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魔導学園のとある先生  作者: 魔法使い(仮免)
とある先生と生徒たち
16/26

第三魔導学園の長い一日 その八

「避けきれますか?」

「もちろん! そっちは?」

「当たり前です」


 迫りくる無数の水弾をシキとヒノは躱し続ける。


 ヒノは既に右目の色を金に変えている。ヒノの先天は[特異体質系]の【魔眼】。ヒノのそれは類を見ないほどの強力な力を持っている。普通、魔眼にはひとつの効果しかない。しかしヒノのそれはは三つの能力を宿していた。一つが遠見の魔法【千里眼】である。これは最大で半径五キロメートル以内のほぼすべての場所を視ることができる。例え障害物があったとしてもそれらすべてを越えて視ることができるため、情報収集には向いている能力である。もう一つは【真眼】。この世の事象の真偽を見抜く瞳である。つまりは彼女に嘘は意味を成さず、幻覚も効かない。この二つだけでも十分強すぎる能力であるが、彼女はさらに強大な力を持っていた。それこそが【未来視】だ。その名の通りの能力である。最大で五秒先の未来を視ることができるが、多くの魔力を必要とするだけではなく、それらの情報を処理するために脳を酷使するため、あまり長時間は使用できない。今ヒノはその【未来視】の力を全力で使用して、水弾を避けていた。


「流石に今日は能力使い過ぎましたよ……」

「がんばれー」


 一方のシキは、背中から焔の翼を広げて空を舞い、水弾を避けていた。こちらも魔力の消費が激しい。


 しかし躱した水弾は、Uターンして二人に襲いかかる。このままでは先に魔力が尽きてしまうのは彼女たちであろう。なぜ水弾を破壊しないかというと、一度ヒノが水弾を壊したところ、飛び散った水が再び集まって元通りになってしまったのだ。破壊するにはシキの高威力の炎しかないだろう。だが、四方八方から襲いかかる水弾がそれを許してはくれない。


「生徒会長、この水弾を一度にまとめて消滅させることできますか?」

「十秒だけ時間くれたらできるよー」

「任せますよ!」


 そう言ってヒノはシキが中に入るように、風の障壁を作り出した。


「【颶風の聖域】(ブラスト・サンクチュアリ)」


 この魔法は魔力を流している間永続的に障壁を展開するが、強度や範囲も魔力依存のため、二人とも中に入った状態でこの攻撃全てを受けきるには魔力が足りていなかった。もしヒノが万全な状態であれば、簡単に使えるであろう魔法。だが今日一日戦い続けているため、魔力も底を尽きかけていた。そのためヒノは自分自身の防御を最低限に、二本の鎖を体に巻き付けるようにして攻撃を耐えていた。


「チッ、そこそこイテーですね……」


 シキに向かう水弾は全て風の障壁に弾かれる。そのためヒノに水弾が殺到する。たった十秒だかヒノにはとてつもなく長い時間に感じられた。


「もういーよ!」


 シキの声が聞こえたと同時に障壁を解除する。障壁の解かれた空間には先ほどよりも随分と小さくなった翼をもったシキがいた。しかしその翼に込められた魔力を理解できる者には、その翼に恐怖を感じずにはいられないだろう。それほどまでに濃密に魔力が圧縮されていた。


「爆ぜ散れ、焔翼!」


 シキの背後の翼が急速に、そして不規則に大きくなり、周辺の水弾を巻き込みながら膨張していく。そして周辺の水弾を呑み込んだ後、巨大な爆発を起こした。


「だからボクを巻き込まねーで下さい!」


 ヒノは残りの魔力をつぎ込んで全力で防御する。


 あとに残ったのはシキとヒノ。そして左腕を切り落とされ、右腕も肘より先が炭化している満身創痍のゴブリンの王であった。


「シキちゃん、ヒノちゃん!」

「ご無事ですか、お二方」


 そこへ現れたのはトウワとミヅキ。先ほどの爆発を目にして急いでやって来たようだ。


「って、ヒノちゃん!? 大丈夫?」

「このくらいなら問題ねーですよ。少し王種とやらを侮っていましたよ……」


 思わぬ反撃を受けたのは自分の認識が甘かったからだというヒノ。


「とりあえず治療するわ」

「戦闘が終わったらお願いしますよ」

「え、だってもう……」

「いえ、まだ終わっていねーです」


 ヒノの視線を追うと、再び水弾を作り出しているゴブリンの王の姿があった。






 ◇ ◇ ◇



 悠は天へ向けていたアスカロンをゆっくりと下ろし、辺りを見渡す。凄まじい砲撃の余波で、悠の周りを円を作るように木々が倒れていた。


(環境保護団体があったら訴えられてるレベルですよね……)


 しかしアレウスが既にやらかしているため、今さらという感じである。


 悠は辺りを見渡したときに感じた魔力を頼りにゴブリンの王のいる場所へ向かう。魔力も大分使ってしまったため、あまり速度は出せない。


 道中ゴブリンにもオークにも遭遇することはなかった。


(ここから逃げ出したのでしょうか? やはり王種を狙うのはよい方法でしたね)


 周辺からゴブリンやオークが逃げ出したのは確かに王が倒されたのが一因ではあったが、大部分の要因が悠の魔法に恐怖したせいであることを悠自身は自覚していなかった。


「……この声は」


 悠の耳に入ってきたのはシキとヒノにトウワ、ミヅキの声であった。どうやらまだ戦闘中のようだ。


(誰も怪我してないといいのですが……)


 悠がたどり着いたときに目にしたのは、もはや瀕死ではあるが、戦う意思が未だに折れていないゴブリンの王と、肩で息をしている四人であった。先ほどシキたちが戦っていた場所から大分動いたためか、他のメンバーは見当たらない。


