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オマエラサーガOP2ch  作者: 主神西門
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小さな慟哭

峠の山小屋


白の魔法使いアリスのいた井戸の前に、セイクとルースは立っていた。


「そろそろ来るか…」


「あれだけ派手に音が響いたから、

向こうから現れるでしょう。」


セイクの問いにルースが答える。


四方から聞こえる様々な鳥の囀りは、まるで会話をしているようにも思える。


「あの白の魔法使いの意図がわからない。何故、攻撃をして来たんだ?」


「野盗と間違われたのかもしれませんね。」


「もしマグスと手を組んでいたとしたら、厄介だな。」


「白の魔法使いは基本的に中立を保ってきた種族です。この戦争に介入するとは思えませんが。」


「ならば良いのだが…。」


セイクの言葉の跡、静寂が周囲を包んだ。風が木々の葉を揺らす音だけが聞こえる。


「ルース、奴らは誰を追っている?」


セイクのその問いに、ルースは答えずにいた。彼は気付いていた。


鳥の囀りが聞こえない。


「近くにいます。」


そう囁きながら、ルースは剣の柄に手をかけた。セイクも二本の長刀を構える。背中合わせで周囲の気配を探る。


森の木々の間で何かが光った。


木々の間から放たれた閃光が2人の間に撃ち込まれる。左右に別れてかわしたが、ルースに向けて、ふたつ目の閃光が追撃する。その間に、セイクへ突撃する影がひとつ。


ぶつかり合う金属音。セイクのふたつの長刀が受け止めた剣も2本。

双剣使い同士の対戦。


長刀に押しやられ、下がる襲撃者をセイクの猛攻が襲う。セイクの持つ長刀と対照的な短い双剣では、間合いに入れず応戦するのみだった。

間髪入れずに襲い来る刃の一瞬の隙を突き、襲撃者は跳躍し森へと逃げ込んだ。

追いかけようとするセイクをルースが止めた。


「そこまでです。」


「何故だ!」


「その長刀は森の中では不利です。

私が追います。」


ルースの追撃が始まった。

道無き道と言うべきか。

鬱蒼と生い茂る雑草と低い木々の中を掻き分けながら進む。


森の奥から、剣を擦り合わせる音が僅かに聞こえてくる。


わざわざ自分の位置を知らせるか。

最初から狙いは自分だったのか。

覚悟を決めて音を辿る。

やがて、日の光が差し込む場所に出た。


そこには、切り倒した木を椅子がわりに座っている先程の襲撃者がいた。ルースと目を合わせると、襲撃者は立ち上がった。その顔はまだ幼く見えるが、その身体から発せられる気配は、常人のものではない。


