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金色の夜叉

「まったく。お前と戦うことになろうとはな」「それは俺の台詞だ」

大歓声の中俺とハルカナルは対峙する。


 あれからこの世界では何年も過ぎていた。

シズル無しでは右も左も知らない高校生だった頃の俺とハルカナルではない。

俺たちの武術は冴え渡り、シズルからも太鼓判を押されるレベルである。

ちなみに、料理も上手くなった。だってこの世界のメシ不味いもん。水が悪いんだ。水が。


閑話休題。


 ハルカナルの武器はサイ。

沖縄空手の使い手が持つ武器でΨ(プサイ)の形に良く似ている。この世界の職人に特注させた品だ。

俺の武器は居合用の日本刀だが、この世界にこれを手入れできる職人はおらず、結局木刀をそのまま使っている。宝の持ち腐れにも程がある。


 ハルカナルのサイは可也厄介である。

刃の無いショートソードに用法は近いのだが、武器の絡めとり、逆手に持ち替えて肘うちの補助、ハンドガード部分もしっかり防御用の武器として機能し、握り部分の下も尖っていてこれまたパンチを補助できる。

 敵の剣を二つのサイで防ぎつつ、得意の格闘戦に移行するわけだ。油断しているとサイを正確無比なコントロールで投げつけてくる。ちなみにコイツは予備のサイ二本を持っており、サイを二本投げ、一気につめて予備のサイを抜いての都合四本のサイの攻撃を得意とする。

反則じゃないか。


 「この程度? ガッカリさせるなよ」ニヤリと笑う奴は飛来する二本のサイを必死で防いだ俺の目玉と股間の寸前にサイを寸止めして離れて見せた。すかさずブーイングしようとする観客たちに投げキスを決めて手を振ってみせる。こんにゃろう。こんにゃろう。


 大歓声を受けながら奴はサイを一本腰に差しなおし、俺を空いた右手で誘う。

その距離四m。剣道の使い手にはそれほど遠い距離ではない。

「チェストォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉっ 」気合を入れて飛び込む俺の一撃。サイで防げるわけは無い。


 しかし、奴はサイを逆手に構え、右手をした支えにして十字受けで俺の一撃を防ぐ。

即座に足元に衝撃。俺の視界は虚空に逆転。


 「おーい。真。降参しろ~。キスしてしまうぞ~」

あっという間に俺を絡め取って見せたハルカナルは気持ちの悪い事を言う。

「気持ちの悪いことを言うなっ?! 」「ふふふ。未熟だなぁ」


 あっさり腕を引っこ抜かれて悶絶する俺は降参の合図を送る。

ハルカナルは立ち上がって勝利のポーズ。観客の扱いの上手い奴だ。


 俺は痛い痛いと叫んでなるべく時間を稼ぐ。俺の回収よりチャンピオン戦を優先したようだ。

俺に対する関心は既に観客たちには無く、幾多もの挑戦者を退け、いまだこの闘技場の女王として君臨するチャンピオンとハルカナルの戦いへの期待に燃えていた。


 敵の武器はネットと三又の槍トライデント

ネットは恐ろしい武器だ。振り回して分銅のように使え、そのまま敵の武器に絡みつかせる。

油断をすれば身体の上に舞い降りて、トライデントの餌食になる。

トライデントも厄介で、あの三叉に攻撃が流されてしまう。また、三つの刃に貫かれた場合、傷を癒す手立ては無く、死を待つのみだ。


 え? 回復魔法?

いい事を教えてやる。この世界には。魔法など。無い。


 対するハルカナルは拾ったサイをひょいと腰に戻した。

肩をすくめ、両手の掌を横にして挑発してみせる。チャンピオンはハルカナルの態度に激怒した。


 「なめんじゃ。ないよ。小娘がっ?! 」

ちなみに、この世界には人間の男はいない。俺たちを示す適切な言葉は無い。


 「おいで。すばる

クイっとポーズを決めて誘惑するハルカナル。コイツ本当に何者なんだ。

長年相棒やってるが時々怪しくなる。

恐ろしい勢いで横殴りに飛来したネットの錘を軽々かわして魅せたハルカナル


 堂々とチャンピオンに背を向け、観客席の『奴隷』たちに投げキスをして魅せた。

カッケーじゃねぇか。てめぇ。というか大人気だ。俺たちの素性はばれていない。

見た目も『不細工』といわれている。だが、俺たちと闘った奴ら、俺たちの戦いを見たヤツらの評価は百八十度違うものに化ける。


 「てめぇええええええええっつ?! ふざけるなあああああああっ?! 」

ネットが花を開き、ハルカナルを捕らえようとするが。


 「なっ? 」ハルカナルが一度に投げた回転するサイに絡め取られ、ネットは止められる。

一気に詰め寄るハルカナル。そこにチャンピオンのトライデントが迫る。


 「ハルカナルッ?! 」「真。心配するな」

その時、俺はとんでもないものを見た。


 俺たち人間の。奴隷が流した血の痕がいまだ赤い海のように残る闘技場の円陣。小さな小さな箱庭の世界。

その中央で三叉の矛を突き出す大柄だが美しい女。その腕が完全に止まっている。

キラキラと輝く陽光。その光は俺たちの血を。罪を。嘆きを呪いを受け止め。ハルカナルを輝かせる。


 槍の上に爪先立ちで飛び乗ったハルカナルは物憂げに右手を動かすと。

チャンピオンに向けて優雅に投げキスをして見せた。


 「?!?! 」

うろたえた彼女のこめかみにハルカナルの華麗な回し蹴りが決まった。

何度も、何度も。


 槍の上で華麗に舞うハルカナルの動きは人間のそれを遥かに越えていた。

「綺麗だ」「綺麗」俺たちはハルカナルの華麗な戦いっぷりに呆然と見とれていた。


 陽光を受け、キラキラと輝く血だまり。鮮やかなハルカナルの蹴り。

最後の一撃。強烈なかかとおとしがチャンピオンに決まる。


 そのままハルカナルはチャンピオンを土台として。跳んだ。

クルクルと宙を舞い。陽光を受けて。重力すら彼は支配する。華麗に舞い降りた彼はくるりと回りながら観客席全員に向けて投げキスを放つと、フワリと優雅に一礼して膝をついた。

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