親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている
「勝ったぜ」
俺の木刀が軽々と真剣を跳ね上げ、彼女の眉間に炸裂した。
女を殴るのは趣味じゃないが、今の俺は『剣闘士』である。
奴隷の中でも旅芸人と並んで比較的自由で、契約期間中ならかなり自由に振舞え、
職業的性質から『義務』を果たす必要が無い。むしろ剣闘士に『義務』を強いるのは違法である。
「シン。お疲れ~~~! 」
円形の闘技場を抜け、闇の中で抱きついてくる。この柔らかい感触を感じると生きてて良かったとは。思う。
「今日も勝ったな。もうすぐ十連勝だぜ」「来週は強敵だからな。頑張るぜ」
遥がからかう。魔物好みのゴリラみたいな女揃いだが、女は女だ。殴るのも殺すのもいやだ。
異国の服に身をつつみ、奇怪な竹製の防具を纏って木刀を振るい、
決して対戦相手を殺さない俺(契約の時にちゃんと確認済み)はちょっとした人気者になっていた。
「この世界の剣は5メートルの距離から『飛んで』こないからな」
そう。もっと泥臭い。ほとんどが力押しだ。
「近づいたら、シンよりでかい子をぽーんとっ?! 」
手を広げてはしゃぐシズル。剣道の体当たりも珍しい技らしい。
「マコトも強いよっ?! 武器も持たずにこう……なんかこうしたくなるのっ?! 」
合気道の技の事を言っているらしい。何をしたくなるのかは聞くな。マジで聞くな。同室だと色々辛いんだ。
シズルは俺の付き人ってことになっている。
「あっという間に押さえ込み。だもんな。女殺しめ」「変な事言うなよ」
「十連勝したら、すっごくお金持ちになれるんだよっ?! 」そうだな。興味ないけどな。
「来週は」「遠慮はなしな」
九連勝同士の戦いを勝ち抜いた者とチャンピオンが闘う。
普通は十連勝したらそれ以上は戦わない。悠々と過ごす。
だが、中にはチャンピオンに挑む猛者もいる。
「やっぱ、シンに勝ってほしいな」「おい」
遥が嫌そうにしている。まぁ素手で俺に挑むのは無謀だしな。
「で、どっちが勝つんだろうな」
ぶるんぶるん。
「おれたちにも賭けさせてくれよ」
ばるんばるん。
闘技場にいるのは当然。『奴隷』である。
不正予防の為に。生まれながらの剣闘士奴隷は全員。『全裸』である。
彼女たちは酒杯をもって、下馬評に夢中だ。
マジで。マジで。マジやばい。色々やばい。
こいつら、170センチ余裕で越えているんだが、その分。胸が。尻が。お前らはラテン系かぁあああっ?!
「そりゃシンだろ。武器ありだぜ」
「マコトしかありえない。マコトが負けたらシンを殺す」おい。
俺たちの契約は防具あり。服の着用あり、殺しなし。だ。
雇用主は「面白くない」と言い放ったが、「不正はしない」と誓ったのでなんとかなった。
ちなみに、雇用主は『王族』である。
彼女を連れて夜の闇に消えた遥。マジで死ね。死んで詫びろ。
「『男』って良いよねぇ……」
彼女たちの視線が遥に注がれる。一部俺にも。
「シンは私の」シズルが俺に抱きつくが。
「小娘は黙れ」「今日こそ私の部屋に来てもらう」
俺、来週まで生き延びれるのか?!