遥(ハルカナル)は電気振動装置の夢を見るか
「いや、その。まて。カゲロウ」
俺が目を覚ますと、全身ぐるぐる巻きにされていた。
繰り返す。全身ぐるぐる巻き。なにしやがる。カゲロウッ?!
「さて。『男を作ろう』か」
ニコリと笑うカゲロウ。いやいやまてまて。一八禁の世界はよく無いぞっ?!
「知性。武術。美。芸術。全てを極めて。最も有力な『王族』の私が」
カゲロウの瞳が俺に迫る。
「何故、『儀式』を済ませていないのか。わかるか? 」「わかりません」
『儀式』とは、正式な政治参加をするために必須の行為だ。
台に縛られ、百の屈強な魔物に身体と心をゆだね、子を成すまで続く。
「『男』を産めば。世界の王になることが出来るのだ」「……」
「そのために、母・『小久保』を殺し、反乱を主導してやったな」「はい」
「内政。お前らは好きほうだい放言をするが。実際に試行錯誤するのは。私達だ」「ええ」
「『抱け』」「嫌です」
明日までに結論を出せ。さもなくば手足を切り落とす。
カゲロウはそういうと、王の部屋から出て行った。
「災難だなぁ。真」「見てる暇があったら縄ほどけ」
いつの間にか窓から入ってきた遥が笑って俺を見下ろしている。
「いや、いいじゃないか。アイツは美人だし」「……」俺が睨むと、ヤツは苦笑い。
「まだ、あの女のことが? 」「そうだ。忘れたら、俺たちは元の世界に、戻る気力がなくなる。そう思ってる」
遥はため息。「もはや、意地だな」「ああ」
この世界にはタバコに良く似たものがあるが、怪しげ過ぎるので俺たちは吸わない。
酒はあるが、子作りに邪魔なので禁止だ。本当に、本当につまらない。
「そっか。この世界には『愛』って言葉がないからなぁ」遥はそういって微笑む。
「お前は順調じゃないか」俺が指摘すると彼はニヤリと笑った。「誰かさんが純潔を守るとか抜かすから俺にすべてお鉢がいってたからだろ」すいません。
俺が恐縮すると、遥は笑って許してくれた。
「しかし、いいな。真は」「うん? 」
「俺は。『愛する』ってのがわからん。求められたら。応じはするが」「え」
風が。俺と遥を撫でていく。
「だから、スバルが。スバルが喜ぶ理由が。わからん。娘が生まれたのに。わからん」
「真。俺も。バケモノかもしれないぞ」
彼はそういって微笑んだ。寂しくて。悲しい笑みだった。