始まりの季節は雨(4)
読んでくれた方には申し訳ありませんが、まだ回想は続きます。次回で回想は終わる予定です。
彼女からの申し出は断ることができず、「あ、あぁそうだな。散歩しよう。」となかなかに高校生とは言いがたい形で一緒に下校することになった。
「秋月君はどこに住んでるんですか??」
「オレか?いまは宮下町だよ」
「そうなんですか!あたしも宮下なんです!」
「おぉ奇遇…ってほどでもないか。うちの生徒は宮下か高蔵から来てるやつがほとんどだろうしな」
「そうですか??まぁでも、友達もほとんどどっちかだったような気がします。」
「だろ?」
オレ(じいちゃん家)と世良川さんの住む宮下町はなんだかんだで広い。なのに人口が足りずに市へとなれないそんな町だ。一方の高蔵市は宮下町に隣接する形であるのだが、こちらは人口も多く何より県内のかなりの地域がここに含まれている。うちの高校も高蔵市内に建っている。また、オレの顔が広いわけではないのだが、情報通(自称)の蒼井から以前聞いた「ほとんどどっちかから来てるやつだと思うぜ」という会話を思い出しそう答えていた。ちなみに、実家は宮下町だ。
「じゃぁ、世良川さんも電車通学か??」
「あたしは唯駅が最寄です」
「あぁそうなのか、おれはその次の六鈴だわ」
「じゃぁ帰り道一緒に帰れますね!」
「…だな」
人懐っこいといっていいのかなんなのかわからないが、世良川さんとはさっき会ったばかりなのにずいぶんと親しくなったように感じる。正直違和感がすごい。このあと別れて、明日会ったときにこのテンションでまた会えるのかどうかが非常に難しいように思えてしまう。だが、まずはこれからする‘散歩’のことを考えなければならないだろう。一階まで降りてきた視線の先には下駄箱が見える。そこへ到着するまでの時間も会話は続く。
「世良川さんは男友達って多いほうか??」
「ん~どうでしょう?別に多くはないと思いますね。何でそんなこと聞くんです??」
「いや、散歩一緒に行きたいって言い出したから、男子と下校すんのあんま抵抗ねーのかなって」
「そうですねー……一緒に男子と下校するのは初めてですけど、あんまり抵抗ないですね!」
「初めてなんですね……」
慣れているのなら、適当に向こうが行きたいとこぷらぷらしてかえるのも良さそうなもんだが、こうなってくるとそれも期待できないのではないかと思える。オレは下駄箱につきいったん別れるとこれからどうすればいいのか高速で脳を働かせるのであった。
「今日はあれだな。考えたが、どんなプランで散歩しようか浮かばんな。」
駄目だった。。
「なら、駅までの間にあるピーファに行きませんか??」
「あー構わんけど……ピーファって駅近くにあるショッピングモールみたいなのだっけ??」
「そうです!こないだできたアイス専門のお店が気になってるので寄りたいんですけど」
「…おっけぇ~い」
返事がかなり府抜けたことになったのはこれがデート化してきているからであった。女子と遊びに行くことは何度かあったのだが、そのどれもがグループ行動であり今回みたいな‘女子とふたりでアイス屋さん’などは体験したことがなかった。オレはOKの返事をしつつ、足をピーファへ向けて歩き始めるのであった。
「世良川さんは彼氏いんのか??」
「?!……いないです。。」
話題を探そうなんて考えていたら、気になることがつるっと口から滑ってきてしまった。横に並ぶ彼女はその質問に答えた恥ずかしさで顔を下に向けている。
「すまん。。いきなり失礼だったな。でも、彼氏いる子と一緒にどっかでかけたりするのは、その、彼氏さんに悪いだろうと思ってさ」
「いや、居たらあたしもこんなことしないですよ」
「だよな」
「……」
やべーなやっちまった。重い空気ではないのだが何か話題を話す気にもなれないような微妙な空気になってしまった。
すると、彼女が口を開いた。
「そういう秋月君はいますか?彼女??」
「オレはいたことないな」
「でも、あたしと居ても慣れてるみたいに見えますね」
「あぁ~そりゃ幼馴染のおかげかもな」
「幼馴染がいるんですね。同じ学校の子ですか??」
「同じだよ。2-Eにいる高梨由美ってやつだ」
「高梨さんですか!?それはまたずいぶんかわいい幼馴染さんがいますね」
「みんなそう言ってるけど、オレは昔から知ってるからいまいちそのかわいいってのがどの程度すごいのかがわかんないんだよな」
「ん~…同性のあたしが言うのも違和感ありますけど、同学年の子達の中じゃぁかなりかわいい人だと思いますよ」
「そうなのか」
蒼井も和泉も同じように由美の話しをしてところを見たことがある。確かにちんまりとしててクリッとしたまんまるな目がかわいいのかもしれない。異性として意識する前から接しているからかその辺のことであいつを女としてみたことはないが、幼馴染という状況じゃなければおれも意識していたかもしれない。
「まぁ、そんな環境にいれば女性に慣れているのも頷けますね。」
「なんか言い方がだらしない男みたいな感じだからやめろ!」
「確かにそんな風に聞こえますね」
えへへと笑う彼女と歩いているとショッピングモールらしき建物の一部が見えてきた。
「そういや、そろそろ歯ブラシの替え買おうと思ってたんだわ。先にドラッグストア寄っていいか?」
「いいですよ~」
横を歩く彼女から返事を聞きながら目的の場所へ向かう。…ん?
