第二話 成長と現実
そんなわけで俺はこの世界に産まれた。ちなみにまだ産まれてから4日しか経ってない。俺が自分を赤ん坊だとやっと理解出来たのは昨日だ。薄々気付いてはいたが認めたくなかったのかもしれない。
しかし、目の前にいきなり大きな山が出されたのだ。なのに俺の槍はピクリとも反応しなかった。その代わりに腹が空いたのだ。性欲に食欲が勝つのだ。プライドを捨てて吸うととても美味しい。そんな事があればもう諦めるしかないだろう。
ああ、まただ。駄目だ。もう眠くなってきた。この4日間ほとんど寝て過ごしている。成長の為とはいってももう少し起きていたいのに。
あれから5ヶ月程たった。
程というのは、俺がよく寝ているから1日たったのかよくわからなくなることが度々あったのだ。
それに目がしっかり見えるようになったし、ハイハイが出来るようになった。
移動が出来たのは大きかった。なんせ今まではベッドの上から首を振るくらいしか自分では出来なかったのが、今じゃ二階に行けるようになった。
なので家を探索してみた所、この家は文明が遅れまくっている。灯りはランタンか日光くらいだし、台所と思われる場所は竈なのだ。
今時ガスじゃなくてわざわざ薪を使っているだなんて古風だ。それに窓が木で出来ている。
さらに水道も風呂もないのだ。風呂は布を濡らして体を拭くくらいなのだろう。水は母親が外に出て汲んできている。
本の一冊でもあれば大体の地域はわかると思ったんだけどそんな物はなかった。
そして窓から見た風景を言わせて貰おう。周りにはこの家と似たような形の家が5軒建っているだけだ。他には森と少しの平原が広がっているだけなのだ。全くとんだ秘境に産まれてしまった。もう少し何かあるかと思っていたのに。
父親が弓を持ってどこから兎やら鳥を獲って来たのかがはっきりしたな。
そうなにを隠そう父親は狩人だったのだ。父親は黒髪なのだが、母親は銀髪だった。けど染めたようなくすんだ色じゃなくて光沢がある綺麗な銀髪なのだ。
地毛が銀髪だなんてのは初めて見た。それに美人だ。きっと俺の将来も悪くはない顔になるだろう。
俺の髪はまだそんなに生えてないからわからない。そんな些細な問題は時間が解決してくれるだろう。
やあ、俺だ。どうやら昨日1歳になったらしい。村人達が鳥だのなんだのを持ってきてくれた。皆俺の方を見て手を振ってくるので俺は片手を上げ、「ダー!」と言ってやった。すると大喜びでニコニコしてくる。うん、悪い気はしない。
1歳にもなると軽くだが歩けるようになった。なので度々母親についていって村を見て回ったりした。しかしやはり田舎なのだろうか。同年代の子が居なかった。大体が14歳を越えていて、遊び相手が居ないのだ。まぁ俺としてはそっちの方がやりやすいからいいんだけど。
それと、自分の名前がわかった。俺の名前はキンドというらしい。これが愛称なのか、本名なのかがわからないのがネックだ。
けど、まだ言葉を覚えられてない。今は母親に首を傾げながら物に指をさして、母親が言ったことを復唱している。完全に理解するのはもう少し先になりそうだ。辞書でもあればいいのに。
ついに、ついにやったぞ!俺は言葉を覚えた!この一年と3ヶ月の努力が報われたのだ。まだ拙い言葉だが、俺が話したのがよっぽど嬉しかったのか、母親は父親に
「いつまで経っても喋らないからどこか悪いのかと思っていた」
そう言いながら笑っていた。
よう、俺だ。俺は今2歳になった。
そして、この世界が異世界であることを知った。
きっかけは父親だった。父親がいきなり
「キンドも喋るようになったし、常識とか教えていかなくちゃあいけないな」
とか言い出しやがった。あのときは心臓が止まるかと思った。自分が子供だってことなんて忘れて変な声で驚いたから父親に変な目で見られてしまった。子供だって事でなんとか誤魔化せたからいいけど、気を付けなくては。
父親が言ったことをまとめると、この世界には魔法、称号、クラス、スキル、それにLvもステータスもあるらしい。
魔法には火、水、風、地の基本属性、それに加えて雷、木、光、闇、無の上級属性があって基本的に一人一つの属性だと言われている。基本属性ならどの属性にもいくつかの簡単な魔法があって、それは元魔と呼ばれている。
例えば火なら、マッチ程度の火を出すことができる。他にもステータスを見たり、衝撃波を出したり出来る元魔があるらしい。その元魔だが、よっぽどのことがない限り誰にでも使えるとのこと。
称号だが、これについては詳しい説明が出来ないらしい。なんでも称号はふと気づくとある物で、取り方が人によってランダムらしい。しかし、称号があるとステータスが上がったり、能力が貰えるらしい。持っている人の方が少ないとのことだ。
クラスは魔晶碑と言われる大きな水晶で変えたり出来るらしい。他にも、特殊な称号でクラスが貰えたりすることもあるとのこと。魔晶碑は都市には必ずといってもいいくらいあるらしいので、俺も早く行って村人をやめて魔法使いにでもなってみたいものだ。
スキルは同じ系統の武器を使って魔物を倒したり、クラスのLvを上げると覚えるらしい。多分熟練度みたいな物があるのだろう。まだ俺には早い話だ。
まったく2歳児の息子になんて難しい話をしやがる。これがこの世界の普通なのか?
