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1 キャラメイク

「――と、キャラメイクの説明はこんな感じだけど、お兄ちゃんいけそう?」

「ああ、おかげで何とかいけそうだ」

「サービス開始まではログインできないけど、キャラメイクと動きの確認は出来るから、時間までにやっておいてね。初期スキルは凄い数あって悩むかも知れないけど、ベータテストとは効果が変わってるかも知れないし、必須って感じのスキルも特になかったから、趣味と直感で選んじゃっていいよ」

「おう、任せとけ」

「それじゃあまた後でゲーム内で会おうね」


 そう言って妹のハルカは俺との通話を終了する。

 俺は早速ハルカに説明された通りにVRゲーム機を装着して、VRMMO『Lost Legend Online(通称LLO)』を起動した。


 ちなみにこのVRゲーム機とLLOのソフトはハルカから突然送られてきたものだ。「お兄ちゃん、暇なら一緒にゲームしようぜい」とだけ書かれた手紙と共に。


 言っておくと俺はゲームで遊んだ記憶はほとんどない。というのも俺は小学校の頃から野球が好きで、ずっと野球漬けの生活を送ってきたからだ。それが高じて中学時代のリトルシニアで全国ベスト4になったこともあり、ある強豪の高校からスカウトされスポーツ推薦で入学した。

 実家を離れて寮生活が始まってからは、さらに野球に熱中した。ピッチャーの俺は一年生の段階でエースの座を勝ち取り、気付くとプロのスカウトからも注目されるようになっていた。

 そんな順風満帆な野球人生。本当に野球が楽しかった。日々の練習で確実に野球が上手くなっているという実感が、だから疲れさえも忘れさせて俺を練習に駆り立てた。


 けれど、それが良くなかったのだと思う。

 ずっと酷使を続けてきた俺の右肩の爆弾は、ある日突然、何の前触れもなく爆発した。

 いくつも病院を回ったけれど、診断結果はどこも同じ。再起不能の大怪我だった。


 選手生命を絶たれた俺は色々考えたが、結局は野球部を辞めることにした。

 幸い公傷扱いということで退部してもスポーツ推薦で貰った特権(授業料免除や寮の一人部屋など)はそのまま卒業まで継続されるという話だったが、実際のところどうでも良かった。

