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異世界の陽のもとに  作者: ぷれきおす
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06 野営地にて その2

 魚の干し物で取ったダシに味噌もどきで味付けをした野菜スープ、穀物を挽いた粉で練って焼いた異世界のパン。

 これで手枷が無かったらキャンプ気分で言う事無しだけど、暖かい食べ物を取る事が出来るのは幸せな事だと思う


「これは……味噌汁じゃないな、どちらかと言うとしょうゆ味か? 」

「穀物の醗酵調味料だと思うんだが、豆類じゃなく麦を材料にした……テンメンジャンに近い感じかな」

「テンメンジャンって中華みそじゃないのか? 」

「まぁ、『穀物原料の発酵食品で固形もしくはペースト状』を味噌と言う、ならこれも味噌と言えるかもしれないけど、日本では『大豆に塩と麹を加えた物』て前提で、米こうじを使ったのが米味噌、麦こうじを使ったのが麦みそ、豆を使ったのが豆みそ、そして複数混ぜたのがあわせみそ、と言われているんだ」


レンゲで掬った汁をひとくち啜った二人は料理薀蓄を話しだした、冷めないうちに食べないと作った人に失礼だぞ


 オレンジ色した野菜は日本のニンジンに比べてやや繊維ぽいけどシャクシャクしてなんか「暖かい梨」のような食感、白いダンゴぱいのはサトイモかな、ねっとりとして美味しい。

 カブっぽい野菜は歯を立てるとホロリとほぐれ、スープのダシを吸い込んで舌の上で溶けるように砕かれていく。

 三角形の角の取れたような楕円形のパン、ピザとお好み焼きの中間というか、表面はカリッと焼きあがり中はモチモチっとした歯ごたえで薄い塩味がつけられている、スティーブさんがサービスで付けてくれたボニート佃煮が甘辛くアクセントを奏でる。


「おいしいです、スティーブさんっ! 」


「そかそか、ものがおいしく感じられるのは良い事だ」

スティーブさんも自分の分をお椀によそったあと石のベンチに腰掛けて食事に掛かる

「スープに浸しながら食べるとまた違った味わいがあるぞ」

スキンヘッドのおっちゃん、テリーさんも口角をあげて微笑んでいる

以前だと凄んでいると思えた表情もいろいろ話した後だと男前に見えてくる、あんな笑いを出来る男になりたいなぁ


「こんな野外で食堂で食べるようなおいしい料理に出会えるとは思っても見ませんでした」

「スティーブさんはプロの調理師だったんですか? 」


「ぷろ? 」と怪訝そうなおっちゃんズ

 

 マヤさん、言語補正があっても英語の略語は通じないようです


「あ、ごめんなさい『その道の専門な訓練を受けた人』て意味です」


「はっはっはっ、うれしい事言ってくれるお嬢さんたちだ、新しい知識を取り入れる好奇心と回数こなす機会があればこれくらいは誰でもやれるさ、もちろん失敗も結構重ねたがな」

「謙遜はよくないぞ、うちらの団ではおまえを置いてみんなを満足させる腕の者はそう居ない」

「あーっ、班長と副班長は『作ろうか』と本人が言ってもみんなが止めたりするしな」

「ちげぇねぇ」


「ずいぶん楽しそうじゃねぇか」


いつの間にか背後からかけられた声に振り向くとブルーさんがニヤニヤして立っていた、ただ目は笑ってなかったが。


「腕に自信を持つことは悪い事じゃない、俺を引き合いに出さなければのハナシだがな」

「私は『私が作りましょうか』と言った事はそもそも無いですけどね」

シルヴィーさん無表情なのがなんか怖いです

スティーブさんとテリーさん失言聞かれてばつが悪い、て思っているようだけどそんなにおびえた様子でもないところを見ると互いに笑って済ませる程度なのかな、料理下手なのは周知の事実みたい。


