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100 【罠察知】

 六人パーティーということもあって、俺たちは特に苦戦することもなくブレビア湿原の先にあるブレビア森林に到着する。パーティー人数超過のペナルティで経験値やドロップアイテムの得られる効率は落ちているが、それでも全く入らないわけではなく、雪山の分も合わせてようやく俺のレベルは17に上がった。


 ちなみにこの先の森林エリアは湿原とは違い、足場が普通の地面なので素早さが低下したりはしないようだ。ただし敵となるモンスターは一回りも二回りも強い上に、湿原同様に状態異常攻撃などを中心とした厄介な攻撃パターンを持っているので、気を引き締めないとエリアボスにたどり着く前に全滅する危険性もあるとのこと。


「一応お兄ちゃんに教えておくと、このエリアはベータテスト時代から両極端な評価を受けてたんだよね」

「両極端?」

「他の同レベル帯のエリアと比べても狩りの効率は圧倒的に良いけど、安定して狩りをするためには周到な準備と的確なメンバー選択が不可欠だったのよ」


 ハルカの言葉に対する俺の疑問にはキリカが答えてくれた。


 まずこのエリアの敵は状態異常攻撃が豊富なので、それを回復するための準備が必要になる。


 普段であればヒーラー役がその役割を果たすが、ここだとそれだけでは足りないため、全員が状態異常の回復薬を充分な数用意しておかなければならなかったという話だ。


「えっと、俺は毒消しが少しあるだけなんだけど」

「あ、今回はヒーラーが二人いるのでチトセさんは気にしなくて大丈夫ですよ。それにまっすぐ突っ切るだけで、長時間狩りをするわけではありませんので」

「必要だったらさすがに自分も出発前に言うんで安心してくれていいっすよ」


 俺のその言葉は予想済みだったのか、マコトとヒヨリはそんな風に補足して俺の心配を取り除いてくれる。


 ちなみにメンバー選択の中でほぼ必須とされたのは【罠察知】のパッシブアビリティを持っている職業らしい。


 回復薬などをしっかり準備した上で、ちゃんとしたパーティー構成であれば、他の狩り場を軽く凌駕する効率を叩き出すことが出来る。


 両極端な評価というのはおそらく、その高い効率の恩恵を受けられたプレイヤーとそうでないプレイヤーによるものなのだろう。


「なるほどな。……ちなみにここの敵をソロで狩るってのは可能なのか?」

「うーん、適正レベル相当の装備でも結構難しい印象っすね。やっぱりこういうタイプの敵を狩るには殲滅力が命なんで」


 ヒヨリによると、敵を倒すのに時間がかかるとそれだけ多くの状態異常を受けるし、毒などの継続ダメージによる被害も大きくなる。


 つまりソロで狩るなら他の狩り場に行った方が効率がいいので、あまりこの狩り場にソロで来るプレイヤーはいなかったらしい。


「だから一人を除いては、ソロでここに狩りに来てた人というのは見たことないっすね」

「一人?」

「あ、私です」


 そういってシャルさんは小さく手を挙げて名乗り出た。シャルさんによると、ブレビア湿原とブレビア森林は毒などを扱うモンスターばかりなせいか、錬金術師が欲しがる怪しげな素材を多く落とすのだとか。


 ちなみにシャルさんの狩りの戦術は、ベータテスト当時での最高レベルの装備を全身に揃えた上で、敵に継続ダメージ魔法を全部叩き込んでから、睡眠薬を【投擲】して眠らせるというものだったらしい。


 これは、通常であればダメージを与えると睡眠の状態異常は解除されるが、先に敵に付与されている継続ダメージでは睡眠は解除されないというゲームの仕様を利用しているのだとか。


「自分は安全な状況で、敵が苦しみながら死んでいくのを眺めるのが楽しくて……なんて、冗談ですよ?」


 真顔で怖いことを言うシャルさんに主にマコトあたりが引き気味だったので、シャルさんはニコリと笑って冗談であることを後から強調した。


 もちろんそれで「なんだ冗談かー」となるほど単純な人間はこのパーティーにはいないのだけど。


「そういえば【罠察知】のパッシブアビリティが必須とかいう話もしてたけど、そっちは?」

「それはハンターのヒヨリが持ってるから問題ないよ」

「一応チトセさんと周回した『打ち捨てられた墓所』でも地味に活躍してたアビリティだったりもするっすよ?」


 そう言われてみれば、確かにあのときヒヨリは俺に罠の存在を教えてくれていた。


 俺はさすがに他人の職業のアビリティまでは把握できていないけど、誰が何を得意としているのか程度は、そろそろ把握しておいた方がいいのかも知れない。


「ちょうどいいからお兄ちゃんには今説明しちゃうけど、この森は踏むと胞子を飛ばして状態異常にしてくるキノコなんかが土や落ち葉に隠れてるんだよ」

「つまり、見えないけど踏むなと」

「そういうことだね」


 とはいえ【罠察知】のアビリティを持っているヒヨリでなければ罠の存在を見破るのは困難らしいので、迂闊に動き回らずとりあえずヒヨリの言葉に従っておけば問題ないらしい。


「そういえば当時から気になってたっすけど、シャルさんってこのエリアの罠はどうしてたっすか? あ、別に答えたくなかったら答えなくていいっすよ」

「えっと、それは秘密です」

「さすがにそうっすよねー」


 ヒヨリはそんな風にシャルさんへ質問したが、シャルさんは口元に指を一本立てて、いたずらっぽく笑いながら秘密だと言った。


 その答えはヒヨリも予想していたようで、特に気にした様子もなく明るく応じている。


 そのヒヨリとシャルさんのやりとりを聞いて、俺の中には一つの疑問が思い浮かんだ。


「ちなみにだけど、もし今回ヒヨリが参加していなかったら、ハルカたちはどうするつもりだったんだ?」

「そんなの、ゴリ押しに決まってるよね?」

「そうね」

「それが結局一番早いですから」


 俺の疑問に対して、三人娘は何の躊躇もなくそんな単純明快な答えを返す。


 別に頭が良いからって、いつも頭を使わなければいけないわけではない。工夫をしてもしなくても、それは一つのスタイルとして許容される。


 そんなハルカたちの自由なゲームへの姿勢と、それを受け入れてくれるゲームの世界は、俺にとっても分かりやすくて心地のいいものに違いなかった。


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