真と誠
「一つ。解ったことがあるんだ。スバル」
傷つき倒れたスバルを優しく抱きかかえ、その男は呟いた。
「俺は。愛情が理解できない。そう言ったけど」
息を整え、舌を出し、吼える遥。
いや、誠。ヤツの一族は自らの名を呼び合うことで婚姻の儀とする。らしい。
「お前を。俺を守り、子を守りたいお前を。守ってあげたいって思うこの気持ちは」
彼の蹴りが空を引き裂く。
「『愛』だよなっ!!!!!!!!! 」
裂帛の気合を込めて大地を踏みしめ、
必殺の拳を振り、並み居る敵を蹴散らす彼は人間離れした動きを見せる。
「俺を『誠』と言ってくれるお前に報いないとなッ 」
かくも、名前とは重要だ。
ファンタジーな世界にそぐわない機械。また機械。
遺伝子保存システムの中央に俺たちはいる。
『優性』と『劣性』の二つのデータが保存されたライブラリ。
そして魔物達のデータも。入っている。
防衛システムが作動し、次々と透明なシリンダーを割りながら飛び出してくる醜悪な魔物、ヒトガタのバケモノ。
そして女。男。それは魔物ではなく、所謂遺伝子異常の類の顔をした『人間』も含まれる。
それらは理性も知性も意志もなく、『本能』で俺たちに襲いかかり、犯し尽くそうと迫り、そして泣き喚く。
そう、人間性は『学習』で得るものだ。そうでなければ人の形をしていても獣以下といえる。
そして彼らはその凶暴性、残虐性を遺憾なく俺たちに発揮しようと迫ってくる。
俺が『風鳴』を手にみなの前に立ち。後ろからレイこと『水鏡零』が援護射撃を行う。
俺の両手に握られた『風鳴』は室内だというのに不思議な暴風を生み出し、敵の剣を、鉄をも溶かす唾液を。欲情に。劣情にまみれた腕を切り裂く。この剣は、魔法か? 科学か? 不思議な剣だ。
巨大な『キマイラ』の首を締め上げる遥の後ろから迫る大蛇の尻尾をミオが大斧で切り裂く。
しかし『キマイラ』は次から次へと襲いかかる。
疲弊していく俺たち。そしてスバル。彼女の容態はよくない。
敵の攻撃をかいくぐり、システムに手を触れる俺だがマイコンも弄ったことの無い俺には手に負えない。
「真ッ 『風鳴』を捧げろッ 」システムの操作がわからず戸惑う俺に遥が叫ぶ。
「その剣はッ 誰もが持つッ 誰もが願うっ 『自由と希望の風を運ぶ』聖剣だッ」
言われるままに掲げると、様々な人々の『思い』が俺の頭の中に流れてきた。
この世界の女性たちが男を皆殺しにすることを思いついた経緯。未来を信じていた人の思い。
『完全』な子孫たちを作るシステムへの疑念を捨てきれず『劣性』とされたデータを保存した学者の思い。
「風よ。俺たちの思いを乗せていけ」
次々と機能停止していく『キマイラ』にのたうち続ける魔物達。そして。
「不完全って。大事だよな」俺は。俺たち苦笑いした。
俺たちはほぼ機能停止したシステムを使って、スバルの傷を癒した。