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104 フレッシュイーター戦3

本日書籍が発売されます。特典情報の方も活動報告に記載しました。もしよろしければお手に取っていただけると幸いです。

 ハルカとシャルさんが必死にヒールを行うが、キリカの体力はどんどんと削られている。防御アビリティを発動させている状態でそれなのだから、その効果が切れたらおそらくは一気に倒されてしまうだろう。


 少しずつ防御アビリティの効果切れの時間が迫る。


「【ファイアバースト】!」


 そのタイミングでマコトの二回目の範囲魔法攻撃が行われた。あと一回【ファイアバースト】が撃てれば、グールはまとめて倒すことが出来る。


 けれど詠唱時間が長い【ファイアバースト】の三回目を待つには、どう見ても時間が足りないようだった。


「お兄ちゃん!」

「チトセ!」


 キリカの防御アビリティの効果時間が終わる直前に、ハルカとキリカが俺を呼ぶ。

 それは一度きり、文字通り「最後の賭け」の合図だ。


「【ウォークライ】!」


 俺はすかさず敵全員の注意を集める効果を持つ【ウォークライ】のアビリティを発動させる。


 するとキリカを襲っていたグール九体に、ヒヨリが引き付けていた一体、そして元々俺が戦っていたフレッシュイーターも含めて、エリア上にいる全ての敵が俺に向かって一気に襲い掛かってきた。


 さすがにそれを全部回避しきるのは不可能だ。かといってアタッカーの俺にはキリカみたいに敵の攻撃を受けられるだけの耐久力もない。


 そんなことはパーティー全員が理解していた。

 だからこの【ウォークライ】の狙いは、それとは別のところにある。


「【ウォークライ】!」


 タイミングを見計らって、今度はキリカが【ウォークライ】を発動させた。

 すると俺に向かって来ていた敵の全てが、またも進路を変更してターゲットをキリカに定める。


 これは通称「シャトルラン」と呼ばれるテクニックらしく、距離の離れた二人が【ウォークライ】を交互に使用することで、モンスターのターゲットを連続で変更して右往左往させるものだという話だ。


 とはいえ今は【ウォークライ】が五分に一回しか使えないので、実質一度きりで稼げる時間もそんなに長くない。


 俺たちが狙ったのは、そんなわずか数秒の時間稼ぎ。

 けれどその数秒でハルカとシャルさんはキリカの体力を回復出来ているし、マコトは【ファイアバースト】の詠唱を進められている。


 問題があるとすれば、フレッシュイーターのターゲットもキリカに変更されてしまった点だけど――。


「――お前の相手は俺だろ」


 俺に背中を向けたフレッシュイーターに、俺はこの戦闘でまだ使用出来ていなかった【奇襲】の乗った攻撃を叩き込む。


 ターゲットの選択基準はモンスターごとに違うけど、フレッシュイーターやグールは動物型モンスターのようで、単純に近くにいる脅威度の高いプレイヤーを狙う場合が多い。


 なのでキリカにターゲットを変更したフレッシュイーターも、より近くにいる俺が大きなダメージを与えて脅威となるなら、再度俺をターゲットにするのだった。


「【ファイアバースト】!」


 そうしてキリカの元に集まったグールたちを、マコトが範囲魔法で一気に焼く。


 一体だけ生き残りがいるが、あれはヒヨリが引き付けていたグールだろう。とはいえさすがに一体だけなら問題が起きるはずもなく、みんなから集中砲火を受けてすぐに倒された。


 十体のグールが倒されたことで、今までと同じようにフレッシュイーターの体力が削られる。残り僅かだったフレッシュイーターの体力は、それによってついに尽き果てた。


「――――ッ!」


 声にならない絶叫と共に、フレッシュイーターが崩れ落ちる。


「……あれ、もしかしてこれで終わりか?」


 まだ誰も倒したことがないエリアボスという割には、やけにあっさりしているように感じた。


「そうだったら良かったんだけどね……実はここからが本番だったりして」


 ハルカがそう言うと同時に、フレッシュイーターの纏っていた禍々しいオーラが、空中の一ヶ所に集まっていく。


 そしてそれは徐々にフードを被り大鎌を持った死神の形に変化した。


 ……なるほど。どうやらこっちがボスの本体というわけらしい。


 ようやく攻撃対象に出来るようになったそのモンスターの名前はグリムリーパーと表示されている。


「それで、こいつはどういう方針で戦うんだ」

「えっと……あはは」


 俺が質問すると、ハルカは突然笑って誤魔化した。


「すみませんチトセさん。実はここまでたどり着けたプレイヤーが少なすぎて、まだ攻略情報がないんです」

「最前線の攻略組は一番乗りを競っていたから、さすがに重要な情報は秘匿しているのよね」


 そう言ってキリカはちらりとヒヨリを見る。


 ヒヨリは最前線の攻略組でも一番有名なクランの元メンバーだったので、何か知っている可能性はある。

 ただもちろん情報を知っていても、それを勝手に公開することは出来ないだろう。


「あー、というか自分はクランのボス攻略メンバーではなかったので、詳細は全然知らないっす」

「え、ヒヨリほどの腕でレギュラー落ちするのか?」

「まあ≪LF≫はトップクランっすからねー」


 俺はヒヨリがボス攻略のメンバーじゃなかったという事実に驚いて問い直すが、ヒヨリ自身は飄々と答えた。


 ただそのヒヨリの言葉には少し皮肉のニュアンスがあるように俺は感じる。少し気になるけど、あまり詮索すべきことでもないだろうし、それに今はそんな時間もなかった。


「それじゃあ何が起きるか分からないけど……やれるだけやってみようか」


 ハルカがみんなにそう声をかけたことで、グリムリーパーとの未知なる戦いが幕をあけるのだった。


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