「おまえらを叱ったわけじゃない、これくらいで飯がまずく思ったら大きくなれないぞ」

レンゲを持つ手が止まったのに気付いたのかブルーさんは近くに座ってたカズキさんの背をどん、とどやした。


「あ、はい、この味噌汁おいしいです、ただびっくりして手が止まっただけで……」

あわててレンゲで具をすくい口に入れて熱いと悶えたのは動揺を隠せて無いな、野菜スープとかじゃなく固有名詞を言葉に出してしまっているのに気がついてない。


「ふん、スティーブの料理は美味いのは世辞抜きで団のみんなが認めるものだが……」

そこでブルーはカズキからこちらへ視線を向ける


「お前達の里では食堂でもこんな料理を出すのか?」

……なんだろう、どこがと問われても思いつかないが今のブルーの質問は重要な意味を隠してる気がする


「えっと、このパンはあまり食べた事無いですが、この味噌汁は懐かしい感じがします」

マナさんが気づいて無いのかそう答えるとブルーはしばし瞑目した後こう告げた


「このパンと野菜スープ……『みそしる』と言ったか、それは両方『ワンダラー』がこの地に伝えた料理だ」

その言葉に「あっ」と反応したのはケンさんだった

ワンダラーが伝えた料理を出して反応を窺う、それは警戒する意識の外からのアプローチで出身地の推定の手段とした事に気がついたらしい。

 「種無しパン」は穀物を挽いて粉にした食文化の地域では材料はさまざまだが比較的広範囲に伝わり、あとはその呼称で属する文化圏を分類する、ナン、チャパティ、マッツォ、トルティーヤなど粉食文化圏では古くから食べられ、めん類と並んで主食の座にある。

醗酵を必要とするブレッドに比べ低温火力でも焼きあがる事で専用施設無しでも作れる事が強みだ。

 その種無しパンを「あまり食べない・・・・・・」と言った事、そして野菜スープに対して固有名称である「味噌汁」で呼んだ事


「おそらくお前達は『テラン』もしくは『アース』と呼ばれる世界の『ニホン』から来たな? 」

ズバリ切り込んできました、ブルーさん見た目より頭脳派だったんですねっ


「今すぐどうのこうのする話しじゃないから食べながらでいいから話をしよう」

そう言われても食卓の団欒と言ったもんじゃなく取調室での刑事さんと容疑者の雰囲気ですよー


「さっき言った『ワンダラーから伝わった料理』から話そうか。

こちらでもウィートを粉にして食べる習慣は昔から有ったが、大抵は野菜を刻んで脱穀した粒のまま一緒に煮込んで粥にしたものが主流で、粉を湯で溶いたものは病人や幼児など体の弱い者用で多くは作られてなかった」

「風車や水車で石臼を回して穀物粉の大量生産と粉を原料として作られるさまざまな料理、皇都から周辺国に伝えられるそれらの大本は『異界からの訪問者』が教えたものだと語られている」


「いま、疑問に思ったようだな」

ブルーはちらっとカズキの表情を見て言葉を止めて観察するように見つめる


「『異界からの訪問者』と『ワンダラー』を同じ者と考えたようだが、決定的に違う点から先に言おう」


「それは『意識の違い』と言う点だ、判りやすく言えば目的意識の有無と言う。

 『訪問者』は自分の意思で『何をしたいか』の目的を持ち、自分の力でここにやってこれる術を持つ

 『ワンダラー』はそれらを持たず、ここに来てから後で捜し求めて彷徨う者たちを指す」


「そして『訪問者』はその多くが自分が満足したら去っていく、目の前で消え去るか何時の間に居なくなるかは色々だが、身近な者に去る事を告げてその通りに姿を消す」


「共通点は『訪問者』も『ワンダラー』も並外れた能力の持ち主である事と……」

そう言ってテーブルの上に置いたコップに陶器製の水差しから水を注ぎ、一息で飲み干して僕たちを見渡す


「まるで用意したかのように『この世界の旅人の衣服』を着てある日突然現れる」


「まぁ、この事は過去の文献に残されている『訪問者』についてで、例外はほとんど無い。 

ワンダラーに関してはよその国で『奇妙な服装』をしていたとの目撃例が幾つか残されているらしいがその大半はその後の経過について書き記されて無いので確認が難しい」


「話を戻して、我々としても『ワンダラー』は正体不明の存在である、と言う点では放置しておく訳には行かない、悪を為すのではなく「良き隣人でありたい」と思う者には住む場所と仕事を提供して暮らしていく事に協力するのにやぶさかではない、ただそれには本人が努力を惜しまないというのが前提だ」

