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葵(あおい)炎

 「殺しあえ」

スバルが叫ぶと、剣闘士奴隷の武器を持った餓鬼族ゴブリン犬頭鬼コボルトが構える。

「敗者は死あるのみ」カゲロウが叫ぶ。


 餓鬼族より、犬頭鬼のほうが小柄だ。

彼の剣先は震えている。餓鬼族はサルと同様、小柄だが強い力を持つ。正直武器より素手だ。

熱狂する女共。「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「コロセ」「コロセ」「コロセ」「コロセ」「コロセ」「コロセ」「コロセ」「コロセ」「コロセ」「コロセ」「殺しちまえッ 」


 「やめろ」「なにをやっている」

俺とハルカナルが止めなければどうなっていたかわからない。


 「なにをする。こいつらは俺たちに酷いことばかりしていた。食わせる飯などない」はぁ。

「そういえば、この世界には人権の概念が無いんだよな」ハルカナルは呆れる。

いや、俺もわからん。解説しろ。ハルカナル


 「バカにはわからん。以上」おい。

「とにもかくにも、解散、解散。お前等、掛け金は無しな」

ぶうぶう文句を言う女共にハルカナルはあくまで愛想がよい。

場を修める技にも優れている。本当に使える相棒だが俺には不似合い極まりない。



 後でさわぎの元であるスバルを呼び出し、俺は彼女と一人で話し合い。

何故脱ぐ。脱ぐな。なんだその顔は。脅えるな。不思議がるな。俺はそういう男ではない。


 閑話休題。なんとか服を着せなおした俺は彼女と向き直った。

「で。なんで剣闘士奴隷だったお前が、捕虜を剣闘士奴隷にしようとするんだ」

純粋な疑問だ。本当にわからん。ハルカナルは「スバルと話せ」としかいわんかったし。


 「仕返しだ」

スバルはあっさりそういってのけた。言いたいことは解るが。

はぁ。俺はため息をついた。


 この一年。激しく小久保軍と戦う俺たち反乱軍の勢力は広がる一方で激しい食料不足、資材不足を実感する日々。

何年もかけて各地の王族と太いパイプを築いてこれだ。まったく。


 「あのな。奴らを全員殺すとする」「ああ」

「お前の子供はどうするんだ」「ハルカナルと作る」

いや、絶倫すぎるだろ。お前満足させられるとは思わん。あいつもてるし。


 「他のみんなは」「シン。ガンバレ」ダメだ。コイツはダメだ。

スバルって戦いの指揮と戦闘力は優れているんだが、どうにもこうにも後先を考えない。


 「スバル。ハルカナルだって何人もいないんだよ」シズルが椅子の上で両脚をブラブラ。

その。この世界の女共は。指導しても。下着を着ない。

「シンはあげないけど。ハルカナルならいい」そういって俺に流し目。


 見えるッ 見えるッ やめんかッ

俺の狼狽する姿を見て、更にブラブラ脚を動かし、ニヤニヤするシズル。


 「見せてる」

コイツ、心が読めるのかっ?! やめろっ?!


