表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導学園のとある先生  作者: 魔法使い(仮免)
とある先生と生徒たち
15/26

第三魔導学園の長い一日 その七

大変長らくお待たせしました。(え、別に待ってないですか?)


前話までの主な変更点は活動報告の方に纏めさせていただきました。





「これで!」


 シキとヒノは先程からゴブリンの王と戦闘しているが、未だに致命打を与えることができていない。ゴブリンの王は密着して打撃を与えてくるシキに対して、攻撃のタイミングに合わせて攻撃の方向に体をずらすことによって、ダメージを軽減していた。


 ゴブリンの王が剣を突き出すと、シキは後ろへ下がった。間合いをとったシキに向かって、水の玉が飛んでくる。ゴブリンの王が放った魔法であった。


「魔法つかえるの!?」


 シキは炎の壁を出して水弾をとめた。蒸気が上がり、一瞬視界が奪われる。そこに再び飛来する水弾。シキに当たるかと思われたその水弾は、突如出現した鎖によって阻まれた。


「油断しねーで下さい」

「むぅ、分かってるよー」


 鎖を待機状態に戻しながら、ヒノが言う。油断があったのは本当のことなので、いつものように強く返すことのできないシキであった。


 シキと入れ違いになる形で、今度はヒノが鎌をもって接近する。風の足場を使って軌道を読まれないように三次元的な動きで接近する。近づいたところでゴブリンの王にむかって鎌を振り下ろすが、この一撃は剣で受け止められる。しかしヒノの目的は相手にダメージを与えることではなかった。


「今です!」

「いっくよー」


 どこか気の抜けるような返事と共に、既にゴブリンの王の背後に回り込んでいたシキが炎を纏わせた拳を王の首にぶつける。そして着地すると、今度は背後から一点を集中して殴り続ける。ゴブリンの王は抜け出そうとするが、ヒノの鎌で剣を絡めとられているため、すぐに脱出できなかった。


 逃げられら無いと悟ると、ゴブリンの王は即座に剣を手放して背後にいるシキを蹴りつける。シキがその攻撃を避けて距離を開けたところで、ゴブリンの王も剣を拾って後ろへ下がる。


 互いに間をとったその時、突然空が暗くなり、大きな魔力の放出を感じた。何事かと思い戦闘中であることも忘れて、シキたちだけでなくゴブリンの王すらも空を見上げる。するとそこにはとてつもなく巨大な岩があった。


 巨岩が恐ろしい勢いで落ちてくると思われたが、再び驚くべき出来事がおきた。先ほど感じた魔力より遥かに膨大な魔力が吹き荒れ、地上から眩い紫光の柱が立ち上った。巨岩を全て飲み込んでも有り余るその柱を見て、ヒノは苦笑する。


「やりすぎですよ……」


 シキの方は光を見たあと、ニコニコと笑っていた。


「すごーい! やっぱりきれいだよねー」


 巨岩が光に飲まれ塵となって消えたと同時に、ヒノは風の刃をゴブリンの王に放つ。ゴブリンの王は風の刃を避けきって、反撃にヒノに向かって複数の水の刃を放ったが、ヒノはそれら全てをギリギリで避けながらゴブリンの王との距離を詰める。


 そんなヒノを見て、ゴブリンの王は口を醜く歪ませた。ヒノの後ろからは、先ほどゴブリンの王が飛ばした水刃が音も無く急旋回して戻ってきていた。ゴブリンの王はヒノに対して持っていた剣を投げつけることで、意識を前方に向けさせた。さらには水弾を放ってシキを牽制し、ヒノへの攻撃に気づかれないようにしていた。


 このとき、ゴブリンの王は勝ちを確信していた。相手の小さな人間は水刃に気づいてないようだ。あれはある程度こちらから操作できるのだ。とりあえず一人を殺せば、もう一人の方もあっという間に片付くだろう。そして人間の街へ進攻し、あの日の借りを返してくれよう。そう思っていた。


 だがその考えはあまりにも楽観的すぎた。ゴブリンの王が気づくことは無かったが、いつの間にかヒノの右目は碧から金へと瞳の色が変わっている。


 背後から迫りくる水刃がヒノを切り裂こうとした瞬間、ヒノは水刃を見ることなく体を捻って飛び上がり、完全に避けきった。その捻りを利用して大鎌を振り切り、ゴブリンの王を斬る。王はシキの攻撃を回避したように、その攻撃も体を横にずらすことで避けようとした。しかし避けることは叶わなかった。予め敵が避ける方向を知っていたような軌道で鎌が振るわれたのだ。


「わりーですが視えてますよ!」


 ゴブリンの王の左腕が肩の辺りから切り落とされる。


「!!!」


 声にならない叫びを上げるゴブリンの王。何が起きたかを理解できないようであった。そしてその隙は戦闘において致命的であった。


「本気でいくよー!」


 シキの背後から焔の腕が顕現する。


 シキの先天は謎が多い。本来先天固有魔法は十歳前後までには覚醒する。覚醒するときに、先天の名称、能力が魂に刻まれる。ずっと昔から共にあったように理解できるようになるのだ。しかしシキは例外だった。未だに先天の名称や詳細が判っておらず、現在判明しているのは炎をある程度自由に使える、ということだけである。今回はその能力で、高密度の炎で腕を形作ったようだった。