「働かずして与えられる事が当然と言うおかしな価値観の持ち主が過去何名か居て住民と衝突が起き『不幸な事態』が生じたのは珍しい事ではなかったからな」


「そいつらは異口同音になんとか言ってたな、憶えているか? 」

振り返って銀髪の副官らしい人に問うブルー


「三年前と五年前に現れた連中でしたか、なんか訛りがひどくて聞き取りにくかったですが『ちーとだからすきほーだいできる』とか『ちーれむさいこー』とか言ってたと記憶しおります、あと『おれつぅええ』とか」


それ聞いて頭を抱えるカズキとエミさん、ケンさんとマナさんは顔を覆った

四人の反応の違いは気になるが、自分としてもどう反応していいか迷った結果、あらかた具を食べ終わった野菜スープのお椀を両手で持ち上げズズッと音を立てて啜るしかなかった。


「言葉の意味は後で聞かせてもらうとして、その反応はそちらの価値観でも『ろくなものではない』と認識していると受け取ってよいかな? 」


 カズキさんが厨二病だとか(つぶや)いてエミさんとケンさんがハハハと力無い笑いで同意してた

マナさんはうちらもそうなってたかもねと少し自嘲気味なのが胸が痛かった。うん、自分も異世界に来たときその気分が皆無だと言い切れなかったのは確かだ。


「その『ちーれむ』とか言ってた連中はどうなったのですか?」


「五年前に現れた奴らはそこそこ腕が立ち、仲間同士の連携も悪くなかった、小鬼(ゴブリン)討伐も難なくこなして稼いだ金で娼館で遊ぶくらいは『まぁ良くあるもんだ』と見られたが……」

「そのうち『口入れ所』_お前達の言う冒険者の仕事の斡旋を行う役所_の窓口通さず仕事するようになってな、矮人ボックルの集落襲って皆殺し、と言う事件起こしてしまった」

「矮人は人族の子供くらいの背丈で血縁関係で結ばれた集落を作って、一族で山絹の布を織ったり貴石を磨いて細工した装飾品を人族との交易で売り、自分達では作れない日用品を購入する穏やかな連中だった」

「夜中に集落の周囲に結界張り、乾燥した毒草を焼いて毒煙で住民を皆殺しにした……老人や女子供含めてな」

「事が露見したのは交易商人が訪れて集落に住民の姿が無く、広場に焼かれた骨と衣服の痕跡があった事と倉庫の扉が開け放たれたまま荒らされてる事から魔物ではなく盗賊の仕業と届出があったからだ」

「調査とかは俺達は関わってないが、下手人が割り出された後の捕縛は俺達「赤い牙レッドファング」に仕事が回ってきた」

「手や足を砕きはしたが『生きたまま捕らえよ』の命令だったからな、胸糞悪い事件だが処刑する権限は無いし両者に死者が出ない程度の捕り物だったとだけ言っておく」


感情の無い淡々とした話し方だったがここまで話した後コップの水を一口飲んで短い吐息をついた

シルヴィーさんが減った分の水を水差しから注いでいる


「そいつらの言い分では『依頼は人里に近い森に巣食った小鬼ゴブリンの討伐』だが盗まれた荷物に損害出ると困るので焼き討ちはせず、静かに速やかに駆除するのが望ましい、と毒物と結界用魔導具を提供してもらったと」

「ワンダラーの連中は『俺達は小鬼ゴブリン矮人ボックルの違いなんて知らなかったんだ』と取調官に懇願したが『公的に認められた役場以外の胡散臭い仕事を請け負い、実行して罪を犯した以上その身で責任を負う、それが自由民兵(ぼうけんしゃ)の掟だ』と撥ね付けられたときの驚きの表情つら見て、基本的なことも知らない連中だと思ったよ」