「……ん?」
「なんです??」
「いや、なんか誰かに見られてるような気がしてさ」
「同じ学校の子じゃないですか??この時間帯だとうちの生徒多そうですからね」
「それもそうか」
かなり意識して見られていたような気がしたのだが、それでも世良川さんの言葉で納得してしまった。それに、腕時計を見れば時刻は17時を少し過ぎたところで、あまりだらだらしているとまた門限に間に合わないかもしれない。
「世良川さんもアイス以外になんか用事あるか??」
「あたしは雑貨屋さんとか見れたらうれしいんですけど、秋月君は嫌じゃありませんか??」
「別に時間かかんなそうならいいぞ」
「じゃぁ、アイス食べたら付き合ってください♪」
「あいよ」
歯ブラシ以外にも、普段使ってる洗顔料が安かったので買い、その足で今度は世良川さんが気になっているアイス屋さんへ向かう。
「あの辺りだと思うんですけど……あ!あれだと思います!」
「おぉ…それなりに繁盛してるな」
「今日は暑かったから余計にかもしれないですね」
「だな。んじゃ並ぼう」
アイスを売っている場所には列ができていてオレ達もその最後尾へ並ぶ、すると店員と思しき人から整理券を渡された。目の前には8人くらい並んでいるが、回転の速さからそこまで待つことはなさそうだ。
「あたしはストロベリーとバニラにしようと思います」
「んじゃおれも同じやつにしようかな」
「……チョコミントもおいしそうですよね♪」
「あぁ、うまそうだな」
「……」
「おれはチョコミントにすっかな」
「…!ありがとうございます!!」
あまりにもわかりやすい彼女の態度につい笑ってしまうが、オレのアイスをもらうつもりでいるところが正直すげぇなと思った。順番になりお互いのアイス片手に近くのベンチに座る。
「ぅわぁ~おいしいです~」
「おぉ~うめぇな~」
互いに注文したアイスに舌鼓を打ち、しばらく無言で食べる。
「このアイスの感想は後で友達に教えてあげようと思います」
「だな。これはオレも教えたくなるよ」
半分より多めに食べ終わったところで、おれは彼女へアイスを差し出した。
「ほい、あとはぜんぶ食っていいぞ」
「秋月君……本当にありがとうございます。」
「ははは、武士みてぇだな」
芝居がかったような彼女の仕草を笑いつつオレは残りを彼女に渡した。
「それじゃぁ、はい。あたしのもどうぞ」
見ればオレの渡した量と変わらないくらいに残したアイスの入ったカップが差し出される。
「いや、オレはいいよ。世良川さんが食べちゃいな」
「秋月君はアイスあんまり好きじゃないですか??」
「いや、そんなことないけどさ」
正直甘いものは好きなほうだ。誕生日に両親やじいちゃん達が用意してくれるケーキは結構オレの楽しみの一つだったりする。だが、それとこれとは別で彼女のアイスを食べるのはひどく恥ずかしいのだ。
「もしかして恥ずかしいんですか??」
「っんな!」
挑発するような目線でこちらを見てくる彼女にすこしばかり漢のプライドを刺激されたオレは
「世良川さんがいいなら食うぞ!」
と彼女のスプーンが入ったままのカップを奪い、その中身をペロッと平らげた。
「ん~…こっちもうめぇな♪」
「…////もぅ!!」
彼女は空の容器に入った自分が使っていたスプーンを手に取り、味わう様子もなく残りのチョコミントを食べきった。ちなみに、食べ終えた辺りで「これ世良川さん使ってたスプーンだな」と気づき、恥ずかしさが悟られないように平然を装うことが大変だった。だが、そんなお互いの気恥ずかしさもその後の雑貨屋めぐりなどで薄まっていき、帰りの駅に向かうころには特に気にならなくなっていた。
「なんだか散歩とは呼べない内容だったな」
「そうですね~。あたしは楽しかったので全然よかったですけど」
「それはオレも同じだな~」
「また遊びにきましょうよ!」
「機会がありゃな~」
‘友達’とどのくらいの期間経てばそう呼んでいいものなのかわからないが、少なくとも二人して会話する空気は友達のそれだった。時刻は18時半になるところで、門限の20時まではいまから帰れば間に合うだろう。
「そういえば、世良川さんって門限何時??」
「だいたい19時までにはいつも帰ってます。」
「…間に合う??」
「…微妙です。。」
「でも、連絡すれば大丈夫ですよー」という彼女の言葉を聞きつつ、帰りの電車もほとんど一緒かと考えていた。
「おい。そろそろ次の電車来ちまうぞ」
「ちょっと待ってください。いまメール送ってるので」
「電車乗ってからでいいだろ」
「秋月君。この時間は~…」
帰宅ラッシュでした!!オレたちは列の最後尾だったため、余裕のない壁際に向かい合って乗車した。なぜ向かい合った!!
