猫と女の子
私はいつも、いつも空を見上げていた。
時間によって移り行く空の色は、見ているととても心を穏やかにしてくれた。
いつも黒い空を見て私は眠る。
朝、お日様が顔を出して空が白く見える頃、私は起きて身だしなみを整える。
大通りに行き、道行く人に声をかけてまわる。
「おなかがすいたの。 食べものをちょうだい。 」
ときどき、食べ物をくれる人がいるけれど、ほとんどの人が私の声を聞いても聞こえないふりをする。
昼、お日様が私の上にきて、空の青が見渡せる頃、朝にもらえた食べ物を食べておなかを満たす。
でも足りないから、食べた後も大通りで道行く人に声をかける。
「おなかがすいたの。食べものをちょうだい。」
みんな、おいしいものをいつもいっぱい食べているのに。――そう思いながら声をかけ続ける。
夕方、お日様が少し隠れて空が赤くなった頃、みんなが食べ物を置いていく場所へと向かう。
そこで食べ物を探していると、怖いひとがやってきた。
「またきやがったのか! この泥棒猫がっ!! あっちへ行けっ!!」
そのひとは逃げる私を追いかけて、何度も私を棒で叩く。
夜、お日様がいなくなって空が黒くなった頃、寒さがしのげる場所へ向かって歩く。
着いた場所で丸くなり、いつもと変わらない黒い空を見たあと眼を閉じる。
「明日は、おなかいっぱいになれますように。」
いつもの場所で、いつもと同じことを願いながら眠りについた。
その日、不思議な夢を見た。
目の前のにいる女の子が私に向かって知らない名前を呼んでいる。
「みーちゃん、こっちだよ。」
私は女の子がいる方へ向って歩き出す。
朝、お日様の光を感じて目を覚ます。
まわりを見ると知らない場所。
「ここはどこ? どこなの?」
私は不安になって声をあげた。
泣いていたらひとが来た。
目の前には夢で見た女の子。
「みーちゃん、もう大丈夫だよ。 そんなに泣かないで。」
女の子は心配そうに私を見つめる。
その日はごはんをおなかいっぱいに食べることができた。
女の子と、女の子がパパ、ママ、と呼ぶ人たちに囲まれて。
「こんなにいっぱい食べたの、はじめて!」
嬉しくて、幸せで、食べながら話す私を、まわりのひとは笑顔で見ていた。
夜、暖炉の前で私は女の子にくっついていた。
目に入るのは炎の赤と女の子。あたたかくて、気持ちよかった。
「明日も、おなかいっぱいごはんが食べれますように。」
そう願いながら、女の子の隣で眠りについた。
今、私はいつも幸せだ。
隣には、少し大きくなった女の子。
「ありがとう、」
私が呟くと、女の子は私を見て笑った。
もう、おなかいっぱいに、と願うことはなくなっていた。
窓から見上げるのは、あの頃と変わらない空。
外に出ることはなくなったけれど、私は毎日空を見上げる。
隣にはいつも女の子。
ふたりで並んで、ときどき顔を見合わせて、笑いあう。
「おやすみなさい。」
そう言って眠るようになっていた。