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異世界の陽のもとに  作者: ぷれきおす
8/16

07 襲撃

流血表現がありますので注意


途中、過去の回想入ります(シルヴィー)

 「1時、11時に照明弾イルミを各一発、 撃てぇー!!」

ブルーの号令で直径5cm長さ40cmほどの筒を抱えた傭兵が紐を引くとポンッと軽い発射音を立てて光弾が斜め上空にに光の尾を曳いて昇っていく


 その光を浴びて騎馬の男たちと怪物の姿が照らされて離れたボクたちにも良く見えた

男は二人とも血で汚れた革よろい姿だが手綱を繰る様子は怪我してるとは思えない元気さだ、もっとも興奮状態で痛みが消えているせいなのかもしれないが。

 怪物は馬に乗った人間よりさらに背が高い、約3m~4mといったところだろうか、太さ50cm長さ2mほどの樹木を大雑把に削ったようなバット状のこん棒を手にノシノシと大またに追いかけてくる。

 夜なので色味は判らないが不揃いな煉瓦を貼り付けたような見たからに硬い、と言う外観


彼我の距離50mほどになり互いの声が聞こえる範囲に入り、相手が先に声をかける

「すまねぇ、ゴブリンの巣を潰したら血のにおいか岩鬼トロルが寄ってきて仲間はバラバラになった」

「そのバラバラは『殺された』という事か」

「いや、散り散りに逃げた、その後の状況はわからん」

広場の周囲の柵を避けてこちらから見て右へと馬首をめぐらし男はそう告げた

「岩鬼はあの二体以外にも何体か居るかわかるか」

「俺たちを追ってきたのはあれで全部だが、襲ってきたときは5体以上居たみたいだ、総数は断言できん」

「あとで事情聴取するから逃げるなよ、右手奥で下馬して馬を休ませてやれ」

馬の水桶のある場所を腕振って指し示しブルーは右手で抜刀して怪物に立ち向かう


「俺は先に左のやつをる、シルヴィーは弓で牽制、右はテリーが惹きつけろ」

「イワンとスミスは火炎呪符、顔を狙え」

部下に指示を伝え、ブルーは左手で最初右肩次いで腰に手を当て呪言スペルワード唱える

「【剛力ストレングス】【迅速ヘイスト】」

赤と緑の光が彼の全身を包むと同時にブルーは身をかがめて走り出す

 

こちらから見て左側は怪物からすると右側、怪物は利き手に持ったこん棒を大きく振りかぶって袈裟懸けに殴りかかる。

 ステップでかわしたブルーを捉えられずこん棒は派手に土砂を巻き上げて地面を叩く、逃がした獲物を目で追おうとした怪物の顔面に火の玉が命中、怪物は怒号を上げたが表面を炙っただけなのか傷らしい被害を与えられなかったようだ。

