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魔導学園のとある先生  作者: 魔法使い(仮免)
とある先生と生徒たち
18/26

三年前

読んで下さっている方々に感謝します



「先生、結局三年前の戦いの詳細を聞いていないんですが?」


 それはゴブリン、オークの二体の王種の侵攻があった翌日、事後処理に追われる生徒会役員たちがリョウカの淹れた紅茶で一休みしているときのことだった。ついにハルカが悠に言った。悠は忘れてたようで、そういえばという顔をしていた。


「第三魔導学園の一部は樹海に近いところにあるから、何人かの人はその戦い見ていたのよ。もちろん終わってから口止めされたんだけどね」

「そうだったんですか……」


 疑問に思っていたことが解けたアキホは納得したように頷いている。


「その話をわたくしたちが聞いてもよろしいのですか?」

「大丈夫よ、もう関係者になってるし」


 悠が笑いながらリョウカに安心するように言うが、全く安心できそうにないその言葉に笑えないリョウカだった。


「三年前は――――」


 悠が話し始めたのを聞きながら、トウワもまた三年前へ思いを馳せていた。






 ◇ ◇ ◇


 ――三年前――



「ようやく全ての筆記試験と実技試験の半分が終わったわ」

「長かったー」


 二人の少女が第三魔導学園にきている。周りには学園の制服をきていない人が、彼女らの他にもたくさんいる。というのもここ数日この学園では入学者選抜試験が行われていた。そう、ここにいる人は全て試験の受験者である。


「トウワー、疲れたよ」

「はいはい、シキちゃんもう少しだから頑張ろうね」


 この少女たちはシキ・ランスターとトウワ・ワイマール。


 トウワは王国の侯爵家、シキは一般家庭の娘であり、貴族平民などの身分差の意識がそこまで高くないこの国でも、この組み合わせは少し異常だ。普通なら身分差を考え、躊躇してしまうようなところである。しかし彼女たちは全く気にしていないようだった。彼女たちは、ちょっとした縁で友人になっていた。すでに互いに一番の友だちと言えるほどに、長く深い付き合いである。


「そういえばシキちゃんは魔導学園受けるのね。わたしは実家を継ぐのかと思ったわ」

「まだ興味のあることとか無いからねー。何か本当にやりたいこと、見つかるかなって」


 どこの魔導学園も入学するのは非常に難しい。魔法の知識だけではなく、魔法使用する技量も必要だからだ。しかしこの少女はやりたいことがないから、という理由だけで試験を受けていた。これには流石のトウワもいつもの笑みが引き攣っている。


「まったくシキちゃんったら、自分のことなんだからちゃんと考えなきゃダメよ」

「だって、どうせならトウワと一緒のところにいけば楽しいかなって思ったから……」

「……」


 予想外の回答に思考が停止するトウワ。いつの間にこんなに懐かれていたのか、皆目見当がつかない。真っ直ぐにそんなことを言われると少し気恥ずかしいものがある。


「トウワ? どうしたの?」

「な、なんでもないわ?」

「何で疑問型?」

「本当になんでもないから大丈夫よ」

「まあいっか。今日はあと何やるんだっけ?」

「今日は―――」


 トウワが答えようとしたとき、放送用魔導器具で放送が入った。


『受験生の皆さん、至急学園内の講堂に集まってください。学園の生徒の皆さんは寮へ戻ってください』


「何があったのかな? 建物の中に入れって言うぐらいだから外で何か起きているの?」

「多分、ね。シキちゃん、講堂へ行こうか」

「うん」


 しばらく歩いてからシキが口を開く。


「ねぇトウワ、外見える場所あるかなー?」

「どうだろうね、あの辺からなら見えると思うよ」


 そう言ってトウワは左側に見える建物に指を向けた。


「あれ、なにー?」

「あれは学園の寮かな。ほら、制服をきている人たちが何人か屋上から外見てるし」


(ふーん。そこへ行けば何が起きてるか分かるかも!)


