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オマエラサーガOP2ch  作者: 主神西門
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漆黒の剣

翌朝。

セイク、ルース、北斗、ジョーカルドの4名が討伐隊として峠へと向かう。マグス軍の謎の集団が4名だけだとは限らないため、残りの者は村の警戒に当たる事になった。


峠には古い山小屋があり、そこには井戸もある。奴らも生きている以上、飲み食いはするだろう。可能性は低いかもしれないが、先ずはそこを目指して村を出た。


山小屋へは日が登りきる前に到着した。セイクとルースが小屋の中を隅々まで確認したが、人が入った形跡はない。

一方、小屋の周囲を確認していた北斗が、井戸の縁に座っている少女を発見した。逆方向から小屋を回って来たジョーカルドもその存在に気付き、息を呑んだ。


雪のような純白の鎧に負けぬほどの白い肌。吸い込まれそうな青い瞳を隠すかのように金色の長い髪が風になびいている。


「こんなところで何をしている?」


北斗の声を聞いて、セイクとルースが駆けつけた。少女は無表情に2人を見ると、その場に立ち上がり空へと向けて両手を突き上げた。その手から天へ閃光が放たれる。あまりの眩しさに目を覆う4人。次に目を開けた時には、すでに少女の姿は消えていた。


「北斗、上!サークルバリア!」


ジョーカルドの言葉に、北斗は咄嗟に空へ向けてドーム型の光の幕を張る。ほぼ同時に、幾つもの光の筋が空から地上へ向けて叩きつけられる。重なり合う衝撃音は地面を揺らし、やがて静寂へと変わった。

呆然とする北斗。セイクとルースは、北斗の背後にいたため難を逃れたが…。


「ジョーカルド!」


北斗が叫んだ方向には、穴だらけになり、崩壊寸前の山小屋だけだった。ジョーカルドがいない。


「ジョーカルド!どこだ!」


北斗が再び呼びかけると山小屋の影から、ひょっこりジョーカルドが顔を出した。


「いゃあ、参りましたよ。いきなりですもんねぇ。」


意外と呑気だ。


「あの娘は何者だ?」


セイクが唖然とした表情のまま尋ねた。


「あの技、以前に見たことがあるんですよねぇ。スーターダストホワイエだったかなぁ。」


頭をかきながら、ジョーカルドが語り出した。


「ノーランドでね、見たことあるんですよぉ。その頃はまだナオぐらいの女の子だったから、気が付かなかったけど、あの娘はアリスって名前だったなぁ。」


「ノーランド!?」


セイクの表情が硬くなる。


「そう、ノーランド。あの娘、白の魔法使いですねぇ。強いですよぉ。」


「何故、ノーランドの魔法使いが……。まさかマグス軍側に寝返ったのか?いや、あり得ない。」


「何とも言えませんねぇ。」


2人の会話を聞いていたルースはある事に気付いた。


「おい!背中…」


北斗がその声で、ジョーカルドの背中を覗き込む。服は大きく切り裂かれ血が流れている。


「やられたのか!」


「擦り傷ですけどねぇ。」


「馬鹿!そんなわけあるか!」


北斗は手から光を発し、ジョーカルドの背中にかざす。


「止血と消毒ぐらいしか出来ない。村へ戻ろう。」


「では北斗、君がジョーカルドと一緒に先に村へ戻ってくれ。私とルースはもう少し調べてから戻る。」


北斗の提案にセイクらはそう答えた。


サウル村。

村の水汲み場のある広場で、ナオと柏崎、ヨッシーと魂燃郎がユキが来るのを待っていた。セイク達はそろそろ峠の山小屋へ到着しただろうかという話しをしていた時、ユキが男2人を連れて現れた。