「ちょっと! ボクまで巻き込む気ですか!?」


 ヒノが慌てて退避する。ほとんど同時にシキがゴブリンの王へ攻撃した。


「【焔光の審判】(ブレイズ・ジャッジメント)」


 裁きの焔がゴブリンの王に叩きつけられる。爆風により地面が吹き飛び、舞い上がった土砂が辺りを覆う。


「アブネーじゃねーですか!」

「結果よければすべてよし?」

「ボクの結果が良くなくなるとこでしたよ!」


 親指をピンと立ててヒノに右手を向けるシキ。そんなシキに向かって文句を言うヒノ。


 ようやく決着がつき、一安心と思った時だった。


「っ!」


 強大な魔力を感じ思わず目を向ける。そして二人はすぐに武器を構え直す。


「そう簡単にはいかねーですか……」


 爆煙の奥で影が揺らめいた。と同時に五十は下らないであろう水弾が二人に向かって飛来した。






 ◇ ◇ ◇



「これでひとまず終わりっ!」


 ハルカが最後の一体のゴブリンを、背後から短剣で一突きすると同時に嬉しそうに言った。


「お疲れ様、みんな」

「トウワ先輩こそ回復魔法の連続使用でお疲れでしょう?」

「そんなことは無いわよ」

「いえ、貴女のお陰で助かりました。ありがとうございます」

「気にしなくていいのに……」


 リョウカ、ミヅキの言葉に照れながら返すトウワ。


 シキ、ヒノがゴブリンの王と戦っている頃、残りのメンバーは周辺の掃討を行っていた。シキたちの邪魔をさせないためでもあったが、他にやることが無く暇であったから、という理由が大きい。そんな理由で掃討されるゴブリン、オークたちも堪ったものではないが……。


 だが、流石に魔力も体力も余裕がなくなってきたためここで終了。この後消耗したシキ、ヒノを連れて撤退しなければならないため、戦闘不可能になるまで戦う訳にもいかない。


「少し、相手が、多すぎました……」


 疲労困憊といった様子でアキホが言う。


「あの戦いより敵の数が多かったわよ」


 トウワがそう言ったとき、ハルカが問いかける。


「そういえば聞き忘れていましたけど、『あの戦い』ってなんですか? 確か前にもそんなこと言ってましたよね?」


 その場にいたミヅキ以外のメンバーの目が一斉にトウワに向く。


「詳しく話すのは学園に戻ってからにするわ。簡単に言うと、三年前に起きたエーブラスへのゴブリン大侵攻といったところね」


 予想以上に大きな話に絶句する一同。


「それ大丈夫だったんですか?」

「当たり前でしょ。学園長だけで過剰戦力なのに……」


 ハルカはイマイチ理解できていないようだが、その言葉に納得するトウヤ。実際にキョウと戦ったことがあるトウヤには納得がいったようだ。


 そうして話しているうちに、異変が起きた。


「何の冗談ですの?」


 リョウカの言葉に頷く一同。巨岩が見えたと思いきや、次の瞬間にはすでに巨岩は紫光の中に消えていったのだから。


 しばらくの間、無言で光の柱が立ち上った方向を見ていると、ポツリとトウワが言った。


「……あの人もいたのよ? むしろこれでゴブリン軍が勝つほうがおかしいわ」


 トウワの言葉に深く納得してしまったメンバーであった。


 そこで先ほどから何やら考え込んでいたアキホが、顔を上げた。


「そういえばおかしいですよね?」

「どうしたの? アキホ」

「何でそんな規模の大きな軍がこの短期間に二度も? それに私はその話を聞くまで、数年前に戦闘があった、ということしか知りませんでした。というよりもどこかで情報が隠されているようでした。どうして隠されているんですか?」


 そう矢継ぎ早に質問を繰り出すアキホ。そんなアキホを見て、トウワは言う。


「この短期間に二度も大侵攻が起きた理由は分からないわ。全然見当がつかないもの……」


 トウワも今回のことには困惑しているようだった。顔には出していなかったが、ヒノもミヅキも同じ気持ちだろう。……シキはどうだか知らないが。


「もう一つの方は……、いろいろな事情が重なって起きたことよ。わたしが話してもいいけど……。まあ、わたしが話すよりはミツルギ先生の方がいいかな? ということでミツルギ先生に聞いてね」


 普段と変わらぬ笑みでそう言ったトウワに、これ以上は話してもらえないと悟ったアキホは大人しく引き下がる。


「わたしとミヅキちゃんでシキちゃんとヒノちゃんを迎えにいってくるから、退路の維持よろしくね」


 トウワはミヅキを連れて立ち去ってしまった。


「退路の維持って言われても……」


 そう呟いたハルカの目に写るのは、百を越えるゴブリン、オークの死骸のみ。もちろん生きているものは一体もいない。


「敵がいないんですけど……。というかこの状況で敵来るかなぁ……」


 その場に残された皆の心の声を代弁する言葉だった。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