 魔法が飛んできた方向を向いて怪物が咆哮した瞬間、銀光がきらめき口腔に矢が突き刺さる

それでも致命傷には程遠く怪物は噛み締めて矢を砕く。


 怪物は与えられた痛みで目の前の人間から注意をそらしてしまい、大きな隙を作ってしまった

ブルーは怪物の背後に回り硬い表皮に覆われていない右ひざ裏を両手に握った剣で突き刺し

全身のばねを利かせて捻りを入れてえぐり裂く

たまらずこん棒を取り落とし右ひざを抱えた怪物に追撃の手を緩めず今度は左ひざを切り裂く

大地に倒れ絶叫をあげた口からは先ほどの矢傷からの出血だろうか、唾と一緒にだらだらとこぼれる

そして眼球に追撃の矢が刺さり地に伏せて頭を護る姿勢をとった時、トロルの命運は尽きた

人間の手の届く範囲に急所、盆の窪と呼ばれる部分を曝しだし、そこを突き刺されて声も出せず絶命した。

もう一体の怪物も同じように足を攻められ倒れたところで止めを刺され、辺りは奇妙な静寂と血のにおいに包まれた。


全身に怪物の返り血を浴びたブルーの姿はどちらが鬼か判らないくらい壮絶な姿だった

「こわい……」

ボクのそばでマナさんが震える声でつぶやいた

この世界で初めて見る命のやり取りをの当たりにし、血のにおいで動転する気持ちはわかる

だけど目をそらしてはいけないと思う、あれは自分を、仲間を護るための戦いであるのは彼女も理解しないといけない

自分の手で他者の命を絶つ覚悟はボクにもまだ無いけど、護ってくれた人を拒絶するのはやってはいけない事だと胸の奥からささやく声がする。


 部下の一人が(ほう)った手ぬぐいらしき布で顔と剣の血糊を拭うブルー

刃毀れや刀身の歪みが無いか軽く点検した後に鞘に収める、照明弾は地に落ちて周囲は再び夜の闇に沈む


「さて、討伐の仕事をしくじって他人ひとさまに尻拭いを押し付けたお前たちの名前を聞かせてもらおうか」

顔面の血糊は拭ったものの、髪の毛や腕にはかがり火の光を受けてぬらぬらと血の質感を残した状態で

口角をやや上げて微笑む姿はどう見ても悪役が板について見えます、失礼ながら……


「えっと、俺の名はメイドル、こいつはライバン、俺たちはグジョウの南、ギーブを本拠地としてシェイキ、ワンザンの鬼族討伐など請け負っている自由民兵ぼうけんしゃです」

メイドルと名乗った男は襟元で切り揃えられた茶髪、ライバンは角刈りがやや伸びた長さの灰色髪


「……ギーブの者か、旗の柄とクランの名は?」

「旗柄は五角枡にキキョウの花、クランの名は『タイムマーニ』と名乗らせてもらってます」

「トキ氏の縁者か……また厄介な」

口ぶりとは裏腹に表情は獲物を前にした肉食獣のそれである


小鬼ゴブリン討伐依頼とか言ってたな、何名で請け負ったのだ?」

「俺とライバンの他は三名の合計五名パーティーです」

「全員騎馬持ちか?」

「ええ、他の三名も騎馬なのでたぶん生き延びられたとは思いますが」

「そうか、それだけ装備がよければ生き延びただろうな、シルヴィー?」

「五時と七時に人影、10名以上居るかと」

ブルーが低い声で訊けばシルヴィーは間髪入れずに返答


「スティーブ、スミス、五時と七時に照明弾イルミ!」


野営地に続く街道の方面に新たに打ち上げられる照明弾

照らし出されたものは顔を墨でも塗ったかのような風貌の黒衣の集団


「おっと、メイドルとライバンのおふた方は下手にその場を動くと怪我しますよ、忠告はしました」

そう言ってブルーは黒装束集団に向かってゆらりと歩みだす


岩鬼トロルを使って場を混乱させて、その隙に人攫いを目論んだようだが……相手が悪かったなっ!」

「【迅速ヘイスト】」

緑の光に包まれると同時にブルーの両手が閃き銀光が二本黒装束の男の肩と太ももに吸い込まれる

夜襲に失敗して攻撃か撤退か集団としての行動に統一取れないままブルーの投げナイフと部下の弓矢に次々と戦闘不能に倒れていく黒装束集団

だがその中の数名が刃物をひき抜いて護送車に居るボクたちに向かって駆けてきた


「逃げるなら可愛いものを、私も舐められたものですね」

シルヴィーがそう言った次の瞬間、三名の黒衣の男たちの足に釘状のものが突き刺さり、もんどり打って転がった。


「棒手裏剣……実戦で使われたのは初めて見た……」

カズキさんが呆然とつぶやいたのが耳に入ったが、観光地でのデモンストレーションでも実演はそう無いと思います…と言うかすぐに武器の名前が出てきたな。


野営地の広場のあちこちでうめき声はするものの死人が出てない事が冷静に観察できた原因だろう。


「えっと……忍者バーサス忍者? 」

「襲ってきた方はそれっぽい服装ですが、この世界にも居たの…かな? 」

マナさんとエミさんが戸惑った口調で小声で話してる