「待たせてすまないねぇ。この子達がもたもたしちゃってさ。ヨッシー、燃郎、いつも通り鍛えてやって。」


「ハイハ〜イ。しむらん、あんな事やこんな事の訓練、一緒に頑張るわょ〜」


ヨッシーは相変わらずのハイテンション。それに構わず、しむらんと呼ばれた男が一歩前に出で、いきなり柏崎の手を両手で包んだ。


「初めまして、志村です。得意技は訓練回避です。あなたのお名前は?」


「柏崎…。」


戸惑いながら答える。


「柏崎さん……好きです!」


ヨッシーが後ろから、志村の首を腕で締め上げる。


「あんた、何いきなり口説いてんのよ!女口説こうなんて10年早いのよ!あたしのカームハーメ波叩き込んであげようかしら。」


「やめて下さい、オカマはめはめ波とか、いろいろ怖いです!」


確かに怖いかもしれない。柏崎は思った。ナオは意味がわからない。


「カームハーメ波よ!あんた、ちょっとこっち来なさい!」


そう言いながら、ヨッシーは志村を引きずり出した。


「ごめんなさい!やめてー!」


志村の声が情けない。


「しむりん!何を勘違いしてるのよ!見廻りよ、見廻り!」


賑やか過ぎる。


うるさい2人が消えた為、かなり静かにはなった。


「では、我々も見廻りに行きます!

行くぞ、もやし!」


燃郎はいちいち声がでかい。

もやしと呼ばれた男は確かにひょろっとしている。先程の志村もそれ程体格は良くなかったが、この男に比べればまだましな方か。魂燃郎ともやしは、ヨッシー達とは逆方向へ向かって歩き出した。なんだろう、もやしが背後霊に見える。存在感のなさがも、個性なんだろうか。


「あたし達は、ここで待ちましょうか。面倒な事は、男に任せておけばいいのよ。」


3人は、広場の隅にに置いてあった樽を椅子がわりにして座った。

陽射しが暖かい。水汲み場には女達が集い、会話を楽しむ。まさに井戸端会議というやつだ。何を話しているかまではわからないが、たまに湧き上がる笑い声が、戦いの日々を癒してくれる気がした。向かいの屋根の上に見える山々の向こうから、脅威が近づいていることには変わりないのだが。

その日常の風景に、ひとつの異変が紛れ込んだ。

家々の間の細い路地から、白い枕を抱いた少女が現れた。ナオと同じ年頃かと思われるその少女は、水汲み場の女達の方へ歩いて行く。

誰かの子供だろうか?女達もその子供に気が付いたようだ。


「見かけない子だね。どこの家の子だい?」


少女は眠そうに目をこすり、その手を山々の方へ向けた。


「名前はなんて言うんだい?」


「ヨージョ…。」


「ヨージョ?誰か知ってるかい?」


周りの女達は黙って首を横に振った。


「おひるね……しよう?」


少女は抱いていた枕を差し出した。


「何を言ってるんだい。変わった子だねぇ。」


「ふえぇ……。」


少女が大きなアクビをした。

その場に居合わせた女達がひとり、またひとりと倒れて行く。


広場の隅でその様子を静観していた3人は、咄嗟に立ち上がった。

女達の元へと駆け寄ろうとしたユキとナオを柏崎が両腕で制止した。


「私が……」


そう言い残し、柏崎は1人で歩き出した。途中、あの少女が出て来た路地に、チラリと目をやった。そこにも人が倒れているのが見える。

ゆっくりと近づいて来る柏崎を少女は横目で見ている。

やがて、柏崎が目の前に立つと、少女はそちらに向き直った。柏崎も少女の目線に合わせて腰を落とす。


「おひ…」


少女の言葉を聞く前に、柏崎の平手が少女の左頬を弾いた。少しよろめいた少女は左頬に手を当てて呆然としていたが、その顔に怒りが現れた。

バスッ!

柏崎の喉元を狙った少女のナイフによる一撃は、柏崎の左腕で阻止された。


「ダメ!」


柏崎はそう一喝すると、両腕で少女を抱きしめた。


「ダメ……こんな事……」


震えながらも振り絞るような柏崎の声を聞きながらの、少女は何も出来ずにその腕に身を任せている。心の奥から封じていた感情が湧き上がってくる。これが後悔というものか。


ナオが走り出そうとしたその時、

風を切るような音がして立ち止まった。つま先の地面に一本の矢が突き刺さっている。矢が放たれたであろう方向を見ると、そこには白い弓を構えた、赤い鎧の女が立っていた。

額の赤いサークレットを覆うような銀色の髪と対象的な赤い瞳は、すでに柏崎を捉えていた。


金属が擦れるような音がした。

柏崎が剣を抜いている。

ナイフが刺さった左腕をだらりと下げながら、弓矢を構える女へと、剣を向けている。その目は赤い瞳の一点を捉えて動かない。少女の方は、枕を抱いたままその場に座り込み、ただ柏崎の背中だけを見上げていた。

