悪魔のバカ嫁
「こんなの耽美じゃない~ 」
寝込んでしまったミオを尻目に。ため息をつくレイと俺。
「なんなの? この変な女」「……一応、惚れた女の悪口はいわないで欲しい」
はぁ。趣味悪いぞ。確かに可愛いっちゃ可愛い顔だが。
「俺は水鏡零。海上自衛隊所属な」「はぁ」
「あっちは甑美緒。俺の恋人」「じゃないもん」寝てたんじゃないのか。
「監視しているんだ」「はぁ」
パチパチと薪が爆ぜる音に飯盒の煮える音が加わる。
中のスープが煮える香りに喉が鳴れば、暖かな炎に心和む。
「何を監視しているんだ」「恋が生まれる瞬間らしいぜ」はぁ?
「夜の闇夜に不安を覚えるレイちゃんに寄り添うシン。そして生まれる愛の」妄言を吐き出したミオに俺は目をむいた。
「こいつは、女子高生の時分で家を建てたからな。男同士のエロ同人で」「……」
「こんな、こんな愛の無い世界なんてっ! 耐えられないっ 」毛布に包まり悶絶する変態女を生暖かい目で見る俺と水鏡。
「苦労しているんだな」「惚れた弱みだからな……」お互い、ため息をつく。
「学生の頃からの付き合いでな。結婚している」「はぁ?! 」
「プロポーズしようとしたら、噴水に突き飛ばされて頭打って死んだ」「……」
「じゃ、この女は後追い自殺? 」「そんなこと、レイごときにするわけないしッ 」
酷い……。酷いぜ。この女。カゲロウやユウガオが可愛く見える。
「ちょっと噴水で脚を滑らせて、其の後の記憶が無いだけだもんッ 」
耳まで赤らめた顔を毛布で隠したミオに俺と水鏡は口を曲げざるを得なかった。
「そんな理由で死んだんだ」知らなかったのかよ。水鏡。
「あんたなんかのために死ぬわけないじゃんっ! 私には真実の愛の探求と言う崇高な使命があるのよッ 」
くらくらする頭を水鏡が押さえてくれた。
こんな阿呆の所為で貴重な魔族兵を何人も何人も失ったかと思うと吐き気すらしてくる。
「あのな。俺はお前らを傷つけずに丁重に送り返すつもりで魔族兵を寄越したんだがな」「そうか。すまない」
「えええええええええっ? てっきり私の穢れなき身体を狙って襲ってきたのかと思って殺っちゃったぁッ♪ てへっ♪ ごめんね! 」
こ、こいつ。うぜえええええええええええええええっっ?!
「穢れなきっていうか、汚れまくってる」「だな。でも惚れた女だからいわないでくれ」
「私の何処が汚れているのよッ 毎日身体も洗っているわよッ 」「なんか、魂から」「否定しない」
「で。山に篭もって片っ端からおれんとこの兵隊を殺しまくってくれたってか」「すまん」
「で。このバカ女が男二人がいる国があるから、真実の愛があるに違いないとかいって、元の国から逃げたと」「其の通り。止めたのだが」
「ちゃんと飼っておけよ」「まったくだ」「私は犬じゃないわよっ?! 」
いや、犬はホモに興奮しないから。「耽美って言ってよっ!? 」
マジで。マジで。この女ウザい。『風鳴』の露にしてやりたい。
「お前らが勝手に逃げ出すから、俺たちの国と隣国は戦争寸前なんだけど」「……」
無言で頭を下げる水鏡に対して、ミオは毛布から出ようともしないし、背中を向けたままだ。
「まぁその。魔物からミオを守るために戦い続けていたのだが、さすがに弾の数にも限りがある」
聞けば、フル装備を何故か持っていたらしいが。
「で、女王に言われるままについたら」「ああ。夫になれと言うから断った。俺にはミオがいるからな」
「でも、ミオを守りたいならと押し切られた」「うん」
はぁとため息をつく俺。で。それまで我慢していたこの変態の理性が飛んだってか。
で、勝手に逃げたこの変態を追いかける形でこのレイも逃げたってか。
「レイ。お前が悪い」「でっしょー?!!!!!!! 」喋るな。ヨゴレ。
「あたしのことをほったらかしにするレイなんかより、真実の愛がある国にいって、何が悪いのッ 」「……」「……」
とんでもないバカを拾った。らしい。助けにきてくれ。頼む。遥。




