冬休みの恋人
※ちょいエッチなので、中盤では少し覚悟したほうがいいかもしれません。
「明日からお父さんとお母さん旅行に行くから留守番よろしくね!」
冬休みに入って間もない頃、両親が突如家を空ける事になったので僕、綾小路隼人は速攻で恋人である岩崎貴博に電話をした。
せっかくの休みだから泊まりに来ないかと誘うと、二つ返事でOKをもらった。
昼に駅まで迎えに行くと約束をして電話を切った後で、両親が家にいないという事を伝え忘れた事に気付いたが、まぁ気にしなくてもいいだろう。
※ ※ ※ ※ ※
「綾小路先輩!」
駅の改札から少しだけ離れた所で待っていると、改札から出てきた貴博が小走りに近づいてきた。
肩から下げている鞄は少し大きめで、どんだけ荷物持って来たんだよ、と思わず苦笑いする。
僕の所まで走ってきた貴博は行儀よく一礼すると、「今日からお世話になります」と挨拶してきた。
まったく、相変わらず気まじめな奴だ。
「行く前に、お昼食べようか」
「はい」
昼食の用意はしていなかったので、駅前のファストフード店で済ませる事にした。
こんな所で時間を取られるのも何だかもったいないので手早く済ませ、貴博を急かして家へと向かう。
僕の家は初めてだからか、少し緊張しているみたいでさっきから貴博は口数が少ない。
こっちから何か話しかけるべきだろうかと考えていたその時、ぽつりぽつりと空から雨粒が落ちてきた。
全然気付かなかったが空は灰色の雲で覆われており、雨がアスファルトを容赦なく濡らしていく。
「げっ。貴博、傘持ってる?」
「な、ないです」
「仕方ない、走るよ!」
自分のよりもずっと細い腕を掴んで走り出すと、後ろで「わぁ」と間抜けな声が聞こえた。
突然走り出したから驚いたんだろうが、止まる訳にはいかない。家まではまだ距離がある。
そのまま貴博を引っ張って全力で走ったが、その甲斐なく僕も彼もずぶ濡れになっていた。
「はぁ……酷い雨でしたね」
全力で走ったからか、あまり体力の無い貴博は息を切らして苦しそうにしている。
貴博を玄関で待たせ、僕だけ一旦上がって風呂場までタオルを取りに行き、急いで戻る。
面倒だが、濡れた床は後で拭けばいいだろう。
それよりも今は、濡れた体をどうにかしなければ。
「ほら、これ使って」
「すみません。ありがとうございます」
鞄を下ろして僕からタオルを受け取った貴博は濡れた髪を拭い始めた。
僕も床を拭かないと、とか、風呂沸かさないと、などと思いながら髪の毛をガシガシと拭っている時にふと、貴博の姿に視線が奪われた。
水を含んだシャツが彼の肌にぴったりと吸いついており、柔らかい髪は毛先からはぽたぽたと雫を垂らしている。
雨で濡れた唇は寒いのか、小刻みに震えている。
ごくり、と口内に溜まった唾液を飲み込むと同時に、僕は貴博の肩に手を置いた。
「綾小路先輩、どうかし、んっ!?」
まだ充分に拭われていない貴博の身体を壁に押し付け、そのまま口づける。
突然のキスに驚いたのか貴博はびくりと体を震わせ、それからペチペチと僕の腕を叩いてきた。
そんな抵抗は無視して執拗に甘い唇を吸いながら、濡れている貴博の肩から背中を掌でなぞる。
小さく震える身体を自分の身体と壁の間に閉じ込め、噛みつくように何度もキスを繰り返した。
「ぁ……綾小路先輩っ、だめっ……」
僅かに唇が離れた隙に漏れた貴博の『だめ』という言葉に思わずムッとする。
僕とのキスが好きなくせに嫌がる事はないだろう。
そう思いながら首筋に軽く歯を立てると、貴博の身体がビクッと震えた。
