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水が嫌いな私

作者: みこと

水が嫌いな私



私は水が嫌いだ。


厳密に言えば、とどまる水が嫌いだ。


私の肌に張り付き、私の体の中に入ろうとする、それが耐えられない。


「だから、私は水が嫌い。」


「えー、じゃあお風呂は入らないの?」


「いや、お風呂は入る。でも、シャワーだけ」


「ふーん、ちゃんと浸からないと、疲れ取れないよ!」


「私は疲れない。」


「そんな奴いるか!」


べしっと頭を叩かれた。


嘘じゃない、ほんとだ。私は疲れない、疲れるようなことをしないからだ。


「もー、じゃあもういっそのこと水泳部にでも入りなよ!」


「…!む、ムリ!」


「おやおや、動揺してますねぇ〜」


「当たり前!私は水が嫌いなのに!」


「でも、シャワーは浴びるんでしょ?」


「うん、1日3回」


その反面私は、流れる水が好きなのだ。体の汚れを払いのけ、綺麗に流しさってくれる。


とどまる水はねちねちと張り付くが、流れる水には清々しさを感じ好感を持っているのだ。


あまり、理解されないけれど。


「なら、水を好きになれるかもしれないじゃん!一緒に行こうよ!水泳部!」


「で、でも!基本的に私は!」


「もうじれったい!」


べしっ、とまた頭をはたかれる。


「いいから行くの!明日の放課後ね!」


「…わかった。」


そう言わないと彼女はしつこく私に言い寄るだろうから。


「やったー!泳ぐの楽しいから!一緒にやろうね!」


「うん…わかった。」


本当はわかってないけれど。



彼女と出会ったのは高校に入学してすぐのことだった。


私は誰かと慣れ親しむようなことはしないつもりだったのに、彼女は今みたいに私について回ったのだ。そこで学習した、うん、と言わなければ鬱陶しいのは終わらない。私は基本的に彼女に従うようにした。


