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魔導学園のとある先生  作者: 魔法使い(仮免)
とある先生と生徒たち
11/26

第三魔導学園の長い一日 その三 <改>

 現在ミヅキはアレウスと共にゴブリン、オークの足止めをしている。ある程度削ったら離脱するという話だったが次から次へと現れて、抜け出す隙がない。


「ミヅキさんはあとどのくらいなら大丈夫ですか?」

「一時間ほどなら問題ないかと」

「二十分だけ待っていてくれますか? この群れの長を潰します」

「はい」


 そう言葉を交わし、ミヅキは大剣をオークに叩き込んだ。ミヅキの武器は普段は両刃の大剣だ。その大きさのため取り回しの難しい武器だが、威力はその分強力である。


 大剣を横薙ぎに振るい、ゴブリンの群れを吹き飛ばす。そのまま隣からオークが突き出してきた石槍を弾き腕を切断する。即座に腹を貫く。


 オークが絶命したことを確認し、木々の間を駆け抜ける。少し離れた開けたところにいるゴブリンを見つけたからだ。そのゴブリンは他の個体に比べて大きく、群れの長のようだった。


 だんだん距離が縮まる。あと少しで射程内だ。そう思ったとき、ミヅキの前に石槍を持ったオークが二体現れた。


「やはりそう簡単にはいかないか……」


 オークたちがこちらへ迫ってくる。ここで時間をとられるわけにはいかない。


「【形状変化・槍】(トランスフォーム・スピア)」


 大剣の形を変え、槍とする。槍で、さらに接近してくる二体のオークのもつ石槍を捌き、軽く後ろへ跳び下がり間合いを開け息を整える。そして再び地面を蹴り高速で接近し一体の顔に槍を突き立てる。ちょうど右目を抉った。痛みに呻くオークだが、それに構っている暇はない。そのまま突き刺さっている部分を変形させ、いくつもの棘を出現させる。さすがのオークも頭の中へ直接の攻撃は耐えられず、土煙をたてながら崩れ落ちる。その体から、槍を引き抜いて、またも形を変化させる。今度は斧。それも半月斧と呼ばれる形のものだ。ミヅキはそれを振り上げながら飛び上がる。狙いはもう一体の方のオークだ。一瞬ミヅキの姿を見失ったオーク。少ししてミヅキに気づいたオークが、石槍の柄で防ごうとしたがもう遅い。半月斧を一気にオークの頭上に降り下ろす。半月斧は石槍を両断し、嫌な音と共にオークの頭をかち割った。


 辺りを見渡し、ミヅキは敵の位置を確認する。再び大剣に戻し、十メートルほど離れたところにいるゴブリンの長に斬りかかる。長の両側に控えていたゴブリンが、炎の玉を放ってきた。


「【形状変化・盾】(トランスフォーム・シールド)!」


 咄嗟に大剣を盾に変え防いだ。まさかゴブリンソーサラーがいるとはミヅキも思いもしなかった。


(少し油断しすぎていたか)


 先ほどからミヅキが用いている魔法は第二属性魔法の鋼。金属を加工することに向いていて、この魔法を持つ者はほとんどが魔導工学師になる。魔導具を作るのには最適だからである。だがミヅキは戦場で剣を振ることを選んだ。返しきれないほどの恩を少しでも返すために。


(今は戦いに集中しなければな)


 ゴブリンソーサラーは魔法が使える特殊個体である。ここで時間をかけるとさらに多くのゴブリンが集まり、あのゴブリンを仕留めるのが難しくなるだろう。


 ミヅキはナイフを太ももに巻いたベルトから取りだし、ゴブリンソーサラーたちに投げる。このナイフは魔導具で、もともと針のようになっているが、魔力を流すとナイフの形に戻る。ナイフがそれぞれの腕に刺さったタイミングで魔法を発動させる。


「散れ!」


 その言葉と同時にナイフが爆発する。あらかじめナイフに魔力を付与しておいたのだ。これも鋼魔法の応用だ。


「【形状変化・大剣】(トランスフォーム・ソード)」


 破片が身体中に突き刺さり、混乱しているゴブリンソーサラーに近づき、手早く切り捨てる。既に死にかけだったため、何の問題もなくミヅキは止めをさすことができた。


 部下が死んだのを見て、慌てて撤退を始めようとするゴブリンの長。それを先回りして迎え撃つ。


 ゴブリンの長は覚悟を決めたのか剣を構える。


「グギャア」


 剣を突きだしてくる。あまり接近されると武器の間合い上、どうしてもこちらが不利になる。しかし今は相手の間合いではないがこちらの距離ではある。ゴブリンの長は他の個体より大柄とはいえ結局一・二メートルほどである。大剣では少しやりにくいので、大剣を槍に変え近づいてくる前に突く。しかしその一撃はいなされ、ゴブリンの長はそのまま勢いを殺さずに接近する。素早く手元に槍を引き戻し、手前を薙ぐ。相手は後ろへ少し下がり槍の間合いから外れた。


 ゴブリンの長はなかなか手強い。だがこの程度ではミヅキにとっては強敵とは言い難い。


「穿て!」


 突然相手の下の地面から複数の棘が飛び出す。先ほど先回りしたときにミヅキが自らの魔力を通しておいたナイフを、複数地面に設置したのだ。


「すまないが、今貴様の相手をする暇は無いのでね」


 足を貫かれ動けないゴブリンの長に容赦なく槍を突き立てる。その口からは血がこぼれ、貫かれた胸からも大量の血を流しながら地面に倒れた。


 ミヅキは武器を戻し、その場から立ち去った。


(先生はどうされたのだろうか?)


