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魔導学園のとある先生  作者: 魔法使い(仮免)
とある先生と生徒たち
13/26

第三魔導学園の長い一日 その五 <改>

4/30   紅玉→久遠

「じゃあ、張り切っていきましょー!」

「それで会長、作戦はどうします?」


 やはり元気なシキに対して、アキホが尋ねる。


「うーん、とりあえず固まって突撃ー。そして、一気に王のもとへ?」


 何も考えていないのと同じ、作戦とは呼べない作戦にリョウカがツッコミを入れる。


「それでは退路がありませんわ。わたくしは特攻隊は嫌ですよ」

「そこはリョウちゃんの言う通り」


 トウワも同意した。声に出さないだけでこの場にいる全員がシキの案を却下する。そこへヒノが提案する。


「こういうのはどーです? アレウス先生が最大火力で穴を空けてそこから突き崩す。どっちにしてもボクたちは持久戦ができねーですし、短期決戦狙いでいくしかねーでしょう」

「ヒノさんの意見でいいと思いますよ。ですが少し改良を。王国魔導師団の方々に敵を分散してもらって、薄くなったところを狙っていきましょう。すぐにお願いしてきますから、待っていてください。その間にだいたいの役割を決めといてください」


 最終的にアレウスの言葉で行動方針が固まった。


「役割ってどーゆーの?」

「そうね……じゃあとりあえず王と戦う人、周辺のゴブリンと戦う人に分けましょうか」

「王はボクが行きますよ」

「私も行くー!」

「それならわたしが回復支援かしら?」

「ゴブリンの王は二メートルほどらしいですわ。あまり多くても意味はないですしね……」

「では、ボクたち以外の人は周辺の警戒そして邪魔が入らないようにしてください」


 シキはこんなのでも実力はある。ヒノもシキと同じくらいの力はある。残りのメンバーで足止めをすれば問題ないはずだ。






「皆さん、いいですね。それではいきます。光よ集いて敵を滅する砲となれ、【フォトンバスター】!」


 アレウスの魔法。二本の剣を前方へ向け、剣と剣の間に光が収束していく。そして巨大な光の奔流が射線上のものをことごとく消滅させていった。なんというバカ火力であろうか。


「すごい……」


 どうやらハルカは大規模な破壊魔法を見るのが珍しいようだ。と言ってもここまでの破壊力のものは滅多に見ることができないのだが。


「さあ、行きますよ」


 アレウスの言葉に従って一斉に駆け出した。


「チッ、もう来やがった」


 トウヤの言うように、周りからゴブリンが群がってきた。時間との勝負、ここで足止めされる暇はない。


「私に任せてください! 【ウッドウォール】」


 真っ先に動いたのはアキホ。木属性魔法で周りの木に干渉して、アレウスの作った道の両脇を固めている。流石にアレウスがぶち抜いた道全部は無理そうだが、半分ほどは封鎖できるようだ。両サイドからのゴブリンの進入を阻止している。アキホはここで魔法の維持のため、ほとんど身動きが取れない。


「後ろからも来ている。俺が止めるんで、先へ行ってくれ」


 動けないアキホを護衛するため、トウヤは敵を正面に立ち止まる。そのまま笑みを浮かべて後方の敵に向けて魔導銃の引き金を引き続ける。何体かのゴブリンが頭を吹き飛ばされて倒れていく。それを見てゴブリンたちは進むのをやめ、遠巻きに弓をかまえる。幾本もの矢が放たれた。次から次へと飛んでくるその矢を、トウヤは一本も通すことなく撃ち抜いていく。


「アタシもここで!」


 ハルカもトウヤに続いて魔法を放った。矢を迎撃するので精一杯であったトウヤの代わりに、確実に撃破数を積み重ねていく。


「気を付けてねー」


 シキは一言残して余裕の表情で走り抜ける。その様子に苦笑するヒノたちであった。






「多分近くに居やがりますよ」

「そのようね」


 二キロメートルほど続いた道を走り抜け、今は森の中を一直線にすすんでいる。アレウスが退路の確保ということで途中で残ったため、シキ、トウワ、リョウカ、それにヒノとミヅキの五人が敵の王に向かって動いていた。