しかし、甘かった。友達というものになった途端、今度は連れ回されることになったのだ。


結局頷こうが頷くまいが彼女は私を放しはしない。何がそんなに気に入ったのだろうか。


「憂鬱だ…」


私はため息をついた。


こんなに学校に行きたくない日もめずらしい。全部彼女のせいだ。


私はきっと、彼女が嫌いだ。


そんな風に毒づきながら、私は家を出た。


気候は夏。雲1つない空の下、私は自転車で駆け抜ける。この季節が私は一番苦手だ。なんせ、汗をかく。汗も立派な水で私の体に張り付く悪なのだ。


なので、私は自転車通学でもない距離を自転車で通っていた。風を切って汗を飛ばすためだ。


学校についたのはチャイムが鳴る10分前だった。いつもどおりの時間だ。


人の波をうまくすり抜け、下駄箱で上履きに履き替える。靴をしまって、階段を上り、二階、突き当たりの教室に行く。


「おっはよー!水着持ってきた!?」


「持ってきてない」

「「持って来いと言われなかったので」」


「なっ…!?」


「はい、はい。絶対そう言うと思って持ってきましたよ、この私」


「で、でも」

「「タオルがないと嫌…」」


「なっ…!?」


「はい、はい。タオル5枚持ってきましたよ、この私」


得意気に笑う彼女。なんて、計算高い…。


「さぁ、もうなにも言わせないよ!観念して、私に着いてこい!」


「…うぇ〜ん……」


泣くことしか出来なかった。


もちろん、滴る前に全力で袖で受け止めるけれど。



放課後、1日中節電のため切られた冷房を睨みつけながら、炎天下の教室に閉じ込められていたため、もう、我慢の限界だった。


「帰る!」「待った!」「なっ…!?」


「「汗が気持ち悪い、帰らせて!」」


「なっ…!?」


「プールにはシャワーついてるよ?」


「それだ!」


私は彼女のバッグをひったくり全力で水泳部に向け走った。


「ああ、ちょっと…ま、いっか!場所知ってるのー!?」


もちろん知っているとも、私が水のあるところを知らないわけが無い。



「はやー…」


彼女が息をあげて、シャワー室にきた頃には、私はとっくにシャワーを浴びていた。


「遅かったね」


「いや、だだこねてたあなたがなんで得意げなの!?」


シャワーは気持ちいい、汗という汗を洗い流し、私の汚れを全て払ってくれる。


「もう、それ終わったらプール入るんだからね!」


「それとこれとは別」


「ふふふ…君にはあの文字が見えないのかい?」


彼女が指さす先にあったのは、『水泳部以外シャワーの使用禁止』という文字。


「なっ…!」


「残念だったね!ここは、水泳部専用のシャワー室!もしばれたら退学ものですなぁ…」


「は、図ったな!」


「私が図るまでもなく、勝手に走って行ったじゃん!」


「なっ…!」


「ごたくはいい…これを着ろ~!」


「い~や~だ~!」

「「水着を着る約束なんてしてない!」」


「なっ…!?」


そんなやり取りを繰り返し、私は10分後には水着に着替えていたのであった。



プールに行くと、沢山の水着を着た生徒がいた。それだけでも私は帰りたい。私は人が多いところも苦手なのだ。一人で冷房の効いた図書室で本を読んで暗くなってから家に帰るぐらいが私にはお似合いだ。炎天下、プールサイドに立ち肌をさらけ出し、居残りするなど私には向いてない。


「おっ!来たか、君たちが新入部員か?」


高身長で引き締まった体、パンツ一丁が一張羅の女子から人気のありそうなルックスを持った、年上っぽい男が私のもとに近づいてきた。来るな、温度が上がる。


「はい!よろしくお願いします!」


「おー、元気いいな!よろしく頼むわ!」


「はい!」


顔を真っ赤にしながら、応対する彼女。めずらしい光景だった。


ピシーン。私の頭に電流が走った。そうか、そういうことか。はいはいはい、彼女は彼をこよなく愛しているのだ。それで私を水泳部に引っ張り込み、だしに使ってあの一張羅男に近づこうという算段なのだ。あー、くだらないくだらない。恋だのなんだのにうつつを抜かしている暇があるなら、本でも読んでいる方がよっぽどに充実した時間を過ごせる。アホだ。そんなバカげたことのために、私を巻き込まないでほしいものだ。


「アイツのことが好きなの?」


「ぇええええ!な、なんで!?」


「まぁ、そんなもんだよね」


「ち、違う!いいから、泳ぐよ!」


「ぇえええ!い、いやだ!」


「落ちろぉおおお!」


バシャーン!水水水…私の全身が水を吸収し、一体化していく。気持ち悪い!気持ち悪い!入ってくるな!私の中に入ってくるな!


