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11 独占

「あ、マコトいた。おいすー」

「おいすー。あ、こんにちは、チトセさん!」

「ああ、こんにちは。今日もよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします!」


 そんな風に挨拶を交わす。

 それにしても二人の間では「おいすー」で通じているんだな。どこか気の抜けた感じの挨拶でハルカの雰囲気には合っていたけど、マコトが言うとまた違った雰囲気で少しかわいい感じがした。


「今日もキリカちゃんは夜からしかログインできないみたいだね」

「うん、私の方にも連絡あった。明日から本気出すってさ」

「そうなのか。じゃあ今回は三人で何かするのか?」

「はい、そうですね。別に野良の人を混ぜてもいいんですけど、出来ればドロップを身内で独占したいので」


 そんな風にマコトは言う。

 俺はマコトの口から「独占」という言葉が出てきたので少し驚いた。


 ただよくよく思い返してみるとマコトは昔から負けん気の強い性格で、競争事では全力に勝ちに行くタイプだった。だからこそハルカとも上手く関係が維持できているのだと思う。まあ子供の頃はよく喧嘩もしていたけれど。


「それで今回はどんな敵と戦うんだ?」

「はぐれゴーレムです。ゴブリンの集落を迂回したさらに北側に一体だけ湧く特殊なモンスターで、倒すと確定で魔法石をいくつか落とすのですが、それがあると私は今よりかなり強い杖が作れるんです。だから二人に倒すのを手伝ってもらいたいな、と」

「ああ、魔法石! いいね、私も欲しいな」


 魔法石という言葉を聞いてハルカは目をキラキラと輝かせる。

 ハルカがそういう反応をするくらいだから、きっと価値のあるものなのだとは思うが、一応訊いてみることにした。


「それって珍しいものなのか?」

「うん、そうだね。魔法石はベータテスト期間の終盤でようやく供給が安定しだした感じで、ゲームが始まったばかりの今では間違いなくレアアイテムだよ。魔法職じゃないお兄ちゃんは今すぐ必要ないかも知れないけど、取引材料にもなるし持ってて損はないと思う」

「なるほどな。でもそんなアイテムを落とすってことは、そのモンスターって強いんだろ?」

「そうだね。物理防御力は超高いからお兄ちゃんの槍だと間違いなくノーダメージ」

「ただその代わり魔法は全属性が弱点なので、お兄さんがはぐれゴーレムを引き付けてる間に私たちが魔法で攻撃していけば、ダメージ量的にはすでに充分倒せるはずなんです……【アースシェイカー】さえなければですけど」

「はぐれゴーレムはあれがねー。LLOってVRでもダメージ受けた痛みはほとんどフィードバックされないけど、落ちる感覚とかはモロだから、そっちの意味でもダメな人がいたりもするし」


 訊いてみると【アースシェイカー】というのは、はぐれゴーレムのHPが一定以下になると発動する範囲即死攻撃だという。

 【アースシェイカー】を発動すると、はぐれゴーレムは両手を大きく上げて、一定時間後にそれを地面に叩きつける。すると戦闘しているプレイヤーは全員上空に打ち上げられ、そのまま落下して即死ダメージを食らい全滅するのだとか。


「私も一回食らったことあるけど、ジェットコースターみたいで楽しいよね」

「私はもう食らいたくないかな……」


 明るく言ってのけるハルカとは対照的に、マコトは心底嫌そうな顔をしていた。


「それってつまり、【アースシェイカー】の構えに入ってから発動するまでに倒せってことか?」

「さすがお兄ちゃんだね、その通りだよ」

「……今の俺たちの強さで出来るのか?」

「普通に考えると無理だね。ベータテストで最初に倒されたときはキャラクターレベル10くらいが平均の8人パーティーでギリギリだったとか言うし」


 じゃあダメじゃん。

 と思ったことが俺の表情に出ていたのか、すかさずマコトがどこか得意げな感じで言った。


「しかしチトセさん、実ははぐれゴーレムの【アースシェイカー】には攻略法があるんです!」

「攻略法?」

「はぐれゴーレムの【アースシェイカー】はスタンで止められるんだよ」

「あ、ハルカ! 私が言おうと思ったのに!」

「で、普通はスタン属性のある攻撃ってある程度レベル上がらないと覚えられないんだけど……お兄ちゃんにはもうあるよね?」

「……? ……ああ、【ウォークライ】か!」


 そういえば俺が持っているスキル【大声】には、アビリティの【ウォークライ】に短時間のスタンを追加する効果があると、昨日のゴブリン討伐で判明したのだった。


「【大声】と【ウォークライ】の件は掲示板でも話題になっていたのでスタンがあることは確定だそうです。ただ現時点でスキルの【大声】を取っていて、かつ【ウォークライ】も使える近接戦闘職という人はほとんどいないみたいで」

「つまり仮にスタンを使ってはぐれゴーレムを狩ろうなんてことを思いついても、それを実行出来るプレイヤーは私たちくらいってわけだね」


 なるほど、それで「独占」という話になるのか。

 いずれキャラクターレベルが上がれば誰でも倒せるようになるが、今このタイミングではぐれゴーレムを倒して魔法石を手に入れられるのは俺たちだけなのだ。


 魔法石は強い杖などを作るのに必要らしいし、それを手に入れられるということは他のプレイヤーに対して大きなアドバンテージになる。


「じゃあ今回の俺はひたすらはぐれゴーレムの気を引きつけながら、防御に専念すればいいんだな」

「まあ防御というか回避だけどね。はぐれゴーレムは攻撃力も高いから、当たり所が悪いとたぶんその装備のお兄ちゃんでも即死しちゃう」

「マジか」

「でも大丈夫だって、お兄ちゃんなら」

「そうですよ。チトセさんなら大丈夫です」

「信頼してくれるのは嬉しいけど、その根拠はどこから」

「んー、昨日の動きかな? というか昨日は気付かなかったんだけど、昨日って私一回もお兄ちゃんにヒール飛ばしてないんだよね」

「つまりチトセさんは、複数のゴブリンが相手だったのに一切ダメージを受けてないってことです」

「ああ……そういえば攻撃を食らった覚えはないな」


 というか今日も含めて、俺はまだゲーム内で攻撃を食らったことがない。

 まあ昨日に関してはきついところをキリカが担当してくれただけだし、今日は一方的に槍で格下のモンスターを倒していただけなのだけど。


「はぐれゴーレムは一体だし、体が大きくて攻撃範囲も広いけど動きは遅いから、ゴブリンの攻撃を全部捌けるお兄ちゃんなら回避に専念すれば余裕だよ」


 ハルカはそんなことを言った。確かにそう言われると、だんだんいけそうな気がしてくる。……まあたぶん上手くハルカに乗せられているだけなんだけどな。


「とりあえず死んでも失うものはないですし、軽い気持ちでやっちゃいましょう!」


 そんな風にマコトが元気よく言う。まあ確かに、それもそうだよな。

 軽い気持ちで手軽に大冒険が出来るのがゲームの良い所なのだ。仮に死んだとしても、それもゲームの一部だ。

 だったらせっかくのゲーム、何でも楽しんでいくべきに違いない。


 ということで、どこまでハルカやマコトの期待に応えられるかは分からないけど、やれるだけやってみることにしよう、と俺は思うのだった。


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