死に際
ガタンゴトン...ガタンゴトン....
電車の音が僕に近づいてくる。
物凄く近くて、まるで僕の真横にいる様だ。
僕の目の前には駅のホームがあり、たくさんの人が立っている。
やっぱり休日の連休初日だもんな。みなさん何所かにお出かけかな。
でも、何で僕の方を驚いた風に見ているのだろう?
あれ、それより何で僕はゆっくり後ろに倒れてるんだろう?
あれ?あれ?何か電車のヘッドライトが近づいてくる。
あれ?あれ?あれ?あれ?
ブシャーーーーー
僕は電車の下で電車が僕の上を通り過ぎていった。
あれ?おかしいな。意識が、視界が、感覚がなくなってゆく.....
僕、新庄 無逢はゴールデンウィークの初日に東京駅の1番線ホームで死んだ。
どうしてこうなったのか?
今思い出してもくだらない.....
20分前、僕は駅のホームのベンチにて一人の女の子を観察していた。
名前は神崎 美代。学校一の美少女と呼ばれる美少女だ。
でも、僕がその子をつけていたのは僕がストーカーだからでも、惚れてるからでもない。
僕の”人間帳”に加えるためだ。”人間帳”とは僕の趣味の人間観察の結果を記録するノートだ。そこにはたくさんの人間の名前、性別、生年月日から知られたく無い事、好意を持つ人間のタイプ、本人すらも知らないくせや習慣などが書いてある。
そして今回その人間帳の次のターゲットが神崎 美代なのだ。
もうすでに大体のデータを記録してあり、最後の仕上げをこのゴールデンウィークの間に仕上げてしまおうという計算だった。
しかし、人間観察というもの以上に面白いものはこの世に無い。何だって人間の本性を見つけ出せるのだから。
今回のターゲット神崎 美代に関しても同じことが言える。
彼女は学校で華やかで純真な女の子を装っているがそれは偽の顔。
本当の彼女は週末に男とラブホに行くようなビッチなのだ。
はあ、何て面白いんだ。
人間の化けの皮を剥ぐのは。
そんな事を思い口を歪めて笑った。
それがいけなかった。警戒心を一瞬でも解いてしまった。
僕が顔を上げると神崎 美代が僕の方を指差し何か必死に叫んでいる。
「ストーカー!!いや〜ストーカー!!」
「は?」
僕はいつの間にか神崎 美代にストーカー扱いされていた。しかも、それを信じ込んだ駅員さんや駅のホームにいた人が僕をものすごく怖い目で見ている。
「へ?違います僕ストーカーなんかじゃないです!!」
「じゃあその手に持ってる本は何ですか?」
「へ?こ、これは僕の宝です」
こ、この女。俺のノートを見せろといってきやがった。
僕はよろよろと立つと階段の方にゆっくりと歩き出した。
が、そこにはたくさんの人がいて僕の行く手を阻む。しかも、僕の方に駅員さんが歩きよってきた。
「ちょっとそこの君。ノートを見せなさい!」
「いやです」
僕はそう言うとよろよろと後ろに下がり始めた。
「渡しなさい!」
「いやです。僕のノートに触らないで下さい」
「いや渡せ!」
駅員さんはものすごい剣幕で僕に迫ってくる。その速度に合わせ僕も後ろに下がる。
「渡せ!」
「いやです」
「この!」
駅員んさんはついにしびれを切らし僕のノートの端を掴みとった。僕は驚いてノートの反対側を掴むと思いっきり引っ張った。
それは本当に一瞬の出来事だった。
僕が力一杯引くと駅員さんのはめていた手袋が取れて僕はバランスを崩して後ろに倒れ始めた。
やばい!そう思った時には時もう遅く。
僕は電車に当たって死んだ。
でも、僕に一つだけ幸福があったとしたら、それは死ぬ時も”人間帳”と一緒に死ねたことだろう。
本当に良かった。