驚愕で見開かれた瞳が僕を捕らえたかと思うと、貴博は再び小さな声で「だめです」と訴えてくる。
「だめって、なんでだよ」
「だって……ご家族に見られたらっ……」
なんだ、そんなことか。
そういえば、両親が居ないって言うの忘れてたんだった。
「貴博、心配いらないよ。誰もいないから」
「ふぇっ?」
耳元で囁くと貴博は恐る恐る僕を見上げてきた。
なだめるように顔中に口づけてから顔を覗きこむと、ほんのりと頬を上気させて首を傾げた。
可愛いなぁ、もう。
「言ってなかったけど、親は今朝から旅行に行ってていないから」
「えっ、そんな聞いてな、ひぁっ!」
聞いてないですと言おうとしたのだろうが、耳たぶを甘噛みされて感じたのか、貴博の口からは甘い声が漏れた。
「っ、ふぁぁっ! やっ……綾小路先輩、だめ、ですっ……!」
気持ちよさそうにしていながらまだ『だめ』なんて、強情だなぁ。
「何がだめなの?」
諦めない貴博に多少の苛立ちを覚え、耳元で囁くと彼は強い力で僕にしがみ付いた。
「……玄関でなんて……誰か来たらっ……」
嫌です、とか細い声で言って貴博は僕の肩口に顔を埋めた。
まぁ、確かに、いきなり宅配便が来ないとも限らないし、突然来訪者が現れてもおかしくはない。
だが、こんな状態で止める訳にはいかない。
「そんなに玄関は嫌?」
「嫌です…」
「そうか。なら、別の場所にしようか」
「ふぇっ…」
そのまましがみ付いている貴博の身体を横抱きに抱き上げる。
目指す場所は一つ。
先程タオルを取りに行った風呂場に掛け込んだ。
$ $ $
シャワーを浴びた後、貴博は『ある一面』を露わにした。
なんと、彼は頬を赤く染めて立て膝をついたかと思うと、僕の尻に手を置いて臍周辺に舌を這わせ始めたではないか!!
「た、貴博?」
「…っん、しょっぱい……」
「な、に……」
うっとりとした眼差しで舐め続けて、その表情にぞくりと身体が震え上がった。
なんだか不思議だ。
いつもの貴博は穏やかで子犬みたいな目をしているのに、こういうふうに2人でいる時は何というか、艶を帯びた色の目をする。
「こんなに震えて、寒いんですか?」
「……っ……」
「綾小路先輩って、スタイルいいですね……モデルみたい……」
そう言いながら腹に顔を擦り付ける貴博の額に、僕は軽く指を弾いた。
「こら、もうその辺にしといて、湯船入るよ」
「はい」
気が付けば、冬の寒さが僕達の中で吹っ飛んでいた。
心地よさにこのまま寝てしまいそうになるが、そうもいかない。
温まった身体を抱きしめながらしばらくの間肩で息をし、最後に一度だけ深く息を吐き出す。
……熱い。興奮しすぎたな。
そう思い、僕はシャワーを少し冷たくして頭から浴びた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風呂から出て、着替えを済ませると、5分ぐらいして貴博はリビングのソファーで寝ていた。
疲れてたのかな。
寝ている彼の隣に座って、夕飯はどうしようか考えていると……。
「……綾小路先輩…」
僅かに寝返りを打った貴博が、僕の名を呼んだ。
僕の夢でも見てるのか、可愛い奴。
寝ている彼の髪を撫でながら、僕は舌舐めずりをした。
今日の夕飯のメインディッシュは決まった。いや、デザートか?
まぁ、どっちでもいいか。
今の僕にとって、彼以上に美味しいものは存在しないのだから。
未だ起きぬ貴博の身体に覆い被さりながら、僕はゆっくりたっぷり味わうように無防備な唇に口づけた。
夜はまだまだこれからだ。