつもりはないけど……」


 何にせよ、それだけの額を貸してもらえるくらいには、キリカはみんなから信頼されていたことは間違いないだろう。


「でもそれだけの額、返すのも大変だったんじゃないか?」

「え? キリカは借金を返してないよ?」

「え? ……良いのかそれ?」

「あはは……いやまあ、良いか悪いかで言えば当然悪いんだけどね」


 俺の問いかけに対して、キリカは少し気まずそうに頬をかきながら、明後日の方向に目線を逸らした。


「一応みんな返ってこないのは分かった上で納得してキリカに貸してたから、問題はないんだよ」

「そうなのか?」

「うん。そもそもキリカがお金を借りてたのって、私やマコトを含めた親しい知り合いだけだったし、みんなキリカの装備が強くなることにメリットがあったんだよ。それにベータテストのお金は正式サービスに引き継げないって分かってたから、それならみんなキリカに投資して、少しでもベータテスト期間中に冒険出来る場所を増やして遊ぼうって考えた感じかな」

「そのかわり私はずっと借金ネタでいじられることになったんだけどね」

「なるほどな」


 それがキリカの借金女王という不名誉な二つ名に繋がった理由みたいだ。これも仲が良くて信頼できる仲間だからこその関係性なのだろう。


「ちなみにキリカにお金を貸してたのってハルカとマコト以外にもいるのか?」

「ええ、何人かいるわよ」

「その中で一番の出資者がミヤちゃんだよね」

「ミヤちゃん?」

「ミヤコっていう、私の大学の友達よ。まだ向こうの街で活動してるはずだからすぐに会うことはないと思うけど、機会があったら紹介するわね」

「ああ、うん」

「……何だか微妙な反応ね」

「お兄ちゃん、周りに女の子ばかりなのが気になってるんだってさ」

「ああ、そういうことね」


 ハルカの説明を聞いたキリカは、納得したといったような表情で俺を見る。


 そうして一段落ついたところで、ハルカが提案するように口を開いた。


「それじゃあせっかくだし、馬に乗ってどこか狩り場に行ってみようか」

「そうね。手が空いてそうならマコトにも声をかけてみましょうか」


 フレンドリストを見ると、ヒヨリはすでに街の外で何かをしているようで、シャルさんは市場でいつも通り素材を集めたり加工品を売ったりしているようだった。


 一方のマコトはフェリックの街の中にいるようなので、もしかしたら暇なのかも知れない。


 ということで俺たちは、さっそく使えるようになったばかりの馬を活用してみるのだった。


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