(以下小声トークです)
「秋月君苦しくないですか??」
「オレは平気。てか、いつもこれ乗って帰ってんのか??」
「いつもは違います。あたしはいつも16時少し過ぎた辺りで帰ってますけど、そのときはこんなに混んでませんよ」
「あぁ~オレもそんくらいだな」
背中に多くの乗客の圧を感じつつ、目の前の彼女に体重がかかってしまわないようにふんばる。
「もう少しこっちきてください」
「助かる」
次の駅に着き、反対側からさらに定員オーバーな客が入ってくる。
ボックスシートに座るおっさんがいびきかいて寝ているのを見て「うらやましいな」と小言をもらしてしまった。
「うらやましいですか??」
「いや、独り言だから気にしないでくれ」
「??」
世良川さんの最寄り駅まであと2駅で10分くらいはこの状況が続きそうだった。
「…ふふふ」
「どうした??」
「いえ、思い出したらおかしくなっちゃって」
「ん?」
「雑貨屋で秋月君が驚いてたじゃないですか」
「あ~…」
オレは普段買い物をしに行っても雑貨屋へ行くことはなかったのだが、今日は世良川さんに連れられてyourselfという名前の雑貨屋へ行った。そこで、小さい子供が黄色くて細長い鳥を掴んでいたのだが、それが面白グッズだったらしく、盛大に「ぐなぁっー!!」と鳴いたのだ。真後ろだったこともあり「うっわぁ!!」と結構驚いてしまったのだが、そこで彼女が「あはははははは」と大声で笑いやがったのだ。
「あれはアクシデントだな」
「あんなに驚くことないのに…ぷふふ」
「思い出すな。次思い出したら、わたしの右手がげんこつをお見舞いします」
「話し方変わってるよ~怖い~」
怖がるようなそぶりを見せつつ顔がにやけている彼女が一瞬困ったように眉根を寄せた。
「どした??」
「ん~ん。なんでもない。」
そのまま黙り込んでしまった彼女はさらに表情を硬くした。それに、少し顔が赤いような気もする。
「気分悪いか??」
「違うの…大丈夫だから」
「そうか」
「…っん!?」
「なんだ!?」
「その…秋月君…」
「なんだ??」
「かばんが…」
オレは通学時リュックを使っているのだが、いまは邪魔にならないように軽く前に持っている。
「邪魔か??」
「もう少し下げてもらえる??」
「わかった」
そこまで応えたオレはリュックを下へずらそうと支えている左手を少しさげた。だが、その瞬間後ろから負荷がかかり、思っているよりも相手に擦り付けるような形となってしまった。
「あっ!」
「わりぃ!大丈夫か??」
「う、うん大丈夫だよ。」
心なしか息の荒そうなまま、オレたちを乗せた電車は世良川さんの最寄り駅である唯駅へ着いた。
「今日はありがとう!また連絡するね!」
「あいよ」
扉が閉まるまでの少ないやり取りが終わり、オレは帰宅した。
-三柚side-
「はぁ~さっきはびっくりした。。」
秋月君と過ごした放課後は楽しかった。彼の適度に接してくれる距離感が心地よくて、つい散歩へ連れて行ってくれなんて言ってしまったが、それでも、彼のあたしへの態度はずっと優しかった。
「ん~。まだ変な感じするよ~」
帰り道、混雑する電車の中でも彼は優しかった。あんなに人がいたのにほとんど窮屈な思いなどしなかったし、彼と過ごした時間を思い出す余裕さえあった。ただ、彼のリュックがずっとあたしの胸に当たっていて、それが気になっていた。
「しかもあんなのって…」
堪え切れなくなったあたしは彼にリュックを下げてくれとお願いしたのだが、それがかえって敏感な場所を思ったよりも強く刺激する結果となり、なにより恥ずかしかった。
「うぅ~恥ずかしすぎる…」
クラスでもとりわけ大きいわけでもなく、かといって小さいわけでもない自分の胸があんなことになるとは微塵にも感じていなかった彼女は、去り際の一言をしゃべるまでほとんど黙ってしまっていたのだった
「せっかくあんなに仲良く慣れたのに、嫌われてないかな…」
無愛想だとは思われてないだろうが、気遣ってくれた人にあんな態度をとってしまったことが、いまさらながらに悔やまれた。
「あとで、メールしたときにそれとなく謝ろう!!」
心のこぶしを握り締め、そう誓う三柚なのであった。
~続く~