105 鬼ごっこ
まずグリムリーパーのターゲットを俺とキリカのどちらが担当するかという話になるが、キリカが今の装備で受けるのは無理そうだと言うので、俺が担当することになった。
本当なら入念に打ち合わせをしたいところだけど、戦闘は今も継続している扱いなので、グリムリーパーはすでに行動を開始している。
ただ幸い、グリムリーパーが最初に狙ったのは一番近くにいた俺だった。
グリムリーパーは空中を浮かびながら移動し、俺が大鎌の間合いに入ると、すかさず大鎌をなぎ払うように振る。
「おっと」
禍々しいオーラが全部一つに集まって体が大きくなった分、フレッシュイーターに憑依していたときよりも若干攻撃範囲が広い。
ただ振りの早さや攻撃後の隙は変わっていないようなので、これなら問題なく対処できそうだ。
そう思って俺は反撃を仕掛ける。ダメージは微々たるものだけど、遥かに格上のボスなのだから仕方ない。
後衛からもグリムリーパーに攻撃が飛んでいく。そうしてヒヨリやシャルさんが防御力を下げるデバフを入れたことで、少しダメージの通りが良くなった。
その後も何度かグリムリーパーの攻撃を回避しながら反撃して、全員でグリムリーパーの体力の5%ほどを削ると、不意にグリムリーパーが俺に手を伸ばしながら近づいてきた。
それを確認した俺はしっかりと回避行動を取るが――捕まってしまう。
これはどうやら確定で捕まってしまう回避不可能な行動らしい。おそらく以前戦ったビッグプラントの【捕獲】と同じタイプなのだろう。
そうして俺を捕まえたグリムリーパーはその手を俺の体の中に直接差し込むと、何かを掴んで抜き取った。
グリムリーパーの手には青白く光る球体がある。
「……もしかしてお兄ちゃん、魂抜かれた?」
「え、そんなのあるのか?」
「と、とにかく早く取り返さないとチトセさんが! ……どうなるんだろう?」
「それは、たぶん死ぬんじゃない?」
マコトの疑問に、軽い調子でキリカが答える。
まあ何にせよ魂が抜かれたまま放っておいて無事で済むとも思わないので、マコトの言う通り早く取り返さないといけないのは確かだった。
……よく分からないけど、とりあえず魂に触れば取り返せるんだろうか?
なんてことを考えているうちに、グリムリーパーは俺から逃げるように、どんどんと距離を取っていく。そうやって逃げていくということは、たぶん俺は追いかけなければいけないのだろう。
「まさかゲームの中で鬼ごっこすることになるとはなぁ……」
魂を抜かれた上に、それを取り返すための鬼ごっこが始まる。本当にゲームの世界は何でもありだ。まあ、だからこそ面白いのだけど。
――そうして、俺とグリムリーパーの鬼ごっこが幕を開けた。
「――いやー、惨敗だったねー」
全員で街に戻ってきたところで、ハルカは明るい声でそう言った。
「あれはおそらくですが、魂が体から離れている時間は累計で加算されているのだと思います。なのでチトセさんだけが魂を抜かれ続けると、すぐにタイムリミットが来てしまうのではないかと」
「でもそれだとソロとか少人数パーティーはどうなるのかしら?」
「もしかしたら魂が抜かれて大丈夫な時間をパーティーの人数で割ってるのかもね。仮に全体で600秒だとしたら、ソロだと1人で600秒だけど、6人パーティーだと1人100秒みたいな感じでさ」
シャルさんがそんな風にグリムリーパーとの戦闘を振り返って仮説を立てて、それについてみんなで話をしていく。
ちなみに俺たちとグリムリーパーの戦いは途中まで順調に進んでいたが、五回目の鬼ごっこが開始した数秒後に俺が突然死したことでパーティーは壊滅してしまった。
「何にせよ、チトセに頼り切ってクリア出来るほど甘くはないってことね」
「魂を抜く行動は、発動タイミングで一番近い人が対象になるって感じっすかね?」
「じゃあそのタイミングでチトセさんに離れてもらって、別の人が近づけば――」
気付くとみんなどこか興奮気味にグリムリーパーの攻略法について話し合っていた。
最近はこうした話も理解出来ることが増えてきたので、聞いているだけでも結構楽しかったりする。
「――それじゃあとりあえず、さっきと同じ感じでデスペナが終わるまで自由時間にしよっか」
そうして一通り話が終わったところで、ハルカがそう言った。どうやらみんなそれぞれすることがあるようで、バラバラの方向に歩いていくのが見える。
「……ちょうどいいタイミングだし、俺も少し市場を覗いてみるか」
今のマジックレザー装備からすぐに更新するのは無理かも知れないけど、アクセサリーの空いている枠を埋められるものくらいは手に入るだろう。
そう考えて市場に向かおうとすると、数メートル前方にシャルさんの背中が見えた。
せっかくなので声をかけて一緒に行こうかと思ったところで、別の方向から声をかけられる。
「チトセさん、市場に行くっすか? それなら自分がアタッカー向けの装備とかアドバイスするっすよ」
「それは助かるけど、ヒヨリはいいのか?」
「もちろんっす。それに、ちょっとチトセさんと話もしたかったんで」
俺に声をかけてきたヒヨリは、明るく笑いながらそんなことを言うのだった。