12 はぐれゴーレム
「さて、準備はおっけー?」
「ああ」
「私も大丈夫だよ」
ハルカの問いかけに俺とマコトが答える。
ちゃんと忘れずにマコトともフレンドになっておいたし、その他の準備も万端だった。
ただ俺たちははぐれゴーレムに挑む前に一つ、まずやっておかなければならないことがある。
それがハルカのレベル上げだ。
「確かハルカの職業はLv.3で【シャイン】っていう光属性の攻撃魔法を覚えるんだよね」
「へぇ、ヒーラーなのに攻撃魔法も使えるんだな」
「うん。まあマコトみたいな本職の魔法使いとかと比べたら攻撃力なんかは劣るんだけどね」
はぐれゴーレムは物理防御力がとにかく高いので、どうやら俺の槍ではダメージを与えられないらしい。
ということで今回は魔法攻撃が重要になるのだけど、さすがにマコト一人ではダメージが足りない。だからハルカが魔法攻撃を使えるようになっておく必要がある、という話だった。
「一応一人でも狩りはしてたから、もう少しなんだよね」
「じゃあ道中で見つけたモンスターを適当に倒していけばちょうどいいね」
ハルカの言葉にマコトがそう返す。特に異論もないのでその方針で街を出発することにした。
街の近くではやはり多くのプレイヤーが戦闘を行っていたので、もう少し先行ったところで戦闘を行う。
といってもほとんどは俺が近づいて槍で一突きするだけだったが。うん、この槍はやっぱり強い……はぐれゴーレムには役に立たないけど。
「チトセさん、だいぶこのゲームに慣れてきましたね。動きは最初から凄かったですけど、今は判断なんかも迷いがなくなった感じがします」
「ああ、マコトやハルカの教え方のおかげだな」
「まだまだお兄ちゃんには覚えてもらうことはいっぱいあるけどねー」
戦闘に関しては少し経験を積んだことで、判断がスムーズにできるようになったのは確かだった。
最初のゴブリン討伐の時なんかは、目の前にスタンして無防備なゴブリンがいるのに「どうすればいいんだ?」とかハルカに訊いていたくらいのド初心者だったけど、今の俺はそれなりにマシになっているはずだ。
ただハルカの言う通り知識の方は全然なので、まだまだゲーム初心者には違いない。まあそっちは少しずつ学んでいくしかないか。
「あ、今レベルアップしたよ、お兄ちゃん」
「お、じゃあもうモンスターは無視していいのか?」
「そうですね。ということなので、このまままっすぐはぐれゴーレムの湧き場所を目指しましょう!」
マコトはそう言うと俺たちを先導するように前に出る。はぐれゴーレム戦が楽しみなのか、心なしか楽しそうに見えた。
まあ今回の戦闘の主役は間違いなくマコトだから、その気持ちは分かる気がする。
とにかくそんなマコトのためにも、今回の俺は送りバントをするつもりでしっかりと囮役を務めないといけない。
「あ、見えましたよ、あれです!」
「あれがはぐれゴーレムか……ってでかいな」
見た感じ4m以上はありそうな岩の巨人だった。だから腕も長いし手も大きい。
攻撃範囲が広いという話だったが、たぶんそれも想像より一回り広い。
まあでも動きは遅いという話だったから、それなら何とかなるだろう。たぶん。
「それではチトセさん、私が【魔法陣】を展開したら戦闘開始でお願いします」
「ああ、了解」
ちなみに【魔法陣】というのはマコトがLv.3で覚えたアビリティだ。
足元に一定時間、半径1m程度の【魔法陣】を展開することが出来る。そしてその上にいるキャラクターは魔法の威力が上昇するという効果が得られるというものだった。
その上にいなければ意味がないので、特に遠距離攻撃出来る敵がいる場合は使いどころが難しいアビリティらしいが、今回はその心配もなく使えるのだとか。
「【魔法陣】、展開!」
「よし!」
その言葉を聞いて、俺は一気にはぐれゴーレムまで近づくと、そのまま槍で攻撃する。
しかし予想していた通り、俺の槍ははぐれゴーレムの岩の肉体に弾かれてしまった。確かに槍ではノーダメージのようだ。
ただダメージは無くとも、攻撃した俺にはぐれゴーレムの意識は向いたようで、はぐれゴーレムは俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。
はぐれゴーレムは右腕を大きく開き、それをそのまま横薙ぎに払ってきたので、俺は真後ろに跳んで回避する。
振り自体はそこそこ早いが、さすがにモーションが大きすぎるので回避自体は簡単だった。
「【ファイアボール】!」
「【シャイン】!」
そこに二人が魔法を叩きこむ。
そういえばマコトの【魔法陣】の上にハルカも乗っているけど、そうすれば二人ともに【魔法陣】の効果があるようだ。
確かにマコトの説明では「その上にいるキャラクター」ということだったので、よく考えればそういう使い方が出来るのも納得だった。……少し狭そうではあるけど。
しかしはぐれゴーレムは魔法を食らっても特に気にした様子はなく、そのまま次の攻撃を俺に向かって行ってくる。
今度は左右両方の腕を開き、手を叩くように挟み込んで攻撃してきた。
これも一回目の攻撃と同様に後ろに跳ねて避ける。
するとその直後、後ろでハルカが慌てたような声を上げた。
「お兄ちゃん! それ以上こっち来たらダメだよ、私たちが死んじゃう!」
「いや、そうは言うけど、攻撃範囲が広いから横に避けるのは難しいんだよな……ハルカらが動くのはダメなのか?」
「私たちが魔法陣の上から動いちゃうと、ダメージが足りなくて先にMPが無くなってしまうんです!」
「そういうことだからお兄ちゃん、あっち! あっちの方にはぐれゴーレムを連れて行って!」
ハルカはそう言ってはぐれゴーレムの向こう側を指す。
簡単に言ってくれるけど、それって結構厳しい気がするんだよなぁ。
「チトセさん、頑張ってください!」
「お兄ちゃんなら行けるよ! だからあっち行って!」
二人はそんな風に応援の言葉をかけてくる。いやハルカの言葉は半分怪しいが。
……というかハルカに「あっち行って」なんて言われたの、たぶん10年ぶりくらいだよな。
なんて、そんなどうでもいいことを考えながら、他に選択肢のない俺は仕方なくはぐれゴーレムに向き直るのだった。