「視える?」

「ええ、ただ少し厄介なことになりやがりました。オークの王と思われる個体と共にいます」

「ヒノちゃんそれ本当?」

「困ったねー」


 シキがどうしても深刻さに欠けるような返事をするが、状況はかなり悪い。


「どうしてこちらにオークの王がこちら側にいるのでしょう? オークの本隊はミツルギ先生の向かった方ですのに……」

「恐らくオーク部隊が陽動だったということです。こちらにいるのが精鋭部隊といったとこでしょう」


 不思議そうにするリョウカにミヅキが推測を述べる。ミヅキの考えた通り、精鋭部隊による市街地への侵入こそがゴブリン・オーク混成部隊の目的であった。


「ボクとミヅキでオークを仕留めるます。書記ちゃんはそこの副会長さまの護衛で、できれば周囲の敵を押さえてもらいたいです。会長さんにはゴブリンの王に対する時間稼ぎをお願いしましょーか」


 その言葉を言ったと同時に、ヒノは先制の一撃をオークの王に当てようとする。オークの王は大きく他の個体が二メートル前後なのに対して、四メートルほどもあった。 


「敵からの反撃、来やがりますよ!」


 ヒノの警告に一斉に動き出す五人。


 樹海の中に木の生えていない場所があり、かなり広くなっている。おそらくはここで一度、あの大軍を集めたのだろう。そこに数十体のゴブリン、同じくらいの数のオークに囲まれた、二メートルはあるゴブリンがいた。また近くには黒い体の大きなオークもいる。あれこそが今回の騒ぎの元凶、ゴブリン、オークの王種たちである。オークの王の濁りきった目がヒノを捉えた。


「【ウォーターシールド】」


 ヒノに突き出された槍をトウワが防ぐ。ヒノはその隙に後ろへ下がる。


「いくよー、【ファイヤーランス】」


 突然のことに動揺しているゴブリンたちに火属性魔法を叩き込むシキ。彼女たちは王種を後回しにして、取り巻きから殲滅にはいった。


「【破毒之鉈】」


 リョウカもオークの何体かに同時に攻撃をしかける。皮膚の細胞を破壊しながら進む鉈に、オークの自慢の皮膚も意味をなさない。魔力で強度をあげても、内部から壊されればどうしようもないのだ。


「!!!」


 乱戦の中、ヒノは咄嗟に風魔法で足場を作り出して空中に飛び上がった。どうやらオークの王が槍を投げてきたらしく、今までヒノがいたところを通り過ぎていった。


「ヒノちゃん、大丈夫!」

「問題ねーです。それよりも……」


 流石の魔導学園生といえども、かなり厳しい状況に追いやられていた。

 オークの王がヒノへ追撃をしようとしたところに、ミヅキが割って入りオークの王の注意を逸らす。


「貴方の相手は自分です」

「ミヅキ、もう少しソイツを頼む。周りが邪魔なので一気に削ります! 一度下がってもらいてーです!」


 攻撃の範囲内に仲間がいないことを確認したヒノは、風の魔法を放った。


「【フォーストルネード】」


 四つの小規模な竜巻がゴブリンを巻き上げる。空中で放り出されたゴブリンたちは当然重力に引かれて落ちてくる。


 グシャリ


 変な音とともにゴブリンたちは着地(?)した。


 ゴブリンの王がその光景を見た直後、剣を振りかぶって襲いかかってくる。地を蹴ってヒノの前に飛び出したのはシキ。


「ていっ!」


 振り下ろされた剣を腕で反らし、カウンター気味に腹部へ膝蹴りをする。


「グギッ!?」


 後ろへのけ反るゴブリンの王に飛び上がって顔面に拳を叩き入れ、そのまま相手の肩を蹴り飛ばし距離を開ける。シキは再び接近する。


 その時、ミヅキがゴブリンの王に蹴り飛ばされ、木に叩きつけられた。後ろからの他のオークの攻撃を受け流した直後のことであった。


 フリーになったオークの王が槍を持って、ゴブリンの王と戦闘中のシキに突っ込んだ。


「シキ! 左からだ!」


 周囲のゴブリンたちに足止めされ、思うように動けなくなっていたヒノが思わず叫ぶ。しかし突然のことに反応が遅れてしまう。槍で貫かれるシキをこの場にいる誰もが思い浮かべた瞬間、銀色の閃光が走った。






