蜻蛉
「『愛』とは。なんなのだろう」「また。シンの妄言ですか」
月の下独りごちる女性。カゲロウに問いかける声。
「ユウガオか」同じ『王族』だ。疎かには出来ない。
カゲロウは『妹』ユウガオの下腹部を見ないように気をつけながら振り返った。
その中には。『伝説の魔物』マコトの子が宿っている。
「ユウガオ様。と呼びなさい」ユウガオはニコリと微笑んだ。
カゲロウはその屈辱に辛うじて。耐えた。
「捕虜として、奴隷として扱ってやっても良かったのだがな」
「『儀式』の済んでいない王族など。『王女』に過ぎませんから」それに。ユウガオは続ける。
「マコトは、百の魔物より、強くて。素晴らしいですよ……」頬を染めてみせるユウガオ。このような『人』だっただろうか。
『儀式』を終わらせた『王族』のほとんどは。壊れる。肉体が無事でも心が壊れることが。多い。
「もし、『男』を産むことがあったら」
世界は、ユウガオのものになるだろう。もう『小久保』はいないのだから。
あの怪しげなからくりに繋がれた哀れな女は。存在しないのだから。
「だが、男は作れるからな」「ええ。シンやマコトには内緒ですよ。『お姉さま』」
「『人』ではないがな」「くす」