01 まずは歩き出そう
「そうだよなぁ……人種も性別も当たり前の事として特に注意して確認してなかったのが悪いんだよなぁ……」
鏡が手元に無いので顔は確認できないが耳の大きさと尻尾からしていわゆる「獣人」という奴なのだろうか、顔や手の具合から毛がフサフサのケモナーじゃなく人間ベースに獣パーツ足した程度のオサレ獣人と言う類のものなのだろうか。
大学時代の友人に「獣人スキー」と呼ばれる奴が何人か居て「フサフサこそ至高」だの「可愛いこちゃんに猫耳尻尾が究極の存在」とかどうでも良いネタで延々自説を述べてたな。
俺の借りていたアパートで集まるたびにやらなければそいつらを生暖かい目で見るだけで済んだんだが
大家さんに家賃払いに行く度気まずい思いしたが、孫たちに「お絵かきして~」と頼まれて「なんとか戦隊◎◎ジャー」や「イケメンラ◎ダー」のイラスト描いてあげた為「大きいお兄さん枠」で親しみをもってお茶をいただく程度には親しんでくれたと思う、そう思いたい。
この世界で獣人がどんな地位であるのか不明だが、隠し通す事は困難だ
人里はなれた場所で隠遁生活なんてハードル高い、元文明人にサバイバル生活ン年とか無理無理
とりあえず人が居る場所、村か町を見つけて情報仕入れながら街や都市で職探しが妥当だろう
その場合「親と死に別れて街に職探しに出た『少年』」と心がけるようにしよう
「親と死に別れた」は聞く者に身元詮索されるのを躊躇わせるだろうし、嘘じゃない(死んだのは親じゃなく本人だが)
性別を偽るのは心苦しいが少年らしく振舞い相手がそう勘違いしてしまうよう誘導するのは許してもらえるんじゃないかな、勝手な言い草だけど。
この世界がどんなものかはまだ判らないが「庇護する大人が居ない少女がひとり」と言うのはどんな危険が飛び込んでくるかぐらいは容易に予想が出来る。
「獣人の少年」でも危険は有るだろうけどそれは言い出したらきりが無い、走って逃げれば追いかける奴の比率は低くなるだろう、たぶん。
今のところこの遺跡に危険の兆候は見られないが何時までもここで呆けては居られない
早いとこ人の居る地域に辿り着いて生活の基盤を見つけなくてはならない
灰色スーツ男の言葉通りなら徒歩三日ほどの移動範囲内に原住民居留地あるらしいからな。
背負い荷袋から食料と調理器具と食器を肩掛け鞄に移し替えて移動の準備をし終えたところで軽い寒気を感じた。
別に危険が迫ったと言うのではない、いや、ある意味「危険が近い」で合っているのか
男性であれば適地とか気にせずそこらの立ち木に向かってズボンのジッパー下げて相棒解放すれば用は足せる
だがこの体が身に着けているズボンはジッパーではなくボタン留めであり、相棒が居ないため用を足すにはズボンを脱いで膝まで下ろしてヒップを露出しなくてはならない。
そして用足し後はアレを必要とする。
「さっきリュックとバッグ調べたとき、ティッシュなんてオサレなシロモノ無かった……」
「用足ししたあと拭かずに下着を履くか、いやいや「恥ずかしい染み」なんてたとえ他人に見られなくても濡れたままだと確実にキモイ、つかヤダ。」
混乱ゆえか言葉遣いと思考がおんにゃのこそのものに染まっているのに気づくのが遅れた、それほど緊急事態に瀕しているのだ、おお紙よっ
周囲の森を今度は精神集中して見渡す
山歩きとか昔の田舎のトイレでは広葉樹で柔らかな葉を揉んで緊急事態の応急対策にしたと死んだ婆っちゃまに聞いた記憶がある。
あの頃は「田舎ぱねぇ」と笑い飛ばしたけど、いざ自分にその災厄が降りかかるとは、婆っちゃま笑ってゴメン。
草に覆われた小道を遺跡の入り口と仮定して、遺跡の裏側に目的の木を見つける
薄紫の花をつけ、大きな葉を茂らしていて揉めば使用できるか
数枚摘んで急いで木陰かつ草の茂ってない場所に駆け寄りズボンを下ろす。
解放感に打ち震えた後、大事な作業に取り掛かる
「や~らか~くなーーれっ、や~らか~くなーーーれっ!!」
葉の裏は白く細かい毛が生えていた、柔らかそうだけど皮膚炎ないよね
元の世界の桐の木に似ていたがここは異世界、同じものとは限らない
必死に念じていると手元の葉っぱが光って柔らかな紙状のモノに変化したのに気づいた
(これは「形質変化 現象」かっ?! )
手触りは不織布のそれで有り、手で揉んだ程度で作成できるものではない、普通ならば。
すなわち普通でない工程で生じた事に間違いないだろう
目の前で起きた現象に思考が取り込まれかけたがしゃがみ姿勢が長引いてふくらはぎの痺れがジンジンとしてきたので慌てて秘所を拭く、当初の目的は達成したので立ち上がりヒップを隠してから鞄を置いた場所に戻る。
今起きた現象を確かめるには複数の手順を試してみて、同じ結果が生じるか違った結果になるかを比較する事だ。
再び桐らしき木から葉を複数摘み、一枚を手の内に、残りを鞄の上に置いて手元の検体に意識を集中して言葉を紡ぐ……成功、緑色の不織布もどきが出来た。
次は集中して言葉に出さずに心の中で唱える……さっきより時間かかったが成功。
最後に見つめるだけで言葉を思い浮かべずにただ揉んで見る……葉の汁が手を汚しただけで砕片となって手から零れた。
これらの比較実験により「内心で思うだけでも意識を明確に、標的の変化内容を言語化して取り組む」
上手く言えないが、これが「魔術」と言うものだろうか
言葉に出した事で結果を速やかに生じさせる……これは「詠唱」と考えればよいか。
