◼︎第一章 サウル村編 月明かりに斬る
Open2chから生まれた作品です。
キャラを募集し、そこからストーリーが生まれました。次から次へと追加されるキャラを活かす為に予想外の展開になります。
書いていて、自分自身楽しい作品になりました。
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1398678740/l50
青白く澄んだ月光の中に、自らのものではない影がある事に気付き、男はその歩みを止めた。
峠の一本道。月明かりを頼りに、男は先を急いでいた。
「綺麗な月だ。あんたを魔界へと、ちゃんと導いてくれるだろうさ」
影は男に語りかけながら、ゆっくりと近付いて来た。男は慌てる素振りも無く、顔だけをわずかにそちらに向けて目の端でその正体を捉えた。
長い黒髪を後ろで無造作にひとつに纏めた風貌は野盗かと思われたが、その身体を包んだ黒いマントは、確かにマグス軍のものだ。恐らくは傭兵だろう。マントの隙間から剣先がキラリと月光を映している。斬るつもりか…。
「流石は噂の剣王様だな。肝が座っていらっしゃる。聖王騎士団の最後の生き残り、シモン•レイスと、こんなところで会えるとは運がいい。」
傭兵は隠していた右手の剣を、ゆらりとシモンへと向けて構えた。
その刀身には、何かの文字が刻まれているのが見える。
「シャーマンブレードか。」
シモンが初めて言葉を発した。
「ご名答。確かにこれはシャーマンの剣。いわゆる魔剣だ。剣王様を斬るにはこれぐらいでないとな。」
「その剣を使えるのなら、お前は人では無いな。」
「だとしたらどうだと言うんだ?シモン。あんただって似たようなもんだろう。」
「ああ。化け物かもしれないな。だが剣王様と呼ばれるよりは、ずっとましだ。そんな柄じゃない。」
「殺すのは惜しいな。その力、マグス皇帝のために使ってみたらどうだい?生き残るにはそれしかないぜ。」
「ひとつ気になる事がある。さっきから私を殺すと言っているが、誰が私を殺すんだ?まさか自分だとは言わないよな?」
シモンはニヤリと笑みを見せ、傭兵の方へと向き直った。
「そのまさかさ。このセス様があんたを斬るんだ。こいつらの様にな。」
傭兵セスは剣を月明かりにかざした。その刀身が淡く青い光を帯び始めると同時に、周囲の土が盛り上がり、人の形を成し始めた。
4体の土人形はそれぞれ違っていたが、その全ての顔をシモンは知っていた。聖王騎士団の兵士だった男達だ。
「驚きだろう。この剣は斬った相手の魂を吸い取り、それを忠実な奴隷として使役出来るのさ。」
やがて泥人形達は、生きている人間と見分けがつかないほどになり、それぞれが剣を掴んで立ち尽くしている。シモンはそのうちの1人を見て、愕然と目を見開いた。
「副隊長…まさか…。」
「ああ…そいつは、ここに来る前の村で斬った奴だ。流石は元聖王騎士団副隊長、老いているとは言えなかなかの腕だった。かなり手こずったが何とか仕留めた。」
傭兵セスのその言葉に、シモンの瞳に怒りが宿った。それを感じ取ったシズは不敵な笑みを浮かべながら言い放った。
「あんたに、こいつらが斬れるかい?戦場を共にした仲間を。」
シモンは剣の柄に手を掛け、わずかに腰を沈めて目を閉じた。
「殺せ…」
その傭兵セスの言葉で、まず副隊長と呼ばれた男が瞬時にシモンへと突撃した。右下から左上への斬撃をシモンは鞘で受け流し、身体を回転させながら抜いた剣で、相手の腕を斬り落とした。その切り口からは血ではなく、砂が溢れ落ちて来る。まさに一瞬の出来事だった。
「人の死を……駆け引きに使うな!」
今度はシモンが傭兵セスと突撃した。盾となるべく立ちはだかった他の三人を一太刀でなぎ払い、傭兵セスへと天から地に向けて、その剣を振り下ろす。セスが受け止めようと構えた魔剣は鈍い音と共に二つに折れ、セスの身体には一筋の線が現れた。