「見に行こう、なんて考えてないわよね」

「……何でわかるの?」

「そこそこ長い付き合いでしょ、わたしたち」

「あそこに行こーよー!」

「寮に入れてもらうのは、難しいと思うわ」

「じゃあこっそり入ればいいよね!」

「もっとダメだと思うけど……」

「バレなきゃだいじょーぶだよ!」


 そう言ってシキが寮に勝手に入ると、諦めたような顔をしてトウワもついていった。






 いくつかの階段をすべて上がりシキたちは屋上に着いた。そこから見えたのは見渡す限りのゴブリン。学園から樹海までは三キロメートルほど距離があるが、その間を物凄い数のゴブリンが埋め尽くしている。ゴブリン軍は横に広がりつつ進軍している。既に戦闘は始まっていた。しかしゴブリンたちは全く止まる気配を見せない。


「あんな数のゴブリンが攻めてくるなんてね……。一体どうするのかしら? 学園の結界はとてつもなく強力って聞いたことがあるから、この中にいる限りは大丈夫そうだけど……」

「そうなんだ。でもここは大丈夫でも街の人たちは?」

「上手く避難できる場所があればいいけど……」


 トウワの言葉はシキの不安が的中していることを如実に物語っていた。


「魔導隊や騎士団の人たちは?」

「結構長い間樹海から魔物が攻め込んでくることが無かったから、要塞都市とはいえ戦力はあまりないのよ。それ以前にこの数相手にまともに戦える人がどれだけいるか……。というかこの数は正直異常よ。ゴブリンは通常百前後の群れで暮らしているのに、ここには二千くらいはいそうよ」


 トウワの言葉を証明するように、ジリジリと防衛ラインが下がっている。魔導隊、騎士団以外にも学園の上級生たちが迎撃に出ているようだが、それでも数の差はどうしようもない。


「儀式魔法を撃つ時間さえあれば……」


 険しい顔で戦場を見つめるトウワはそう呟いた。


 儀式魔法とは十人前後の魔導師たちが協力して放つ魔法で、広範囲にわたって効果があることが特徴だ。


「大丈夫かなー?」

「……どうだろうね」


 思い詰めたような顔をしているトウワを見て、シキは素早く動き出す。


「…………えいっ!」

「ちょ、ちょっと、シキちゃん、なにするの!」


 シキは突然トウワの背後に回り込み、くすぐり始めた。


「ちょっと! ねぇ、いきなり何するの!?」


 トウワはいきなりのことで反応できずに、されるがままになっている。


「っ! お願いっ、も、もうやめて!」


 しばらくしてトウワが降参した。そしてようやくシキはくすぐるのをやめた。


「もう、どうしたの?」

「今トウワ、凄く怖い顔してた……」

「怖い顔って……、少し傷付くわよ……」


 シキの言葉に茶化すように返すトウワ。そんなトウワの目を見つめながら、シキは話を続ける。


「トウワ、今自分の魔法で少しでも役に立てるかなって考えてたでしょ」

「よく分かったわね……」

「回復魔法の使い手は確かに一人でも欲しいと思ってるはずだよ。だけどね、戦闘が終わってからならともかく、今行ったところで相手から集中的に狙われるよ。みんな自分のことで精一杯だから、トウワの護衛ができる人なんていないよ」