「事件の背後には矮人と交易の認可を得られなかった闇商人の陰謀が有ったが、他国領の者としか俺達は聞いてない、そいつらがどうなったかはよく知らんが捕縛されて財産没収・島流しと風聞程度に耳にした」


「ワンダラーの処分だが、鉱山での採掘作業を命じられた。 矮人ひとりあたり金貨2枚相当、村の人口120名ぶんで金貨240枚にあたる鉱物資源を採掘すれば罪は(そそ)がれる事となった、これはワンダラー5名の連帯責任であり、全員でそれだけの功績を達成すれば元の自由民の権利を取り戻す事が許される」

 金貨240枚ぶんの鉱物資源採掘はキツイのか寛大な方なのか良くわからない

五名だと一人当たり48枚……この世界の貨幣価値が判らないですブルーせんせ。


「あなたの言うとおり僕たち4名はこの世界に来たばかりの者、あなた方の言う『ワンダラー』なのでしよう、したがって『金貨何枚』と言われても貨幣の価値がどんな物なのかも良く知らないです」

同じ事考えてたのかカズキが代表としてブルーに質問した、カズキは委員長キャラと脳内で認定


ブルーはそばに控えていた銀髪の副官を振り向き

「現物見て学べばわかりやすいだろ、シルヴィーちょっと見せてやれ」と頼む

「ブルー、あなたは文無しですか?」

「ちげぇよっ!、貨幣の全種類持っていること確実だからお前が適任だと判断した」

「買い物しても端数出るの面倒がって『つりはとっとけ』と言うからいつも『金欠だぁ』と愚痴る破目になるんですよ」

余計な事いわんでよろし、とブルーが言った事で漫才みたいなやり取りはそこで終わったが

この短いやり取りで二人の力関係の輪郭がそことなくわかった気がした


革鎧の内側に右手を入れて布製上着の懐から上質の皮袋を取り出し、巻きつけた革紐を解く_たぶんこの世界でも貨幣を入れる巾着袋は同じ形態へ進化してるのだろう_そして腰のポーチからさっきの巾着袋より大きい袋を取り出しテーブルの上に置く

大きめの袋からザラザラと赤や黄色や銀色のコインをこぼれ出す

一円玉よりやや小型の赤茶色のコインを五枚並べてそのとなりに一枚の黄銅らしいコインを置く

「これが最小額面の1シェント赤銅貨、炒った豆が一皿ぶん買える、これが五枚で次の額面の5シェント黄銅貨と同価格で種無しパン一枚が買える」

ふむふむ、なんとなく地球での1セント米硬貨と日本の五円玉にサイズ的に似た感じ


「そしてこの白銅貨が10シェント硬貨と50シェント硬貨となる、10シェントでエール一杯、50シェントで安いワインボトル1本」

日本円の100円硬貨と500円硬貨とだいたい同じサイズだが、なんとなく1シェント=10円くらいの感じがつかめてきた


「これらは補助硬貨で皇国の大半で流通していて居るが海を渡った土地では『基軸通貨』と呼ばれる硬貨が交易の決済用として使用され、それらは一般人ではあまり手にする事が無いですね」

小さい上質の巾着袋から三枚の硬貨を取り出してテーブルに並べる

「これが皇国の1ダル銀貨、シェントに直したら100シェントとなる、蜂蜜酒(ミード)がボトル1本買える」

50シェント硬貨とやや同じサイズで六角形のコインを指差し「これが10ダル銀貨、これまでが交易商が普段扱う基軸通貨として流通している、火酒(スピリタス)が3本買える」

「そしてこれが」金色のやや厚みのあるコインをつまみ上げ「100ダル金貨でこれ1枚で上質の火酒が樽で買える」


たとえが最初は食品だったのに後の方はほとんど酒関係なのだが、わかりやすいのかどうか悩むぞ

これまでの説明で1シェントが日本円で10円くらいで、1ダルが100シェント、約1000円と思えば良いのかな、たとえに出した酒類は聞いたことあるが飲んだ事無いけど。 つか10万円分の酒の値段がすぐ例として出せるシルヴィーさんって……