「みんな無事?」

「なんとかですけど」


 代表してトウワが答える。他の三人は水弾を破壊していたため、話している余裕が無い。トウワは魔力切れのため、もう戦う余力は残っていない。


 ゴブリンの王がその場に登場した悠を捉えた。その瞬間ゴブリンの王は絶叫する。


「マタ、オマエカ! マタ、ジャマスルカ!」


 その言葉を聞いたミヅキが水弾を斬りつつ、悠に問う。


「また? どういうことですか?」


 悠が険しい顔をして答える。


「おそらく、三年前の戦いの時に王種の近くにいた長たちの生き残りでしょうね。たかが三年で王種になるなんて、どれだけ魔力量が濃いとこにいたのか……」


 ゴブリンの王は既にシキたちを見ていない。その目に写るのは悠だけだ。


「ナゼ、オマエハ、ジャマスル……。オマエハ、ナンナンダ?」


 錯乱したようにそう言いながら、全ての水弾を悠に向け放つ。


 悠は水弾を躱し、切り裂きながら王種へ迫る。


「何故か? 理由は一つだけですよ。別にあなた方に怨みがあるわけでは無いのです。ただ私の大切な子どもたちに、そして教え子たちに危害を加えられるのを黙って見ていることはできません」


 そう言って至近距離で掌を腹部に押しつける。


「そして私が何者か、との問いへの答えですが……」


 悠の掌に魔力が集まる。後方からの水弾は全て尻尾からの氷刃で氷結させ、砕いている。掌から紫色の光が溢れた。


「ただの魔導学園の先生、そして二人の子どもの母親ですよ」


 悠が手を引いてゴブリンの王に背を向けると同時に、ゴブリンの王は肘から先を失った右腕をだらりと下ろし、地面に膝をついた。そしてそのままうつ伏せに倒れ、二度と立つことはなかった。


 その様子を見ていた四人は、心の中で一斉に突っ込んだ。


(いや、貴女がただの先生なわけないでしょ……)


「むぅ、ちょっと納得いかないんだよ!」

「何がです? 生徒会長」


 膨れっ面をしたシキが悠を指差して言った。


「先生に美味しいとこ盗られたっ!」


 シキの言葉にはっとなる悠。悠としては突然キレられた挙げ句、集中的に攻撃されたためつい反射的に反撃してしまったのだが、その言い分が果たしてシキに通じるかどうか……。


「ごめんね……」


 肩を落とす悠にヒノが声をかける。


「結果的に倒せたのですから、誰が倒したかなんて問題ありませんよ、先生。生徒会長、こっちもギリギリだったじゃねーですか。いつまでも文句ばかり言ってんじゃねーですよ」


 その言葉に納得するシキ……というわけにもいかず、駄々をこねるシキに悠がエーブラスの有名スイーツ店のプリンを買うことを約束して、ようやくシキの機嫌が直った。もちろん悠は、シキを羨ましそうに見ていたヒノにも買うつもりだ。というより今回参加したメンバーに、慰労の意味を込めて贈ろうと心に決めた。


 シキを宥めながら歩くこと少し、残りのメンバーと合流することに成功した。


「皆さんお怪我はありませんか?」


 リョウカが聞くも、全員問題なしと答える。


「怪我人がいてもわたしがいるのよ? 大丈夫に決まっているじゃない」


 そう言ったトウワを見て、リョウカは呆れながら言う。


「トウワ先輩、魔力切れですわよね。今日だけでどれ程回復魔法使ったのですか?」

「問題ないわよ」

「問題ない人はミヅキ先輩に背負われている訳ないでしょう?」


 リョウカの言った通り、ゴブリンの王を倒した後トウワは他の三人の治療をして、立てなくなってしまったのだ。


 そしてリョウカは溜め息をつきながら続ける。


「回復魔法は自分に使っても効果が薄いのではありませんでしたか?」


 そう、回復魔法の使い手は自分に魔法をかけると通常の半分ほどしか効果が無いのである。


「リョウカちゃん、落ち着いて」


 そう言ってアキホはリョウカを宥める。


「トウワ先輩も無理しないで下さいよ。リョウカだけやなくウチも他の皆さんも心配しますから」

「フフッ、分かってるわよ」


 嬉しそうに笑ってトウワは頷いた。


 そしてトウワはとあることを思い出した。いつも以上の満面の笑みを浮かべながらヒノの方を向く。


「ねぇ、ヒノちゃん?」

「何ですか? 副会長」

「さっきまた『生徒会長』呼びに戻ったけど、シキちゃんのこと一度名前で呼ばなかった?」

「……ナニヲイッテイルノデスカ?」


 そう、あれはオークの王がシキを槍で突き刺そうとしたとき、確かに名前で呼んでいた。


「いつも喧嘩ばかりだけど、やっぱり本当は仲良しさんだよね」


 優しげな眼差しでヒノを見つめるトウワ。そのヒノの方は非常に居心地が悪い。現場にいた人もいなかった人も、どちらも同様に向けてくる暖かな視線がヒノの心にダイレクトアタックを仕掛ける。


「べ、べべべべべつに、仲良しでもねーですし! そもそも生徒会長のこと名前で呼んでもいねーです!」


 完全にパニックに陥っているヒノにシキは勝ち誇ったように言う。


「そっかー! そんなに私と仲良くしたかったんだね! まったく素直じゃないなぁ!」


 その一言にヒノは冷静さを取り戻す。


「何言ってんですか? 頭イッテんですか? 誰がアンタと仲良くしたいって? そんなわけあるはずねーでしょーが!」


 いつもの二人に戻ってしまったのを見て、ガッカリすると同時に日常が帰ってきたことを実感する一同であった。












ようやく収拾がつきました……

一時はどうなるかと思いましたよ……

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