シズルはどんどん美しくなっていく。マジ限界。助けて。

俺には心に決めた女がいるからな。シズル。絶対ダメ。


 しかし、この世界には『操を立てる』という概念も。無い。

『奴隷』に過ぎない『人』は主人たちが抱くと言えば抱かれねばならない。拒否権は無い。


 ああ。厳密に言うと『尻を出す』だ。

正常位はこの世界にはない。

 だから、シズルには俺の行動が理解できない。何度も説明してやっているのだが。

「『愛』って何? 」正直、それを答えることは俺には難しいかも知れない。

「とにかく、一番大事な異性にしか抱かれたくないし抱きたくない。それが普通だ」

「じゃ、シンでいいんだね」「却下。俺はちゃんと彼女がいる」「ぶ~。どうせ帰れないのに」

いや、帰る。意地でも帰る。


 「愛があればいいの」「ああ。一方通行もダメだ」

俺をマジマジと見るシズルは色々考えているようだ。


 「どうすればシンに『愛』をもらえるの」直球かよ。おまえは。

「もう。人にやった」「もう一個。もう一個」「モノじゃないからダメ」

シズルは色々考えている。最近彼女は考え事が多いらしい。

逆に俺が話しかけても考えていることが多くなった。


 「愛と真が」「この世に四元素あり。地水火風の四元素。其れは愛と憎にて結合。分離する」

ハルカナルが俺たちの天幕に入ってきた。「ギリシア思想だな。よく覚えたな。シズル」

 そういってシズルの頭を撫でるハルカナル。「えへへ。もっと褒めなさい」

シズルもすぐ調子に乗る。スバルがふくれているぞ。ハルカナル


 「『お勤め』ご苦労さま」スバルは氷のように冷たい目でハルカナルを睨んでいる。

「ああ。すまん。この汚物を拭いた水の入った茶を飲むと少しましな気になる」「……」

おい。スバル。お前はお局OLさんか。


 「私は、そんな毒をお前に盛るようなマネはしないぞ。もっと堂々と。腹が立つことがあれば殴るだけだ」

めっちゃくちゃ狼狽してるぞ。スバル。


 ぐい。ぐい。

ん? めっちゃシズルが引っ張るので一緒に天幕を出る。

「二人にしてあげよう」「そーだな」


 「ねぇ。ハルカナルはなんでシンと一緒じゃないの。同じ『男』でしょ」

同じバケモノなのに、行動パターンが違うといいたいらしい。


 「『報酬』らしい」「シンの言う。愛は無いの? 」ぶっちゃけ。そうなる。

そもそも、アイツはもてるが、誰かを好きになったという話は聞かない。告白されたら付き合うし、求められたら応じるが。


 「『俺』が報酬にならないから、全部アイツの仕事になってしまってる」

本当に、ワガママな相棒で。すまん。俺はつかの間の休息を楽しむ。

白い雲がたなびき、戦場の血の臭いと死肉の臭いを少しはやわらげてくれる。気分的に。


 「スバル。シンじゃダメなの? 」「らしい」

「私も。シン以外ダメ」「そーか。すまん。本気ですまん」心底。悪いと思っている。

ふざけているように振舞っているが、これはスバルの思いに応えられないからだ。


 「もし、シンが他の子を抱くなら」「ん」

「シンを殺す」「おい」マジか……。


 「でも、どうしてそう思うか、わからないの。これも『愛』ってものなの」

「『嫉妬』。だな」「『シット』? 」


 「ねたみ。恨み。自分より恵まれた『人』のものを奪いたいと思うこと」「私、そんなこと思わないもん」

ぶうと脹れてみせるシズル。こういう仕草だけは治らないらしい。


 「俺たちは『モノ』扱いされるお前たちを救うために戦っているけどな」「うん」

「子供を作る政治闘争の『モノ』に過ぎないんだ。俺達」「わかんない」


 小久保がこの国を治めようが、俺たちの反乱が成功しようが、本質は変わらない。

むしろ、反乱なんて無いほうがこの国にはよかったかもしれない。無駄な血が流れずに済む。

自由という概念のない娘たちに変な思想を押し付けて、戦わせる理由も無い。


 「とりあえず。俺は誰も抱かない」「ふうん」

「誰かを抱くことがあっても、多分俺の心は一人にしかやっていない」「私? 」ごめん。


 嫉妬するほど、好きになってくれて。ありがとう。シズル。

そして。ごめん。みんな。俺の心は別にあるんだ。


 「うおオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ?! 」「きゃっ?! 」

驚くシズルに、改めて気合を入れなおす俺。


 「絶対ッ ぜったいっ 」

俺は皆の気持ちに応えられない。それは確かだ。

「人が人を愛せる世界に。してやるんだっ!!!!!!!!!!!!! 」

そのために、俺は。ハルカナルは『小久保』を倒す。


 好まない女を抱くことだって。構わない。

ハルカナルはそういってのけた。所詮俺たちは旗印。道具にすぎない。


 だが、道具にだって意地があるんだ。

俺たちの言葉。妄言を信じてくれた女の子達の意思は継ぐ。



 「手前らああああああああああああああああああああああああああああああッ 黙って俺に、俺たちについて来いぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃっっ?!!!!!! 」

叫ぶ俺に続くはあの時殺しあった犬頭鬼と餓鬼族の彼。


 新しい国は。確実にその鼓動を刻みつつある。

この炎は。消さない。消せない。点し続ける。


 「人が人に嫉妬する。それはいいことだ」

誰かがそう言った。誰が言ったかは忘れたが。


 「お前等ッ! 俺たちは苦しいときも悲しいときも共に生きッ 共に笑うぞッ 」

ハルカナルの声は戦場の隅々まで何故か響く。


 「『自由』を掴めッ 『愛』を取り戻せッ 」

愛とも自由とも最も縁のない鎖につながれた『バケモノ』の発破を受けて、俺たちは『小久保』軍を打ち破っていく。


 目指せ。ハーレム。それいけ野郎共。

いつか本当の愛を語る男がこの世界に現れますように。

俺たちは。『種』を撒く。

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