「ぶはぁ!帰る!」


「待って!」


「ほら、アイツ外見てる、私がいる意味ないよ」


「そんな…!」


「というか…気持ち悪い!タオルタオルタオル!」


「もお、水着やや子め…」


「なんだそれ、あいつのあだ名か?」


「先輩…!え、ええそうです。私が勝手に呼んでるだけですけど」


「あだ名をもらえるなんて幸せ者だな。大切にしてやれよ」


「はい…!」


私はロッカールームに走り、バスタオル三枚使って、とにかく拭いて拭いた。

そのまま、家に帰ってシャワーを浴びた。


「何だったんだ…今日は……」


シャワーに身を任せ、私は首を傾げた。



「先輩に告白しようと思ってるんだ」


「ぇえええ!な、なんで!?」


「ぇえええ!そりゃ好きだからでしょ!?」


「ぇえええ!恥ずかしくないの!?」


「恥ずかしくないよ!好きなんだから!」


彼女曰く、今日は夏祭りで花火があがり、いわゆるムードのできやすい日らしい。


「で、でも、出会って間もないんじゃ」


「早くしないと、先輩人気だから!」


「そ、そっか、頑張って」


「いやいや、着いてきてよ!」


「なっ…なぁああああ!?」


「ちょっと、見てるだけでいいから!」


「「そんなのやだ!」」


「なっ…!?」


「プールのことチクるよ!」


「「卑怯な!」」


「なっ…!?」


「わかってるよ…ずるいってこと…でも、お願い…私、君がいないとダメなんだ」


「…や。帰る!」


「ぇえええ!ダメなの!?行ける流れじゃないの!?」


「めんどくさい!勝手にやって!」


「薄情者~!」


私は、叫ぶ彼女を置いて家に帰った。すると事件が起きた。


「今日、シャワー壊れちゃって入れないよ、お姉ちゃん」


「なっ…!?」


無邪気な妹に言われ、私は汗だくになった体の処理をどうしようかと悩み、学校に足を戻そうと、家を出るとあたりは暗くなっていた。


「あっ…花火」


夜空に花火が上がっていた。


「綺麗だな…でも、気持ち悪い!急げぇええ!!」


私は全力で自転車をこぎ、全身の汗を風ではじいた。


学校につき、こっそりとシャワー室でシャワーを浴び、無事汗を流すと、部屋から出ようとしたとき、足音が聞こえた。


「や、やばっ」


私は息を殺し、身を隠した。


「ふっ、行ったか」


足音が遠ざかるのを確認して、部屋を出た。


「す、好きです!!!!」


「ぇえええ!」


パンパンという花火の音で私の声はかき消された。

私は、慌ててプールサイドに目をやる。すると、彼女と一張羅男が向かい合っていた。

花火は打ちあがり、揺れる水面に反射して、私の目から見てもいい雰囲気だった。


「わ、悪い。俺、誰とも付き合うつもりないから」


「そ、そうなんですね。忘れてください…」


「なーんでやねぇえええん!」


私は、一張羅男に飛びついた。


「ぐはぁ!」


「ぇえええ!な、なんで!?」


一張羅男はもがき、彼女は驚いた。そのまま、プールに突っ込む、私と一張羅男。

私、なんでこんなことしてるんだろ…水水水…体の中に入ってくる水に、あまり不快感はなかった。


水の中に落ちて行くさなか、私が考えたのは彼女のことだった。

彼女とのくだらない日々、私はその中で何も得ていないと思っていた。

けれど、何だこの感情は。私は今、この抱きかかえた一張羅男を殺してやりたいのだ。このまま水没させて、プールの底に足を縛り付けて、このまま水死させてやりたいのだ。

私以外の人間に彼女を否定されるのが、許せなかった。

いつの間にか、水の気持ち悪さなんて気になっていなかった。私は、水面に顔をのぞかせ、一張羅男をプールの壁にたたきつけた。


「ちゃんと、彼女のこと考えて!」


「い、いや俺は、水泳で忙しいから」


「そんなことで、あんな超絶可愛い子逃していいのか!?二度とそんなチャンス来ないぞ!」


「うぐぐ…」


「本音を言ってみろ!抱き着いて、ちゅっちゅっして、おっぱい揉みまくりたいだろ!」


「ぇえええ!な、なに言ってるの!?」


「ああ!俺だって、抱き着いて、ちゅっちゅっして、おっぱい揉みまくりたいよ!」


「ぇえええ!先輩、そんなこと考えてたの!?」


「なら付き合え!なぜ断った!」


「か、彼女がいるんだよ!」


「別れろ!どうせ、足太いだろ!」


「な、なぜわかった!」


「いいのか!あのほっそい足を逃して!」


「…わかった、別れる!俺と付き合ってくれ!」


「ぇえええ!は、はい!喜んで!」


「よかったな、私は…疲れたよ」


私は、先輩を離し、水の中に落ちて行った。

何故か、心地よかった。



その後の話を少ししようと思う。

私は水が大好きになり、水泳部に入部した…なんてことはなく、相変わらず水は大嫌いで、自らが発生させる汗という水分を見て、自分の体の学習能力の無さに嘆く日々は終わらなかった。彼女は先輩と付き合って毎日楽しそうだ、そこで仲良くしとけばいいものの、私には相変わらず纏わりついてくる。まったく水みたいな女だ。

どれだけ拒もうと、私の中に入ってくる。しかも、あの日からさらにそれは加速した。


「今度は流れるプールに行こう!」


「ぇえええ!な、なんで!?」


「「水は嫌いだって言ってる!」」


「なっ…!?」


「ふふふ、やってみないとわかんないじゃん!」


私は、彼女に抱き着かれ、まとわりつかれた。


「「暑苦しい!」」


「「なっ…!?」」


彼女は得意げに笑い、可愛かった。



彼女は、いつになったら水を克服できるんでしょう?


なっ…!?


書いてて楽しかったです!

また、どこかで!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 感想一度かいたけど 消えちゃったのかな まあいいや とっても素敵と ベタ誉めの感想でしたが もう一度書く気力は 、、、
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