目の前の黒装束集団がすべてワンダラーとは考えにくい、もしそうならもっと派手に術とか使っていそうだし


襲撃者がすべて地に伏しブルーの部下が拘束具を嵌めようと動いたときに気の緩みが生じてしまった

照明弾が地に落ちて明かりの範囲が狭まっていたのも一因かもしれない

護送車に向かった襲撃者が三名、シルヴィーさんは彼らとボクたちの間に立ちふさがる位置

そしてボクたちの背後は護送車で誰も居ない・・・・・はずだった・・・・・


「異世界で忍者なんて目にするとは思ってもみなかっ うしろっ!!」

ボクたちの前にケンと並んで居たカズキが感想を言いつつこちらを振り向いて、次に驚きの声をあげた、と同時に後ろから砂利を踏むような音がする。


「勘が良いと言うべきか」

背後から襟首を掴まれ引き寄せられて倒れかけたとき低い擦れ声がすぐ耳元で聞こえた


「全部持って行きたかったが、この三匹でも充分儲けになるだろう」

そう言いつつエミさんとマナさんの鎖に手を絡めつつ引き寄せる

ボク? 地面に倒されて足で踏みつけられ声も出せません


「三名も人質を連れて私の前から逃げられるとでも? 」

両手に棒手裏剣を手挟てばさみ、確認するかのように淡々とした口調で訊ねる


「まぁ、背を見せたらそいつが飛んでくるだろうなぁ」

背中を踏まれているので頭上の様子は見えないが余裕かましているのか男の口調はとぼけた様子だ


「俺にはこの特技があるから逃げるのは楽勝だがな」

踏んだ足に重心を掛けたのか背中にかかる圧力が増す、男とエミさんたち二人の女性の重量がボクの背に、

肺の中の空気が搾り出される感覚で気が遠くなる

「【空間跳躍ジャンプ】 」

気を失う直前男の足の裏の感触が消えて後ろ襟を掴まれた気がして…………視野が暗転した





傭兵団「赤い牙」side


「三人(さら)われてまんまと逃げられた、と言うことか」

「申し訳ありません…私がついていながら……」


シルヴィーの顔は硬く強張り、だが目を逸らさずこちらを向いている

夜だし褐色の肌のため血が引いた色かどうかは目では判らないが

こいつのこの表情は三年前に仲間を二名失った時と同じだな、あれ以来こいつは髪を伸ばすことをやめた


「対人捕縛呪符から対魔獣戦闘呪符に切り替えを指示したのは俺だ、人質ごと麻痺させる手立てを無くしては取れる手はそう無い」

「でもみすみすマルホの背後に侵入を許してしまった事に変わりはありません」

「警戒線を抜かれた事は釈然とはしないが……相手が『飛びクトォー』だとお前を責められん」

「……」



三年前に現れた『ワンダラー』のうちの一人

それが『飛びクトォー』と後で呼ばれることとなる異能者だ

今判っているやつの能力は「離れた場所に一瞬で移動することが出来る」これは目で確認できる範囲に限られているようだが盗賊になる事を決めたやつには厄介きわまる、としか言いようの無い能力だ

二つ名を持たず、やつの能力が世に知られてないときに我々は遭遇した


グジョウの街で裕福な商家を狙い、押し入って高価な家財を片端から奪い、その上家人を皆殺しするという『畜生はたらき』する外道の盗賊が出没。売り払った盗品の売却先の範囲から根城の位置を数週間掛けて絞り込み、街の衛兵に街路の封鎖協力を団長が根回しした上での討伐戦。

盗賊の首領を含めてほぼ壊滅と言ってよい成果だった……ただ一人の異能者を取り逃がしたこと除いて。


シルヴィーにつけていた二人の部下はその時殺された




 大通りは衛兵による封鎖で次々盗賊団が切り伏せられて血溜りを作っていく中

やつは狭い路地を壁を蹴り路上に転がる雑貨などの障害物などなんの足止めにもならないかのように駆け抜けていく

 幾つかの分かれ道をみぎ、ひだりと曲がりながら駆けていくやつの背を見ながら追いかけていくシルヴィーを先頭とした捕縛班の三名


とある三叉路を右に曲がった事確認したときシルヴィーの部下のベンはほくそ笑んだ

「あの先は袋小路となって行き止まりです、やつの足がいくら速くても引き返して我々をすり抜けての逃亡は不可能でしょう」

「三対一でも油断するな、『窮鼠猫を噛む』とも言う、死に物狂いになった咎人は侮れん」

 行き止まりと知った盗賊が死角から攻撃することを警戒し、曲がり角に差し掛かる手前で追跡の速度を落とす。

気配を探り、近くの角に隠れて居ないこと確認してショートソードを構え路地に入る

だが30mほど先の石壁まで見通せたのに盗賊の姿は消えていた

3mの幅の路地の両側は石造りの家屋の壁がそびえ立ち、丈夫な木材の扉は堅く閉ざされたままで騒ぎが起きている気配は無い

壁に放置された朽ちた樽やガラクタと化した家具類の積み重なった陰に隠れている可能性もあるのでシルヴィーと部下はトライアングルの陣形を保ちながら捜索の手を進めたが……