 これまでの人生の半分以上の時間を捧げてきた野球がもう出来なくなったショックが大きすぎたのだ。


 そうして退屈な日々を送っているところに、送られてきたのがVRゲーム一式とハルカらしい軽い感じの手紙だった。

 多分親から俺の今の状況を聞いて、ハルカなりに心配してくれたのだと思う。


 一つ年下のハルカは俺とは違い極度のインドア派だった。昔から趣味は正反対だったが、不思議と兄妹仲は良い。

 といっても俺は年末年始ですら実家に帰っていないので、もう一年以上顔を合わせていないのだけど。

 そういえばハルカも今年で高校生になっているはずだ。少しは大人っぽくなっていたりするんだろうか。


 何てことを考えているうちに、ゲームの世界観を説明するムービーが終わっていた。

 VRMMOというだけあって、ファンタジー世界を現実として完全再現している雰囲気。


「なるほど、これがゲームか」


 確かにこれは凄い。ハルカが俺に薦めてくるのも納得できるクオリティだった。

 ちなみにハルカが言うにはこのLLOというゲームは日本中のゲーマー達がずっと待ち望んでいた大作らしい。


 そんなことを考えているうちにキャラクターメイキングが始まる。


 目の前には俺そっくりの人間がいた。

 これはアバターというものらしい。何でもゲーム内での俺そのものだという。


 現状は機械がスキャンした俺のコピーを初期アバターとして登録している状態。

 ここから細かく容姿をいじって自分好みのキャラクターデザインに作り替えていくのだ。


 キャラクターは現実に寄せた容姿でもいいし、全くの別人に変えてしまってもいい。

 それはプレイヤーの自由だとハルカは言っていた。


 まあ俺の分身というなら、あまり大きく変えるのは何となく気乗りがしなかった。

 ただこのままだと現実の顔バレに繋がるので、少しは変えるようにとハルカにはアドバイスされている。


「……とりあえず髪型を変えてみるか」


 ちなみに今の俺は坊主頭だ。

 うちの野球部は頭髪自由だったが、昔から俺は自主的に坊主頭にしていた。というか部員のほとんどがそうだった。


 別にそれは同調圧力とかではなくて、単に髪が長いと練習で砂とかが髪に絡んで、風呂で頭を洗うときに苦労するという、実体験に基づく合理的判断の結果だったりする。

 あまりオシャレに興味のある人間がいなかったというのも、まあ事実なのだろうけど。


 とりあえず俺は髪の毛を伸ばしてみる。


「おお、これだけで結構印象変わるな」


 ついでに色もいじってみる。明るい茶髪にしてみると、他はどこもいじっていないのにかなりチャラい感じになった。

 せっかくだし、この方向性でキャラクターを作ってみるか。


 俺はそのままチャラい雰囲気に合わせて、浅黒く日焼けしている肌の色も一般男性くらいまで白くしてみた。


 その後は細かい設定を使って微調整していくと、根本はほとんどいじっていないはずなのにチャラい雰囲気のモテ系男子風のキャラクターが完成していた。


 パーツはほぼいじってはいないのだけど、普段の俺からは想像も出来ない風貌なので、現実の顔バレを防ぐという目的はこれで充分達成されているだろう。


 それにしても、普通に生きていたら俺がこんな見た目になることは、今後もたぶんないはずだ。


「いいな、面白い」


 これもゲームならではの体験だ。


 外見の設定を終えた俺は、次にゲームの攻略に関わる設定を進めていく。


 まずは職業。

 これがLLOにおける、キャラクターの最大の特徴を決定づけるらしい。


 職業自体もかなりの数があり、戦闘系、採集系、生産系といった大きな枠組みの中でもかなり細かく分けられているらしい。

 ただLLOでは戦闘系の職業じゃないと戦闘が出来ないわけでもなく、その逆もまたしかりだという。


 例えばベータテストの最前線を攻略していたパーティーには普通に採集系の採掘師や生産系の画家が混ざっていたらしい。

 LLOはプレイヤーの操作技術や工夫などが攻略の大きな割合を占めていて、戦闘職で得られるステータスやスキルはあると便利だが、必ずしも必須というわけではないのだとハルカは言っていた。


 まあ俺はゲーム自体をほぼやったことがないので、ハルカの言っていたことの半分も意味は理解できていないのだろうけど、重要なのはどの職業を選んでもゲームプレイが制限されることはないという事実らしい。


 まあだからハルカは俺に職業は好きに選んでいいと言っていた。どれを選んでもフォロー出来るようにするとか何とか。


 とりあえずそういうことらしいので、俺は職業を眺めながら、ピンとくるものを探す。

 ファンタジー世界だけあってスポーツ選手という職業はさすがに存在しなかった。


 せっかく壊れた右肩が違和感なく万全に動かせるゲーム世界なのだから、どうせなら体を動かす職業が良い。

 現実には存在しないファンタジー世界特有の魔法というのも面白そうではあるけれど、俺にはそれがどういうものなのかあまり想像できないのもあって、あまり楽しくなかったら悲惨なので確実に楽しめる方を選びたい。


 しばらく悩んだ俺は、野球のバットを振るのに慣れているのもあったので近接武器を扱う職業に絞り、最終的に戦闘系の槍術士を選んだ。

 説明を見る限りでは片手槍と盾を装備して防御的にしたり、両手槍を装備して攻撃的にしたりと、プレイヤーの好みでカスタマイズ出来るらしい。

 あと他の近接武器よりリーチが長いので比較的初心者でも安全に立ち回りやすい武器となっていた。まあその分攻撃時の隙が大きいという欠点もあるようだけど。


 次に俺はキャラクターに与えられる初期スキルの選択をする。

 500個以上用意されている初期スキルから、最初に5つ選べるらしい。

 これもキャラクターの個性になって、同じ職業でも得意な行動が変わってきたりするのだという。

 ただゲームを進めていけば新しくスキルを覚えることも出来るらしく、仮に変なスキルを選んでも別に取り返しがつかなかったりはしないのだとか。


 だからスキルも趣味と直感で選んでいいとハルカに言われている。

 ただ本当にそれでいいのかと少し思ったので、一応色々とスキルをチェックしてみることにした。


 しかし何というか、500種類以上はさすがに多かった。それにスキルの説明も、ゲーム初心者の俺にはそれが強いのか弱いのか判断できない。

 困ってしまった俺は結局ハルカの言葉に従う形で、スキルも職業と同じく適当に選ぶことにした。


 ゲームにおいて、このキャラクターは俺の分身ということになる。

 それなら俺が得意なことをスキルとして選んでしまえば、より俺の分身らしくなるのではないだろうか。

 そんな風に考えて、俺は選ぶスキルの方針を定める。あとはそれっぽいスキルを探すだけだ。


 そうして少し時間はかかったけど、何とか5個、現実の俺が得意なことでスキルを選ぶことが出来た。


 すると最後に、キャラクターの名前を決めるように言われる。

 まあ俺の分身ならそのままでいいだろう。

 そう考えて、本名の千歳をカタカナにして入力する。


 ――チトセ。


 こうしてVRMMOの世界を生きる、もう一人の俺が誕生した。

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