「えっと……」

カズキさんとケンさんがリアクションに困っているじゃないか


「金貨2枚あれば都会で4人家族が一ヶ月暮らしてちょっと貯蓄が残せるくらいの稼ぎと思えばよい」

そう助け舟を出したのはスキンヘッドのおっちゃん、テリーさんだ

ならば金貨48枚は一般家庭の約2年分と考えていいかな、1年が12ヶ月としたらだけど。


「五名で金貨240枚分、一人(あたま)で計算すると金貨48枚だと約2年の懲役刑?」

「おいおい、『賃金で働く』ではなく採掘した鉱物次第で刑期の長短が左右される不定期刑だ、それは何処にどれだけあるかわからないので単純に割り出せるものじゃねぇ、まぁ掘り出せなければ死ぬまで鉱山暮らしなのは間違いない」

それはそうだけど異世界トリップの定番のチートとかなら数ヶ月とかで出てこられるんじゃないかな、口には出さないが。


「銅鉱山か銀鉱山かにもよるがそれだけの鉱物得るには最短で10年はかかると見てよいだろう、それより早く掘り出せるなら解放後『山師』として雇ってもらえる」

まぁそんな都合の良い能力持ちはそうそう居ないだろうがな、と独り言のように補足説明入れるブルーさん

そう言えば捕まえる際に手や足を砕いたとか言ってましたね……


「この世界では『奴隷制度』がありますか?」

今まであまり口をきかなかったマナさんが意を決したように訊く


「その『どれい』が奴婢ぬひの事を指すならずっと昔に廃止されたが、借金の抵当かたに身を売ったり、罪犯した者を強制的に働かせる間国司くにのつかさが預かる事なら今もある」


 奴婢ぬひとはあまり耳慣れない言葉だが「持ち主に生殺与奪の権利を握られていて、主人に殴られたり犯されたり殺されても逆らう事許されない身分の者」である

国と国のいくさで敗れた国の民を捕らえて自国に持ち帰り領主の財産として働かせたり、人身売買の対象になり、奴婢に子が生まれれば一生奴婢のままよそに移り住むも許されない(親の世代なら自分の身を金銭(身代金)によってあがなう事も可能性として残されていた)


「まぁ、『自分で取り返す手段』を全部奪うような慣習は悪弊として神皇陛下が廃止なさったからかなり良くなったと思うが、海峡挟んだ向こうの東域では私物として持っている連中はまだ居るらしい」

だからふらふらと目の届かない場所に行かない事だと釘を刺された。

 禁止されても攫って売りさばく連中は後を絶たない、て事らしい。


「いろいろ教えてもらって僕たちは運がいい方みたいですね、この世界に来た初日にあなた方に出会えて良かったです」


「……『この世界に来た初日』……だと?」

ブルーさんの目つきが一瞬できつく変わった、カズキの言葉の何処に気に障る部分が有ったのだろうか?



そのとき日が沈んで暗くなった荒野に獣とも人ともつかないような咆哮が響いた

シルヴィーさんが街道のある森周縁部の反対側の岩石荒地の方向を目を眇めて見つめる


「距離600、騎乗した人らしきもの二名、100メータ離れてその後追う大型の影二体、おそらく岩鬼トロル

「『招かれざるお客』か、テリーとバンスとエドは馬を誘導して馬車の陰に退避、スティーブとスミスは照明弾イルミを6本用意、合図で打ち上げる準備、シルヴィーは『マルホ』を護送車に乗せて周辺警戒っ!」

「呪符は対人捕獲から大型獣攻撃符に変更、合図があるまで先走るんじゃないぞ」

ブルーさんは部下達に次々指示出しつつ体の各部位に手をやり何かを入れ替えている


「何かが引っかかってるとは思ったがこんな時に勘が当たるとはな」

「『いやな勘ほど良く当たる』といつも言ってる気がしますが」

「嬉しくねーよっ!」



文中の「マルホ」は保護対象者という隠語です

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