首輪物語
遥の視線は貴賓席に座る『王族』を見据えている。
血まみれの闘技場の上で静かに。優雅に構えるヤツは彼女に一礼。
敗者は。地面に倒れ、動く事もままなら無い。
「真。立てるか」立てるかじゃねぇ。肩どうしてくれる。
「綺麗に抜いたから大丈夫だ。すぐ動けるようになる」マジかよ。一生恨んでやる。
「犯せ」
誰かの声が響いた。
「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」「犯せ」
大声のコールにチャンピオンだった女、『昴』は目を覚ました。
その間に彼女の愛剣はどうしようもないなまくらに変えられている。
『チャンピオン』は剣闘士奴隷の頭として多大な特権を持っている。
同時に、敗北は。剣闘士としての『引退』を意味していた。
「真。片手だが、やれるか」「あいよ」痺れるが、問題なく動かせる。さすがだぜ遥。
チャンピオンには特権がある。『前チャンピオン』の助命だ。
助命を願わなければ彼女は繰り返し、繰り返し、死ぬまで犯される。
魔物は人間のような『醜い生き物』には性的興奮を覚えないが、嗜虐の興奮は持っている。
ただし、助命を願うには条件がある。
前チャンピオンと共にとある魔物と闘うことだ。負ければ死あるのみ。
暴れながらも屈強な魔物に取り押さえられ、枷を嵌められた昴。
悲鳴を上げる昴。チャンピオンだった面影は。無い。
剣闘士達は。例外なく生娘だ。職業柄妊娠は出来ない。
彼女のスカートが破かれる。
その瞬間を俺たちは待っていた。
四本のサイが次々と彼女を取り押さえる牛頭巨人の首に刺さった。
俺は遠間から詰める。好色鬼のヤツからすれば人間がこの距離から斬って来る等ありえないのだろう。
ましてや、俺の剣は今まで一度も『抜かれた』ことはないのだ。
唯一の獲物である木刀を捨て、飾りである小さな細い剣。黒い漆の鞘でできた剣の玩具に手をかけて突進する俺は好色鬼の目には愚かに映ったことだろう。
「昴。おいで」
俺の鞘走りの音すら知らず、一撃で血の花となった脂肪と筋肉の塊を見降ろしながら俺はため息をついた。
自分でボコボコにしておいて、その手招きはなんだよ。遥。
なにそのイケメン笑顔。ふざけてるのかよ。
鹿皮みたいなのがあればいいのだが、無くて困る。とりあえず血糊をなんだか解らない皮で拭く。
「貴様ら。私に情けをかける気か」震える声で昴はのたまうが。
「いんや」「義務だよ。義務」俺たちはニヤリと笑ってみせる。
「おいっ?! 聞こえてるか王族さんよっ?! 」
俺たちは叫んだ。「『助命戦』を願い出るっ!!!!!!!!!!!!!! 」
「なんの。義務だ。貴様らは契約の剣闘士で」そんな契約はないとのたまう昴。
おれたちゃそんなこたぁどうでもいい。
するりと出てきたバケモノは獅子の頭と蛇頭の尻尾。背中から山羊の背が生えているトンでもないやつだ。
しかも鷹の翼まで生えているときている。どうやって飛んでいるのか知りたいところだ。
「いくぞッ 遥ッ 」「おうっ! 真ッ 」
迫る蛇の頭を切り裂き、四本のサイが空を、鷹の翼を切り裂く。
獅子の爪をかいくぐって邪眼を持つ山羊の頭を蹴り潰した相棒に応え、俺は後ろに構えて刀身の長さを隠した剣を持ち。
突っこむ。
「やめろっ?!!!!!!! 人間がキマイラに勝てるわけがないっっ!!!! 」
勝つか負けるか。そういう問題じゃないね。
「いやぁ。やっぱりさ」
邪眼を持つ山羊の首を締め上げながら軽やかに相棒が言ってのけた。
「こんな綺麗で可愛いお嬢ちゃんが助けを求めているのに。答えないやつは」
闘技場を濡らす血糊が、陽光を受けて輝く。
獅子は完全に俺の突進力を舐めていた。
右手と右足。左手と左足。双方を稲妻のように繰り出す俺の動きを。
両手の平突きは右平突きに。ライオンにはありえないがスウェーバックでかわすヤツにスイッチハンドした俺の左片手平突きが深々とヤツの喉にはいる。そのままヤツの猫の額を蹴り飛ばし。横なぎの一閃。瞳を二つ。潰す。
「「『男』じゃねぇだろッ? 」」
俺たちはそういって彼女に笑って見せた。