赤のアーチャーが、柏崎へと矢を放った。柏崎はその矢をその剣て叩き落とし、アーチャーへ向かって歩き出す。それを阻止するかの様に、二本目の矢が放たれるが、柏崎はそれも叩き落とし、距離を詰めていく。通常ならあり得ない。無表情に見えても、その目に覚悟以上の意思が宿っている。


「私も、本気でいくわ…」


そう呟いた赤いアーチャーは、その弓を引き絞った。それでも尚、柏崎は向かって来る。並の動体視力と反射神経ではないのはわかったが、この距離では…。


「光陰魔弓…。」


白い弓から矢へと光が乗り移る。魔法を込めた渾身の一撃が柏崎へと放たれた。


ゆらり。


柏崎がよろけるように動いた。その剣先は天を指す。謎の光を帯びた矢は、その剣に弾かれて方向を変えた。そのまま家の屋根をえぐり取り

彼方へと消えて行く。それを確認することなく、柏崎はその剣を赤いアーチャーへと振り下ろした。


鈍い金属音が広場に響いた。


柏崎の剣を受け止めた漆黒の剣があった。赤いアーチャーの前に壁のように立ちはだかる黒い騎士。マスクに空いたふたつの穴から覗く鋭い眼光は、柏崎をじっと見降ろしている。

力によるせめぎ合いという訳ではない。剣を交えたまま、しばらく睨み合いを続けた。それは、剣を極めた者同士の会話のようなものだった。

漆黒の剣が、柏崎を押しやった。

その力を利用するかの様に、柏崎は後ろへ飛んだ。

充分な間合いと取り、柏崎はその剣を鞘へと納めた。

赤いアーチャーが矢に手をかけたその時、背後から声がした。


「綺麗な髪ですね。美しい。」


その声の主は志村だった。


「瞳も綺麗だなぁ。」


志村がそう言い終わる前に、アーチャーの手に持った矢の先端が、志村の喉を捉えていた。


「激しい愛情表現は嫌いじゃない。」


志村は怯まない。むしろ、怯んでいるのはアーチャーの方だった。


全く気配を感じなかった。

このように至近距離で背後を取られたのは初めてだった。その気になれば、いつでも自分を斬れたはずだ。

底知れぬ不気味さをこの男から感じ取っていた。


「アンナ……。」


黒い騎士のマスクから、低い声が響いた。その一言でアーチャーは騎士の意思を読み取った。


「わかりました。離脱します。」


黒い騎士の身体から、黒い霧の妖気が立ち上り、やがて龍の姿に変わり剣へと纏わり付いて行く。その剣を黒い騎士は地面へと叩きつける。


轟音と共に砂煙が周囲を包み込み、

ふたつの影を掻き消した。



斬撃の爆風を利用して、黒い騎士とアーチャーは後ろへと跳躍していた。砂煙が2人を覆い隠す。


「なるほど、こういう使い方もあるんですね!勉強になります。」


その声の主に気付き、アーチャーは戦慄した。

志村も同じく跳躍している!


咄嗟に弓を志村に向けたが、一瞬早く志村の抜いた剣の柄で阻まれた。その反動で志村は離脱する。


アーチャーも体制を崩したが、黒い騎士がそれを支える。間髪入れずに、二回目の斬撃を志村へと向けて放つ。再び舞い上がる砂煙と爆風の向こうへ志村は消えた。


「次は必ず射抜きます。」


「威嚇だけで良い。」


「しかし、それでは…。」


「引き際を知らぬ者は死ぬだけだ。

あの女剣士はそれを知っている。

生き残れば、強くなれる。」


2人の気配は、遥か彼方に消えて行った。



それを確認し、立ち上がった影がひとつ。


「黒龍閃覇かぁ。まともに喰らったらバラバラに吹き飛ぶなぁ。」


地上に残された斬撃の跡を前に、志村は囁いた。


「闇闘士アーク•ディーにアンナ•シナスタシアか。面倒だなぁ。」


その髪を掻き上げ、苦笑いした。








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