ジャガーよりも恐ろしい男
俺と遥は自ら『レイ』の捕縛に向かうこととなった。
ユウガオたちには止められたのだが、正直王様なんてやってられないことを痛感した。
久しぶりに城から出て、酒を飲んだりネーちゃんと絡んだり(『男』を皆知らないので反応はかなり異なる)、馬にのってひたすら進むのは結構昔を思いだして楽しいものがある。
「……あ。嫌なこと思い出させたか」「いい。俺は心が壊れているからな」
俺たちはレイ捕縛のために彼が潜むという山に向かったのだが。
「本当に、『レイ』は人間なのか? 」「さぁ」
魔物の兵たち曰く。
「影すら見せずに後ろからバタバタと倒された」「奇襲しようとおもったらもぬけの殻で、むしろ奇襲された」
「女を見つけて倒そうとしたら手斧で頭を割られた」どんな女だよ。ミオってヤツは。
「川を歩いていて『ぐにっ』というので足元を浚ってみたら仲間の死体だった」「停泊中のボートが大破された」「むしろ爆殺」爆発? 遥が不思議そうな顔をしている。
そりゃ。反乱軍やってたときは油をまいて爆発させていたときもあったが。
「この世界に、火薬なんてあったか? 」「しらん」
小便から硝石が作れるというが、さすがにユウガオやカゲロウには頼めないものがある。
「至近距離の戦いに持ち込んだら、ナイフ一本と斧ひとつもった二人の前に壊滅」
まて。まて。全盛期のスバルだってそこまで強くない。
「数々のワイヤートラップが設置されていて、背後から杭は飛ぶ、逆さ釣りにされる」
人間かよ。そいつら。
「レイと思しき雷を受け、一度半壊。撤退中にミオに襲われた」「生き残りは数人」
「その女も大概だな」遥は苦笑する。
「で」「ああ」そんなバケモノ。どうやって捕まえるんだよ。
悩む俺たち。魔物の兵たちも苦悩している。そりゃそうだ。こいつらはどっちかというとリア充にあたるので『人』には興味がない。
簡単な任務だと思ったら片っ端から虐殺されればそりゃ脅える。
「やはり、この手しかないな」「はぁ」
俺は白旗を作り、遥を残して山に入っていく。
「戦争は終わりました。帰ってきてください~~~~~~ 」我ながらバカだと思う。
だが、それが俺の命を救ったのも事実だった。
藪をかきわけ、山の香りを楽しみ、太陽の光に目を細める。
こうしてみると、初めてこの世界に来た日を思い出す。散々だったが。
それと、元の世界の好きなあの娘のこと。名前も知らない娘だが。元気だろうか。
「動くな」
喉元にナイフが突きつけられ、乱暴に腕を取られ、一瞬で投げ飛ばされて思いっきり殴られる。
この『技』は受けたことがある。遥と同じ技。つまり。
「お前も。日本人? 」「?! 」
腕を折ろうとしていた人物は、俺の言葉を聞いて手を止めた。
ぐつぐつと何かを炊く飯盒。明らかにこの世界の物品ではない。
「レイ。ごはんまだ」「もう少し待て」
可愛らしい女性が姿を現した。しかし報告どおりならこの女は恐ろしい投げ斧の使い手である。
「おまえ、レイってヤツだろ。俺はシン。お仲間かな? 」「……」
レイ。言われなければ絶対女に見えただろう。それほど顔立ちが整っている。
ほっそりした体つきでとても魔物を次々と殺して回るようなやつには見えないが。
「えええええええええええええええっ?! シンってこんな顔なのッ?! 」ん?
絶望に染まった顔で俺を見る女。たぶんミオだが。
「真実の愛を見るためにきたのにっ?! 」????
ほうほうと鳴く夜鳥の声。木が燃える音と香り。
ぐつぐつと煮える飯盒。
夜の闇にミオの声が響いた。
「こんなの、耽美じゃないっ?!!!!!!!! 」