「がっ!?」


 シルヴィーの左後方を担当してたカーチスがくぐもった声をだした

振り向いたシルヴィーが見たものは後ろから左手で口をふさがれ、右わき腹の革よろいの隙間に短剣を突き刺された部下の姿と、ネズミに似た頬骨の目立つ細めの顔の男の姿だった。


同僚を刺されたベンが左に回りこみ、男の背後を取ってシルヴィーと挟み撃ちにするポジションとろうと移動したときベンに向かってカーチスの身体を突き飛ばす

敵を目の前にして同僚の身体を受け止めたらダメだと反射的に身をかわすまでは良かったが、血反吐を吐いた同僚に気をとられ男から視線をきってしまった

その隙を見逃さずベンの喉元にスナップを利かした投擲、反応の遅れたベンは突き刺さる事をかろうじて回避したが、凶刃はベンの首の右側を切り裂いて背後の石壁に当たった後、路上に音を立てて転がる

やや遅れて噴出した血をふさぐかのように首を押さえた部下がゆっくりと崩れるように石壁に凭れ、そのまま横倒しになった。


 武器を投げて無手となった男だが、袋小路に追い詰めたはずの人物がどうやって背後をつけたのかが不明な以上迂闊に飛び込むわけには行かない。

 市街地での乱戦の可能性が有ったため制圧呪符の交付申請が通らなかったのが口惜しい。周囲に民間人や衛兵の居ない今の状態なら『麻痺(パラライズ)』や『目隠し(ブラインド)』で無力化も容易(たやす)いのに。


 だが、ぐずぐずしていては部下の命が危ない、制圧対象を無力した後なら信号弾を上げて救護班を呼ぶこと出来るが、敵がピンピンしている状態で戦闘力低い団員を呼べば死体が増えるだけだ