 ◇ ◇ ◇



「キョウさん、やっておしまいなさい!」

「アホ、お前も動かんか!」

「ちょっとした冗談ですよ」

「冗談にしては目が本気じゃったぞ」


(なかなか鋭いじゃないですか……)


 現在悠はオークを迎撃するため、学園長とともに樹海近くまでやって来ていた。


「しかしあれほど多くのオークが出てくるとはな」

「半分は任せていいよね?」

「二百くらいは王国魔導師団にまかせてはだめかの?」

「キョウさんは一対多でも楽勝でしょ。それに魔導隊も何か仕事があるみたいだし」

「気が進まないが了解じゃ。奴らも半分くらいは既に範囲内じゃよ」

「よろしくね~」

「気楽じゃのぉ。【夢幻ノ牢獄】」

「相変わらず凄いズルい能力よね」

「いや、お前が言えたことではないじゃろう……」


 キョウ・イザヨイの先天は結界を造り出すこと。これだけ聞くと何がすごいかがわからないが、結界内はキョウさんの支配下におかれるため、周りにある全てのものが敵となる。また幻影を見せることもでき、敵を追っていると周囲から攻撃がきたうえ、追いかけていた敵も幻だった、ということにもなる。伊達に[大陸十二門]ではない。



 ◇ ◇ ◇



 大陸十二門とはこの世界において優れた力を持つ十二人のことを言う。国家間の移動が縛られないことや、税を免除されるなどのいくつかの特権を持つ。[第一門]~[第十二門]まであるが、第一門は常に空席となっている。それは第一門は五百年前の英雄の称号となっているからである。また、番号は強さとは関係がない。



 ◇ ◇ ◇



「ほれ、行け」

「行ってきまーす」


 悠は学園長が取り残したオークを前に、一言呟く。


「行くよ、久遠……」


 その言葉と共に悠の身体が暴風に包まれる。いや、その言い方では語弊がある。圧倒的な量の魔力の放出が空間を揺らしている、というのが正しい。


 魔力の放出が収まったと同時に悠は駆け出す。狙うは王のみだが、被害を最小限にするためにも、目に入るものから殺す。


「時間がかかりすぎるわね……」


 だんだん周囲のオークが集まってきたようだ。周囲に味方はいない。常識ある普通の魔導師ならここは撤退をするべき場面であろう。しかし残念なことにここにいるのは異常な魔導師であった。


「轟け稲妻、我に仇なすものを討滅せよ、【ライジングセイバー】」


 雷の刃が悠を中心にして幾本も伸びていった。長さはおよそ一キロメートル。


「切り裂け!」


 そのまま悠は刃を一回転させて、周囲の敵をまとめて薙ぎ払った。あとに残ったのは百を超えるオークの死体。大半は黒焦げで、元が何だったのかすっかり判らなくなっているが……。


 悠は辺りを見渡す。しばらくしてあるものに気づいた。


「…………見つけました。少しヤバいかもしれないですね」


 今いる場所からそこそこ離れたところに二つのそこそこ大きな魔力を見つけた。ここで問題なのは、悠がそこに到着するまでには時間がかかること、そのそこそこ大きな魔力が二つとも同じ場所にいること、そしてそこまでの道にもたくさんのオークがいるということだ。


(相手を甘く見すぎていたようですね)


 どうやら王種たちは今の今まで魔力を押さえていたらしい。そのため、発見するのが遅れてしまったようである。


「みんな、無事でいてくださいね……」


 悠は祈るように呟いてその場を後にした。

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