115 フルメタルゴーレム戦
「何だかロボットみたいな敵だな」
「んー、ゴーレムを魔法で動くロボットって考えれば、まあ間違ってないのかな?」
俺の言葉に対して、ハルカはそんな風に答える。
ちなみにこのエリアボスはフルメタルゴーレムという名前だった。ゴーレムというのは魔法の力で動く人形のことらしい。前に戦ったはぐれゴーレムもその一つだ。
この大陸にかつて存在したという文明は、そうした魔法技術がかなり発展していたようだ。
フルメタルゴーレムの身長は二メートルくらいで、両手に剣を持っている。全身を覆う黒い甲冑には錆やへこみなどはないが、新品のように光り輝いているわけでもない。
とりあえずこのツアーで見てきたボスの中では一番小さくて、そこまで威圧感はないように思える。
ただ見た目と強さが一致しないことが多々あるのもゲームの特徴だったりするので、注意は必要だ。
「それで、このボスはどう戦えばいいんだ?」
「うーん、それが分からないんだよね」
「分からない?」
「ベータテスト時代にも色々試されてはいたっすけど、結局どのパーティーも攻略の糸口が掴めなくて、このボスの攻略は後回しにされていたんすよね」
「なるほど、そんなに厄介なボスなのか」
「まあ戦えば分かるわよ」
凄く軽い感じでキリカがそう言った。確かにそうかもしれない。それに俺たちの目的は別にエリアボスを倒すことではなかった。
目的はあくまで情報収集であって、フルメタルゴーレムの姿を見た時点で完了しているのだから、後は当たって砕ければ良かったりする。
ということで全員の準備が出来たことを確認してから、キリカが先陣を切る形で戦闘を開始した。
キリカの剣がフルメタルゴーレムの装甲を叩く。するとフルメタルゴーレムが構えを取り、直後に両手に持っている剣はビリビリと帯電し始めた。
キリカはフルメタルゴーレムの帯電した剣での攻撃を盾でブロッキングするが、ダメージと同時に麻痺の状態異常を受けてしまう。
「【キュア】!」
そんなキリカに対して、即座にハルカが状態異常を治療する魔法をかけた。どうやらあらかじめ想定していたようだ。
「【ヘビィアロー】」
「【アシッド】! 【ベノム】!」
「【ファイアボール】!」
その後、ヒヨリとシャルさんがデバフをかけたところに、マコトの魔法がダメージを与える。
それを見て俺もチャンスだと思い、【アタックチャージ】を発動してからフルメタルゴーレムの死角に回り込んだ。
「【パワースラスト】!」
見た目は固そうなボスではあるけれど、ダメージを見る限りフルメタルゴーレムの耐久力はスノードラゴンやフレッシュイーターといった、これまで戦ったボスと大きく変わらないようだ。
ただ攻撃力はかなり高い上に、麻痺の状態異常もかけてくるので、タンクとヒーラーは大変そうだった。
麻痺は放置するとキリカが行動出来なくなるので、盾による防御が出来ないどころか無防備な状態でのクリーンヒットで大ダメージを受けてしまう。
それを防ぐためにヒーラーの二人は連携しながら体力回復と状態異常の解除を分担して行っていた。
「……そろそろだね」
ハルカがそんな風に言って少ししたタイミングで、フルメタルゴーレムは両腕を交差させるようにして帯電した二本の剣を構えた。
そしてそれを振り抜くと同時に、雷撃が俺たち全員を襲う。
「くっ……」
その雷撃はあまりにも速くて、俺も目で追うのがやっとだった。ただ周囲全域を覆うような攻撃だったので、たぶん回避するのは不可能なのだろう。
俺が受けたダメージは三割程度で、そこまで手痛い攻撃でもない。雷撃はどうやら魔法攻撃のようで、マジックレザー装備の魔法防御力の高さが生きたようだ。
ただ被弾と同時に数秒のスタンを受けてしまい、その間は行動が出来なくなってしまう。
