伝えたくないことがあるんだ
ジープを駆り、俺たち四名は走る。
酷い世界だとおもう。ろくでもない世界だとおもう。
それでも人々は唄い、舞い、明日を信じている。
俺たちの『馬無き馬車』を見て国民の皆は手を振ってくれる。
その中には『男の子』も少なからず。いる。
がたがたと整備されていない道を駆け、
歓声に答え、宿屋のシチューの香りに胸を奮わせる。あの味を忘れたことはない。
「シズルッ? 」
彼女の『老いた』母は、魔物に身を捧げてシズルを作った。
今抱く男の子は。彼女の移し身である。
「シズルは元気にやっています」「王様になったんだってねぇ。私達の誇りだよ」
思えば魔物より魔物の扱いから、反乱軍を率い、傀儡の王となり。
長い。長い旅だった。
「王様は最初酷い政治をするとおもってたけど、最近は中々じゃないか」「はは。日々学ばせていただいていますから」
懐かしいシチューを口にして、微笑む。
「シズルが王妃さまなんて。本当に、本当に。誇らしいよ」いえない事も。ある。
「すみません。王妃なんで、全部アイツに任せちゃってるんです」「ああ、シンはぼうっとしているから。うちの子が役に立ってて誇らしいよ」ひでぇ。一応俺王様なんだけどなぁ。
キラキラと輝く稲穂と田んぼ。
この世界には稲があり、米がある。
夕日が目に染みる。別に泣いているわけではない。
風が目に当たるのも、砂煙が身体に纏いつくのも。辛い。
「あの人がシンの好きだった人のお母さん? 」ミオが帰り道に話しかけてきた。
この娘、どういうわけか運転も巧みだ。明らかに無免許なのに。
この道、何とかならんのか。
岩場で困っている地域があるから、それと漆喰を使って街道にしてしまおう。
「いや、今でも。かな」「ロマンチックねぇ」お前に一番似合わん。腐敗女子め。
「スキかどうかは別として。結婚してやってもいいわよ」「ばーか」
俺たちのやり取りに遥とレイが苦笑い。
「俺はどうするんだ」レイは冷静を装っているが明らかに動揺している。面白いヤツだ。
「うーん。第二夫人にしてあげる。遥君は第三夫人ね」「おい」「おい」「おい」
『輪』が見守る中、夕日は沈み、星は出て。
この世界もまた夜が来る。俺たちの仕事はまだまだ続く。