 情報とるため生かして捕縛する事を団長から耳タコになるほど言い聞かされているが、それなら「死なない程度に痛めつける」くらいなら許されるよね


ショートソードを握った右手を前に半身(はんみ)に構え、左手を相手から見て死角になるよう腰の後ろに回す、そこには投擲用武器として細身のダガーを仕込んでいる。


「部下二人に其処まで仕出かしたからにはおとなしく捕まる気は無いと思っていいな? 」

シルヴィーもこいつがそんな殊勝なタマではないと承知の上で会話による意識の隙を作るべく問いかける


「誘導されたことにも気付いてない間抜けどもに捕まるほど腕は悪くないつもりだけどな」

ニヤニヤ笑いを浮かべ、両手は無手であることを見せびらかすかのように腰の両側でひらひらと閃かす


「ほれ、こちらは丸腰だけどかかってこないのか? 用が無いなら帰らせてもらいたいんだけど」

こちらを苛立たせて向かってきたらカウンターを狙っているのだろう、反応したらやつの思う壺だ


「お前に帰る場所などあるのか? 行く場所など冥府の底の炎熱の海しか在るまいに」

この程度ではガキの喧嘩にもならないと思ったが


「ふん、一度死んだが地獄なんてそんな簡単に行けるほどいてないようだったけどな」


「まるで死んだこと有るかのような口振りだな、死に損なったのが自慢らしいが今度はきっちり送ってやるよ」


「送ってもらうなら天国がいいな、そこなら美女がいっぱい居そうだ」

男はそう言って空を見上げる。

貧民街の狭い路地からでも見える空は光に満ちた色をしていると言いたげに。


「誘い」だと思いつつ生まれた相手の隙を衝くべくダガーを引き抜き投擲した

だが、次の瞬間男のとった行動はシルヴィーの意表をつくものだった。


しゃがんでダガーを回避したのは想定内、追撃すべくショートソードを構えて突撃チャージした彼女を確認すると男はニヤリと口角を上げて宣言する


「【空間跳躍(ジャンプ)】」


しゃがんだ体勢から身を伸ばす行動の途中で男の姿は黄色い光の粉を撒き散らして掻き消えた


驚愕で一瞬身体が固まったが「幻術」のたぐいも考えられるので走り寄り、男の居た空間を数回()いで見た……手ごたえは無く、気配を殺して隠れているようでもなかった


「いまのが『ワンダラー』の異能のちからか……」


その後数秒ほど死角からの攻撃を警戒したが、既にやつは逃走し(おお)せたのか足音ひとつ聞こえない


取り逃がした事を認めるのは口惜しいが、いまは部下の手当てと救難要請が先決と思考を切り替える

緊急処置として「【止血(ヘモス)】」の呪符を取り出して使用するが早急に医療専門術士の元に運ばねばならぬ

カーチスの右腰のボックスから擲弾筒ランチャーと救難・重傷を示す赤色弾二発を取り出す

二秒の間隔を置いて打ち上げられたそれを見て医療班が駆けつけたのは10分もかからなかったが肝臓深く傷つけられたカーチスと頚動脈を切られたベンは失血性ショックで間も無く息を引き取った。




「『ジャンプ』と唱えて姿が消えた……過去にそのような例は無かったとは言わないが魔術士、いや魔道師クラスの者が現れたとなると厄介な」


遭遇して生き延びたシルヴィーから直接事情聴取した『赤い牙』団長はルビーのような透明度の高い瞳を閉じる

肩までかかる豊かに波打つ銀髪とルビーのような紅血の瞳、白磁器のように艶やかで傷ひとつ無く滑らかな肌、荒事ではなく宮殿で楽器を奏でる方が似合いの美丈夫

だが武芸も魔道の力も並外れて高く、領都どころか皇都でも彼と匹敵するものはそう居ないと畏れられる存在

50年前のオバーリ・トライリバス騒乱の元凶のワンダラーを討ち取り、それ以後もいささかも衰えぬ風貌

うわさだが先々代の皇帝の剣と魔道の師も勤めたとされるが、それだとゆうに100歳を超える(よわい)である

畏怖を込めて『不死者ノスフェラトゥウースラー』と囁かれている


「物を破壊するような術を使った痕跡は無かったようだが、使わなかったか使えなかったかを考えた場合、後者の可能性が高いと思える、『移動特化』だとすれば腑に落ちる」


 報告にある盗賊被害の内容も魔術で破壊された痕跡は無く、それゆえ今回の捕り物も相手に魔術士が居ない想定での布陣であった


「根城を急襲されたときにすぐに術を行使しなかったのは余裕からなのか、行使するには条件が満たされてなかったのかが不明だが、おそらく『自由にいつでも使える』わけではないだろう、いつでも使えるなら人に使われるより単独で窃盗する方がフリーハンドで行動できるし悪事の露見の時期も遅らせる」


「生き残りの盗賊からそいつの特徴と癖を聞きだし、以後の対策を立てるとしよう」

そう言ってシルヴィーの事情聴取は終わった


その後グジョウとその近辺での目撃例は無かったが国境を越えたギーブで「追い詰めた目の前で消える盗賊」の出没のうわさと『飛びクトゥー』の二つ名を聞くこととなる




フードで隠されてたので判らなかったが、あの人を食ったような口調を聞いてすぐ気付かなかった自分の迂闊さに歯噛みするシルヴィー


「自分を責めるのはそのくらいにしとけ、幸いといっちゃ何だが『手がかり』はたっぷり残っているんだ取り調べの方法はお前に任せる」

そう言って拘束具で捕縛された黒装束集団を見やりあごでしゃくって指示(さししめ)すブルーターク


「こちらの方は俺がじっくり事情聴取・・・・しようか、仕事を増やしてくれたお礼もこめてな」

メイドルとライバンと名乗った自由民兵(ぼうけんしゃ)の二人は【行動阻害(バインド)】を掛けられた上に後ろ手に拘束具をはめられてテーブルの前のベンチに座らされている


「おまえたちの馬には野営用の装備は無いな、近くに根城あるんだろ、素直に話してくれると嬉しいな♪」

岩鬼(トロル)に加えて黒装束の襲撃者の血潮に染まった風貌で微笑む顔を見て二人の自由民兵は

目の前の男が『グジョウの修羅(ブラッドサッカー)』の異名を持つ人物だと気付くのであった




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