 ゴブリンなどの多くの魔物は、弱い敵または厄介な敵から攻撃する傾向がある。その程度の知恵はあるのだ。回復魔法を使えるものは常に護衛と共に行動する必要がある。


「でも、わたしが行けば怪我した人も戦えるようになるから結果的に街の人たちも守れるわ。それに私は『聖女様』だからね」

「トウワっ!」


 自嘲するように言うトウワを、シキが厳しい声で遮った。


「なに、シキちゃん?」

「トウワがどんな風に育ったか、この前教えてくれたよね。そういう環境だったからかもしれないけど、トウワは少し自分のことを軽く見すぎだよ!」

「でも父上も母上も別にわたしのことは……」


 弱々しい声で、そしてどこか自棄な調子で返答するトウワ。そんなトウワにシキはさらに詰め寄る。


「トウワのお父さんたちは関係ないよ! トウワがいないと私が寂しいよ! だからもっと自分を大切にして!」


 シキの言葉に目を丸くするトウワ。シキの目に見えた涙は見間違いではないだろう。シキは本気でトウワのことを心配していた。


「……分かったわ。ごめんね、シキちゃん」


 その言葉を聞いたシキは満足そうに頷いた。もうトウワにはさっきまでの投げやりな感じはしない。トウワはそのまま言葉を続ける。


「……とう」

「ん? 何か言った?」

「ありがとう」

「すごいでしょ、もう私のこと小さな子ども扱いできないでしょー」

「フフッ、そうね」

「でしょでしょー! 頼れる友人をもって幸せだねートウワ! 私はやっぱり大人だねー! 」

「ソウダネーシキチャン」

「なんかバカにされてる気がするー」

「キノセイダヨ」

「うーん、ま、いっか」


 既にいつもの笑みに戻っているトウワにシキは真剣な調子で言った。


「じゃあトウワ、行こっか」

「……え?」


 突然言われた言葉に理解が追い付かないトウワ。今まで危ないから行くな、と言っていた友人が率先して戦場へ行こうと言うのだ。


「ほら、早く!」

「えっと、さっき行くの反対って言ってたわよね?」

「私がトウワと行けば問題ないよね!」

「大丈夫?」


 言ってることが支離滅裂な友人の頭を心配して言ったわけではない……と思いたい。


「トウワは死なない、私が守るもの」

「シキちゃんが危険じゃないかってことよ」

「私が死んでも――」

「さっきから何言ってるの?」

「いや、なんか頭に浮かんだ?」


 電波を受信するシキを不思議そうな顔で見つめるトウワ。そんな二人が戦場へ向かおうとしたその時、巨大な空間の揺らぎが発生した。そしてゴブリン軍の右翼に混乱が生じた。


「すごい魔力だねー」

「あれは……」


 その方向を見るとゴブリン軍のおよそ三分の一ほどが何かに囚われている。


「学園長キョウ・イザヨイの結界魔法……。話には聞いていたけどこれほどなんてね……。人が使う魔法の規模じゃないわよ」

「この学園の学園長って確か大陸十二門で、【虚影】の二つ名を持っているんだよねー?」

「そうよ」


 結界によって区切られた中からは、ゴブリンたちの悲痛な叫び声だけが聞こえてくる。右翼側にいた魔導師たちは既に他の地点へと散っている。たった一人で完全にゴブリンを押さえているキョウの力に、二人は驚嘆している。


「今度は何?」


 トウワの目に飛び込んできたのは紫の雷。その規模は魔導師の能力が尋常ではないことを示していた。学園長の強大なその魔法と比べても遜色ない規模の雷光が戦場を駆けた。


「きれいだね」

「こんな規模の魔法が使える人が他にもいるなんてね……」


 この状況において少しズレた感想を抱くシキと、魔法の威力に呆気にとられるトウワ。崩れかけていた戦列が持ち直し、ゴブリンたちを押し返していく。少し余裕が持てるようになったところでゴブリンの長たちを優先して王国魔導師団は狙う。長が討ち取られた隊は連携が取れずに逃げだしたり、バラバラに襲いかかったりしているところを各個撃破されていく。


「トウワー、行こうよ」

「そうね、怪我をしている人がいるからね」


 二人が戦場へ向かって程なくして、銀の閃光が王種へ駆け抜け、あっさりと戦いに幕を引いたのだった。






 ◇ ◇ ◇



「――――というわけ」

「へぇー」

「そんなことが……」


 どうやら悠の話が終わったようだった。シキがトウワの方へ近づいた。


「トウワー、どうかしたの?」

「どうして?」

「ミツルギ先生が話しているとき上の空だったから……」

「何でもないわよ」


 心配そうなシキに笑顔で答えるトウワ。


「シキちゃん、これからもよろしくね」

「うん! 当たり前だよ」


(わたしって結構シキちゃんに頼っているわね)


 そう思ったが悪い気はせず、むしろ心地よいその感覚にしばらく浸るトウワだった。






 余談ではあるが、三年前のゴブリン軍の侵攻の際に、報告された被害が軽微で済んだため、事態を楽観視した王国上層部が軍備増強を許可しなかった。そのため今回も王国魔導師団の手が足りなかったのだ。悠、キョウが暴れすぎた弊害ともいえるものであろう。




分かりにくいかもしれませんので補足します。


魔導師の部隊→魔導隊

国に所属している魔導隊→国家魔導隊

王国所属の魔導隊→王国魔導師団


ということでお願いします

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