 そんなミヅキの疑問はすぐに解決された。






 樹海の奥のほうで光が見えたためミヅキはその方向へ向かった。そこには二十体ほどのオークの骸がいた。オークはみな腹に大きな穴を開けていた。

 

 ミヅキがさらに奥に目をやると、アレウスと他の個体よりも大型のオークが戦闘していた。おそらく長だろう。


 オークが槍を振り回す。力任せの攻撃だがオークの筋力においては、もっとも確実な攻撃でもある。しかしその攻撃をアレウスは両手に持った二本の剣で受け流す。


 体が流れて体勢を崩したオークに、アレウスは右手側の剣の切っ先を向けて閃光を放つ。間髪入れずにアレウスは左手に持っていた剣でオークの長と思われる個体を切り裂いた。


「ミヅキさんですか、ちょうどいいところに。退きましょう!」

「了解しました」


 ひとまずここでの戦闘は終わったようである。






 ◇ ◇ ◇



 知覚可能な範囲にいるのはオークが十三体。それぞれある程度散らばった場所にいた。


「各個撃破といかせてもらいましょーか」


 クリーム色の髪の小柄な少女、ヒノ・シアールはそう言った。


「まずは一つ」


 そう呟いて一番近いところにいるオークに狙いを定め、樹海を駆ける。






 オークの後ろへ樹上から回り込み、一気に大鎌で切りつける。狙いは首。風属性の魔法で強化した速度で首の肉を削ぎ落とす。狙い通りのその一撃で大量の血を撒き散らしながらオークは絶命した。オークは、敵を認識したときに魔力で強化することでさらに頑強になる。だからヒノは気づかれないうちに攻撃することで、交戦時間を少なくするのだ。


「あと二体……」


 すでに十体殺している。これで十一体目。あともう二体倒したら退かないといけない。いつまでも相手をしているわけにもいかないため、ヒノは撤退の邪魔になりそうな敵だけを狙っていた。何体かは一撃で仕留め損なったため、撤退組と別れてからかなり時間がたってしまっただろう。そう思って残りの位置を把握しているとき、さらに多くの魔物を確認した。


「ゴブリン、およそ三十ってとこですか」


 ヒノにとってはゴブリンは脅威のうちに入らない。しかし囲まれると厄介である。


 さらに詳しく視たところ、どうやらオークのいる場所とは離れているので囲まれることだけはなさそうだ。とりあえずまずはオークである。






「【エアステージング】」


 大鎌を槍で受け止められて、吹き飛ばされたため、慌てて受け身を取り空中に立つ。


「アブねーですね」


 ヒノの使った魔法は空中に足場を作り出すものだ。だからこんなことも可能なのである。


 近くにいたオーク一体の所に着いたとき、相手に気づかれてしまった。これでただでさえ硬い皮膚がさらに硬くなってしまった。


 しかしヒノは落ち着いていた。まずは大鎌を振りかぶって攻撃。オークの石槍で受けられたがこれは予想通り。


「セイッ!」


 そのまま鎌をひねり槍を絡めとる。想定外の攻撃で武器を失ったオークには焦りが見える。


 その機を逃さずヒノは攻撃を仕掛ける。一度空中に上がり距離をとったあと、オークの横をすり抜けながら切りつけ、左腕に傷を与える。と同時に足場を作り反転し、今度は反対側の手を切りつける。そしてまた足場を作り、今度は上へ飛び上がり、真上から鎌を振り下ろすそうして三次元的動きで反撃を許さずに切り刻んでいく。


「余計な手間をかけさせてくれやがりましたね」






 ヒノは先ほどゴブリンがいるのを見つけた場所に来た。少し先にゴブリンが固まっているのがわかる。


(ここはまとめて片付けるとしましょーか)


「【ブラストエッジ】」


 風の刃を放ちゴブリンたちを切り裂く。残ったのは十体ほど。ヒノは制服のポケットから二つの十センチほどの棒を取り出し、魔力を流す。するとそこには鎖が二本出現した。これは普段ヒノが使っている鎖で、魔導具である。


 鎖を操りゴブリンたちに攻撃を仕掛ける。鎖の先には分銅がついていて、ゴブリンたちを打ち倒していく。様々な方向から襲いかかる変幻自在の鎖に、あるゴブリンは頭を砕かれ、またあるゴブリンは鎖に首を折られ、次々と命を落とす。


 それからすぐに戦闘は終わった。ヒノはホッと息をはく。しかし、安心するのはまだ早いかったようだ。


「ブギッ、ブギャ」


 ヒノの後ろから飛びかかってきたのはオーク。しかしヒノは振り向きもせずに手を振るう。オークの足にはいつの間にか鎖が絡んでいた。


「無駄ですよ」


 そのままヒノは大鎌で無造作にオークを裂いた。






「ヒノ様!」


 ヒノが声のした方向を見ると、ミヅキが駆け寄ってきた。


「ミヅキ、そちらはどうだったのです?」

「アレウス先生がこの辺のオークの長と思われる個体を討ったため、しばらく時間が稼げるでしょう……。ヒノ様は大丈夫ですか?」


 心配そうにミヅキが問いかける。


「ボクは信用ないですか? ミヅキは心配しすぎですよ」


 軽い調子でヒノが返す。そこにアレウスがやって来る。


「ミヅキさんがゴブリンの長を倒したから、そっちも大丈夫だと思いますよ」

「 そうですか……ではいきましょーか」


 ヒノが十三体目のオークを葬ってから少しして、アレウスとミヅキは合流した。三人はそのまま学園の方へ向かった。











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