思いがけない形でこの世界と魔法の一端に触れて興奮した。
「今まで「魔法がある」と聞かされても実感が湧かなかったけど、自分の手で行使可能と判ると夢広がりまくりんぐ~~!! 」
よし、魔法検証は納得できたし、出発だ~~~っと思ったけどトイレ紙もうちょっと作ってからね
♪ピロリロリ~ン♪
一度にどれだけの枚数作れるか試しながら練成して、トータルで週刊少年ジャ◎プ一冊分生成したところでコンビニのドア開閉時のようなチャイムが耳元で鳴った。
『練成 技能がレベル2になりました』
『運営主任様からメールが入っております』
音声と同時に視界の左隅に半透明の窓が現れ、告げられた内容が文字として記された
なにこれ、いわゆるゲーム脳と言う奴?? ……意味は違うかもしれないが。
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Toサイタニさま
『このメールは転生者の皆様へ個別に送られています
転生者が異世界におきまして何らかの行動を起こし、初期所持スキルのいずれかが2に上昇
もしくは所持スキルから派生した新スキルを獲得したときに告知される仕組みとなっています
ハザマの世界で設定した基本数値をもとに各人の肉体機能と技能は数値化され、
自己の状況把握する手助けとして【ステータス閲覧機能】を付与しています
平静時に「ステータス表示」と宣言する事で(小声でつぶやく程度の音量で結構です)
このメール閲覧と同じような半透明窓として他者には見えない情報があなた方の目に映ります
戦闘時や走行時など視線を切ると危険が有るときは使用しない事をお勧めします
初回特典として「ステータス」の各項目の説明をいたします
生命力としてHP、魔力としてMPと表記し、最大値と現在値を表示
疲労の目安としてSP表記、気力万全を100気絶寸前を0としてパーセントで表示
気力は所持するスキルにより多少回復する手段は有りますが、基本休憩取る事をお勧めします
「攻撃力」ATKは基本能力の「筋力」に武器のAtk数値を足して運による増加・減少の修正幅
「防御力」DEFは装備した防具の数値を主に基本能力の「敏捷性」で回避する能力で修正が行われます
「当たらねば問題ない」が先で、運悪く避けきれずに当たったときにどれだけ軽減できるかです
攻撃力-防御力で後者が上回ったときは怪我は無し、防具が傷む程度です
まぁ、サイタニさまは基本戦闘回避の方針なのでこういう言い方になりますが戦闘不可避の状況では
回避よりも防具の丈夫さを優先して身に着ける事も考慮に入れたほうがよろしいかと
「回避」AVOは敏捷性を元に衣服や防具の動きやすさが関係します
「器用さ」DEXは物づくりの経験で上げやすい項目です
その場合術より手で作る事で理解がより深まります
「賢さ」 WISは手持ちの情報を組み合わせて予測を立てる賢明さをあらわします
「直感力」INSは潜在意識からの声を聞く閃きです
「虫の知らせ」「霊感」など思考よりも感覚的と言った所でしょうか
「職業」は所持するスキルの一番高い物を元に表示
「称号」は転生者の行動を我々運営者が吟味して世界に貢献の度合いで評価してつけます
称号により行動の成否に正・負の修正が掛かる事もあるので御注意ください
このメールを保存しておいて、後日ステータス閲覧後再び読み直す事があれば重畳であります』
From 転生者移住計画責任主任 バルキエル
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…………うーみゅ
たぶん、このバルキエルさんは灰色スーツさんのことだよね、神様じゃなく天使さんぽい?
なんか中間管理職ぽい役職名だけど公務員だとしたらかなり腰が低いようで意外な気がするな
「ステータス」と呟き、表示された結果は以下のようだった
才谷 仁 (サイタニ ヒトシ)
種族 狐人
年齢 13 *生前の23歳より10歳減少
性別 female
HP 34/34
MP 22/46
SP 76/100
ATK 15 (+0) 警棒+20 山刀+35
DEF 20 (+7) 旅人の服+1 旅人の外套+2 旅人の帽子+2 上質な革靴+2
AVO 35 (+3) ズボンと革靴着用時 スカート・サンダル履きだと修正値0
DEX 55 (+1) 紙作り経験により 技能1獲得
WIS 60 (+0) 動く前に考える人、考え過ぎで動かない傾向あり
INS 60 (+0) 必要は発明の母、目指せママさん発明家
【練成レベル2】【植物知識レベル1】【動物知識レベル1】【鉱物知識レベル1】
【言語補正レベル1】【感覚強化レベル1】【分析レベル1】
祝福【神の書庫閲覧レベル0】
職業 練成術士見習い
称号 紙に祈りし者
………なんじゃこれ、色々突っ込みどころ満載な気がするが、口に出したら負けな気がする、うぐぐっ
前言撤回、腰が低いように思わせて人をおちょくって楽しむ腹黒タイプだ
とまぁ、出鼻を挫かれた感じだが気を取り直して
背負い袋と肩掛け鞄にチリ紙を詰めて残り数枚は懐紙、と
それらを袈裟懸けと背負う順にし装備して立ち、足元を確かめて未知の道へ いざ出陣
天気晴朗にして風は穏やかにほほを撫でて行く、ボクの旅立ちを祝福しているかのようだ
両手を胸の前で握り締め気合を入れて歩き出す
本文で人物の名がやっと出ました