王様と遥(ハルカナル)
「王。請願の時間です」恭しく俺に頭を下げる。女の子。
「俺は王の器ではない」遥がそういいやがった所為で俺は王なんぞやる羽目になってしまった。
「実体はカゲロウ達の操り人形だよな」「お前は元々タダの高校生だからな」
男がいたから。そいつが反乱を画策していたからカゲロウたち反乱分子の王族がそれを取り込んだに過ぎない。
さも無くば強大な軍を打ち破れるわけも無い。
俺と遥は下手をすれば手足を切り落とされ、目を潰されてひたすら子作りをするための『魔物』として扱われただろうが。
「まぁ俺たちは人気者だからな」遥は苦笑した。
「洒落なってないわ」
俺は遥に残りの仕事を押し付けると、彼は苦笑いした。
「俺は愛情がわからないって言ったよな」「ああ」
「解る。そう思った瞬間もあったんだ」「それ、どういうことだよ」
その言葉に。彼は答えようともしなかった。
「一人にしてくれ」
武術の訓練。請願。裁判。政治などなど。
不備があれば横からサラサラと粘土板に何か書き込んでカゲロウやその他の王族が突っこんでくる。
元々只の高校生だった俺と王族になるべく教育を受けた彼女たちではこの世界に対する知識が違いすぎる。
俺と遥の案は次々と換骨奪胎されて、別物に作りかえられていく。
本当にこの女共は根性が悪い。ちなみに根性が悪いだけでまだ実害は薄く、中には本当に殺しに来るヤツ、
俺たちを奪いに来るヤツも少なからず。
「疲れた」
俺がグタリとしていると護衛を勤めるスバルがニコニコ笑っている。職場復帰したらしい。
「久しぶりだな」「おう」手を振り上げてやると笑われた。
俺たちは城の中庭にやってくる。あれだけ燃えた中庭はだいぶ見栄えがよくなっているが。
「これだったら、まだ戦争やってたときのほうがいい。気が楽だ」「……」
「何も変わっていない。いや、混乱して、皆が死んだだけだ」「……そういうな」
「あの子は、可愛い」そういって笑うスバル。
「可愛かったな」「それはどういう」
「担当が目を放した隙に首の骨をおられた」「ッ? 」
「騒ぐな。王族の誰かの仕業だろうが」「今すぐ犯人を捜させるッ」
「……いいのだ」
彼女は呟く。
「奴隷だった私が、私だけが。マコトに『愛される』と、こうなるのは。考えてみれば道理だ」「道理じゃねぇッ 」
「子供は、また作る」「お前、正気か」
「そういうものだろう」「いや、俺には。理解できない」
俺は。まだこの世界から見て異分子なんだろう。恐らく。
後日。
「何故涙が出るのか解らない」とスバルが泣きながら遥にすがる姿を見てしまった。
男は二人いる。俺。そして遥。
俺と遥を浚いに来る他国とも戦わなければならない。