――そしてそれは、パーティー全員が同じ状態だった。
「キリカ!」
「ええ、分かってるんだけどね……」
俺は危険を察知して注意を呼び掛ける。さすがにキリカは俺が言うまでもなく、この危険な状況を理解していた。
理解していたけれど――スタン状態では何も出来ないのだ。
フルメタルゴーレムは行動出来ないキリカに剣を振り下ろす。その剣はもう帯電してはいなかったが、ダメージ自体は変化がないらしい。回避も防御も出来ず、クリーンヒットによる大ダメージを受けるキリカ。
一回、二回、そして――トドメの一撃。
雷撃によってヒーラーのハルカとシャルさんもスタンを受けているので、キリカを救うことは誰にも出来なかった。
キリカが倒されてからようやく動けるようになった俺たちは、それでも最後まで諦めずに戦うことにする。
俺はキリカの代わりにタンク役を買って出るが、フルメタルゴーレムの二刀流の攻撃は一発目を避けても追撃が早くて、完全に回避するのは難しい。
被弾しながらも何とかヒーラーの二人からヒールを受けて耐えていると、またフルメタルゴーレムは構えを取る。すると今度は両手に持った剣が炎を纏った。
直後の一発目の斬撃は避けるが、二発目を食らったことで、俺は炎上の状態異常を受ける。
炎上は継続的にダメージを受け続ける状態異常で、毒などに近い。ただこの状態異常の場合は、近くにいる味方にもダメージを与えてしまう他、火属性の攻撃による被ダメージが増加するという効果もあった。
つまりこの状態であの剣の攻撃を受けるのは危険ということだ。
「【キュア】!」
なので、すぐにハルカが状態異常を治してくれる。減った体力の方はシャルさんがヒールしてくれた。
そんな風に、キリカがいなくなってからも何とか戦線を維持していると、フルメタルゴーレムはさっきと同じように両腕を交差させて二本の剣を構える。
違うところがあるとすれば、剣が帯電しているのではなく燃え上がっている点だ。
「【石突き】!」
俺は剣が振り抜かれる前に【石突き】のスタンでフルメタルゴーレムの攻撃を止められないかと思って試してみたが、やっぱりというべきかスタン効果は無効化されてしまった。まあこの程度のことはみんなとっくに試しているだろうから当たり前か。
そうしてフルメタルゴーレムの剣が振り抜かれると、今回は炎の渦が俺たちに襲い掛かる。
今回の炎の渦はさっきの雷撃よりもダメージが大きい。というか、パーティーの中で一番魔法防御力が低いヒヨリはそれだけで瀕死に追い込まれていた。
さらに全員に炎上の状態異常が付与されている。ハルカはまずヒヨリの炎上の状態異常を解除して、同時にシャルさんが俺の炎上の状態異常を解除してくれる。今回は行動不能状態ではないので、そうしてヒーラーが対処することが出来るようだ。
ただそれでもマコトやハルカ、シャルさんの炎上状態は続いており、継続ダメージで危険な状態に追い込まれていく。
そんな中でもフルメタルゴーレムは炎を失った剣で俺に斬りかかってきた。一発目は回避したが、二発目はガードするので精一杯だった。
あと一発食らうと俺は倒されてしまうけど、継続ダメージを受けているハルカたちも満身創痍だ。俺をヒールしたらハルカたちが倒れてしまうし、かといって俺を見捨ててハルカたちの状況を立て直したところで逆転の目はない。
ハルカは俺のヒールを優先したが、その結果炎上の継続ダメージでハルカとマコトが倒れる。少しランクの高い装備をつけているシャルさんは何とか生き残り、自分の炎上を解除してからヒールを行っていた。
とはいえ、俺とシャルさんとヒヨリが生き残っているからといって、これ以上何が出来るわけでもない。
それから一分と経たないうちに俺が倒され、そのままパーティーは全滅してしまうのだった。