そんな話の後に少しだけ元魔を教えて貰った。
コップ一杯分程度の水が出る『タリアウォーター』、対象のステータスを見る魔法『ステータス』、そよ風を起こす『タリアウィンド』、この3つだ。火は危ないからと教えて貰えなかった。
早速自分のステータスを見てみることにしよう。
キンド【村人】Lv01
HP 7/7
MP 9/9
筋力 6
体力 5
魔力 3
敏捷 4
精神 2
【スキル】
なし
【称号】
なし
というなんとも微妙な所だった。ふと、気になったので父親のステータスを見てみた。
トスク【狩人】 Lv26
HP 124/124
MP 109/109
筋力 110
体力 118
魔力 85
敏捷 120
精神 92
うわ親父強い。クラスもちゃんと狩人になっていた。この村の習慣で狩りに行くんじゃなくて、魔晶碑で狩人になったってことでいいのか。
「ステータスはLv以外でもあげられるからな。体力とかは大事だからあげられる時にあげておいた方がいい」
その後ろで母親がうんうんと頷いている。これは何か昔にあったな?好奇心で聞いたみたが2歳児にはまだ早いと言われて誤魔化されてしまった。この事はよく覚えていこう。
あれから2か月が経った。その間に俺は二つの元魔を覚えた。マッチ程度の火を出す『タリアファイア』、約1m四方の湿気を吸いとる『タリアドライ』。両方とも微妙な使い勝手の魔法だ。主婦には便利かもしれないが。
そして今、俺はこっそりと村の裏にある森へときている。目的はスキルだ。薬草や植物にステータス魔法をかける。すると、その名前、効果が出るのだ。そうすると視界の左上にゲージが出てきて、少しだけ数値があがるのだ。多分このゲージを貯めるとスキルが手に入るのだろう。そのための薬草などを集めているわけだ。
「もうこんな時間か、帰らないと」
ふと空を見たらもう日が暮れかけていた。親に心配かけるわけにもいかないだろう。
そう思いつつ森を歩いていると後ろからドッドッドッという物音がこちらに迫ってくる。そしてその音はピタッと止み、あたりに静寂が訪れる。
振り向いてみるが何もいない。嫌な予感がしたので走って帰ろう。俺が走ろうとしたその瞬間、目の前に大きな影が出来ていた。
振り向くと、熊がいた。4mはあろうかという体中に赤い紋様をめぐらせながら、その目は鈍く光り、こちらを見据えている。
俺の心を恐怖が支配する。逃げなきゃ死ぬとわかっていても体が動かなくなる。足からは力が抜け、そこにへたり込んでしまう。
頼む、見逃してくれ、死にたくない。そう願う。
熊はそっとこちらに近寄る。そして、一撃で、作業のように、俺の首を引き裂いた。
死んだことを悔しく思うより早く、俺の視界は暗くなっていった。
パリン、と何かが割れる音が聞こえた気がした。
▼残り99回
これにてあらすじ部分終了です。
何度も改稿してしまい申し訳ありません…