「お会いしたかったですよ。剣王シモン•レイス。」


襲撃者は屈託のない笑顔で迎えた。


「その名は捨てた。」


「申し遅れました。私はキルス。しがない傭兵です。そして、あなたと同じ裏切り者ですよ。」


「裏切り者…」


「あなたは剣王シモン•レイスの名を背負わなければならない。それが義務ですよ。死んでいった仲間の為に。」


キルスが構えた双剣が、赤い光を帯び始めている。


「しかし、それも今日で終わりですよ。あなたを倒して、剣王の名は私が引き継ぎます。」


「好きにすればいい。」


「では…行きます!」


キルスが先に斬り込む。


が、倒れたのもキリトが先だった。

両手が痺れる。重い斬撃を受け止め切れなかった。それ以上にキリトを困惑させたものがある。


剣王シモンは一歩も動いていない。

剣を抜くのさえ見えなかった。


力では双剣は不利だ。

体格差で、力でも押し負ける。

速攻による急所への一撃で仕留めるしかないが、剣王シモンの剣捌きの速さは想像以上に速い。

それらを補うには魔力を織り込むしかないが…。


「それがお前の弱さだ。」


シモンがキルスへ剣を向けた。


「それ?」


「お前は剣士じゃない。ただの策士だ。本当の剣士は剣の声を聞く。」


「意味がわからない。」


シモンが動いた。


鈍い音が響く。

シモンが剣の柄がキルスの顎を砕いた音だった。


あまりの速さに、キルスは防ぐ事も出来ず、その痛みにのたうちまわっている。


「気取るな策士。剣士でもないお前を斬るほど、俺は誇りを捨てたわけじゃない。帰ってお仲間に伝えろ。

山を越えて帰れ…と。」


ルースに戻った剣王シモンは、セイクと合流し、峠を降りた。


村へ戻り、ユキからそれまでの状況報告を聞いてセイクは溜息をついた。

やはり敵の兵数は未知数だ。


柏崎とジョーカルドの負傷もかなりの痛手だ。ウィンティス王国軍へ応援要請の使いは既に出してはあるが、果たして間に合うかどうか。

その前に、相手が兵団を送り込んで来る可能性さえある。


そうなれば、この村はひとたまりもない。


「今夜から夜警を立てる。」


遅過ぎな感もある。とりあえず、イブンと、村人数名が最初の夜警の任務に就いた。


各所に篝火を焚き、イブンは広場で腰を下ろしていた。


そこへ近づく小さな影がひとつ。


イブンが振り向くとそれはナオだった。ナオはイブンの隣にちょこんと座った。


「何で来た?」


「眠れません。」


「明日も早い。寝る」


「イブンさんは、何処の国の人なんですか?」


唐突な質問に、イブンは唖然とする。


「遠いところ。」


「なんでウィンティスに来たのですか?」


「奴隷だった。セイク隊長に助けてもらった。セイク隊長、命の恩人。」


その言葉にナオは黙り込んでしまった。その様子を見て、セイクは懐から小さな人形を取り出し、ナオに差し出した。


「私が作った。」


その人形はお世辞にも上手く出来ているとは言い難いが、愛嬌のある顔をしている。


「可愛いですね!」


「娘いた。けど、死んだ。あげれなかった。」


「え…」


「あげる。御守り。」


「でも…」


戸惑うナオの手の平に人形を置き、イブンは優しくナオの頭を撫でた。


「心配ない。だから寝て。」


優しい笑顔だった。


「これは何ですか?」


ナオがイブンの石のブレスレットを見つけた。磨きあげられた茶色の石が、篝火の灯りを映している。


「故郷の石。この戦争終わったら帰れる。」


「早く帰れるといいですね。」


その言葉にイブンの返事はなかった。その表情は険しく、脇に置いていた槍を握りしめている。


「早く、ここを離れて。」


そう言うと同時に、イブンの槍が闇に向けて孤を描いた。その柄には、矢が一本突き刺さっていた。


「あいつらが来た。逃げて。」


柄に刺さった矢を抜いて、イブンは闇の一点を睨んだ。

ナオは赤いアーチャーの襲撃に備える。ファントムもその背後に姿を現した。


「敵襲!敵襲!みんな来てくれ!」


その異変に気付いた村人が叫ぶ。


闇の中から、あの黒い騎士が現れた。


「ヨージョを返して貰おう。」


マスクのしたから低い声が響く。


返答の代わりに、イブンの槍が唸りを上げる。しなりながら襲い来る槍を黒い騎士は苦もなく受け流す。

ファントムを差し向けようとした

ナオをイブンが制止した。


「これは一騎討ち。」


その顔には、先程の優しさはなかった。


「なるほど。礼儀として私も全力で相手をさせて貰おう。」


黒い剣士は剣を構えた直した。


「我が名は、アーク•ディー」


イブンは槍を地面に突き刺し、腰の剣を抜いた。


「イブン•サラー•ムハドハーン」


名乗りを終えた両剣士は、相手へ向けて突撃した。


鈍い金属音が幾度も響く。

互いに一歩も引かず、必殺の剣を繰り出す隙さえ与えずにいた。


ドス!


鈍い音が、それを止めた。

イブンの胸から剣先が見える。

背中から貫いたその剣には、何かの文字が刻まれている。


「こんな雑魚に手間取るなんてな。」


崩れ落ちるイブンの背後にいたのは、シスだった。


「次はてめぇだ。チビ。」


シスの剣先がナオを指す。その禍々しい剣がら、イブンの血が滴り落ちた。


その瞬間、ナオの中で何かが弾けた。ナオの分身、ファントムが凄まじい勢いでシスへと襲いかかる。


その猛攻を阻んだのはアークの剣だった。ナオの表情が怒りに歪む。


「魔法使いのクソチビ!てめぇだって分かってるだろ。これが戦争だ。

卑怯もクソもねぇんだよ!」


シスが嘲り笑う。しかし、その顔が苦悶の表情に変わった。シスの身体を貫く漆黒の剣。


「ア、アーク…てめぇ…何を…」


闘気を纏ったアークの一撃だった。


「戦いを穢した貴様の罪は重い。」


その闘気は龍となり、一気に剣へと流れ込む。


「消えろ。」


轟音と共に、シスは原型を留めぬ程に四散した。


広場には、既に皆が集結していた。

剣を抜きながらも、アークの予想外の行動に戸惑い斬り込めずにいた。


「あの剣士はまだ息がある。」


その言葉で、ナオはイブンへと走り寄った。


「イブンさん!」


その声に、イブンは最後の力でブレスレットを差し出した。ナオは溢れる涙を止めきれなかった。

もう助からない。誰の目にも明らかだった。


イブンの剣をアークが拾い上げた。

取り囲む遊撃隊の間に緊張が走る。

離れて時を待つアンナも弓を引き絞った。


アークはイブンの剣を

自らの左手に突き刺した。


「お前の剣士としての誇りを、私の身体に刻んでおこう。イブン•サラー•ムハドハーンと言う誇り高き剣士を私は忘れない。」


その言葉を聞き取れたかはわからない。イブンの鼓動はそこで止まった。


アークは尚も続ける。


「ここの首領は誰だ。」


そう語りかけた剣士の中からセイクが歩み出た。


「マグス軍の一個中隊が山を越えて、こちらに向かって来る。その分隊は今夜にでも襲撃して来るだろう。守備を固めた方がいい。」


「貴殿が、その先遣隊ではないのか?」


「私はヨージョを迎えに来ただけだ。これから襲撃して来る連中は

見境なく殺す奴等だ。たとえヨージョといえど、無事では済まないかもしれない。」



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