半年間で一度しか呼ばれなかった側妃ですが、諦めたらうまくいき出しました。
「求められない側妃なんて、いる意味あるのかしら」
いつものように、他の側妃の皆様に嘲られ、私はもう諦めることにした。
半年前に王の側妃になった新参者だが、お渡りがあったのは初夜の一度きりだ。
そのことは、他の側妃を喜ばせ、馬鹿にされるには十分だった。
そもそも私が召し上げられたのは、急な話だった。
実家はたいして裕福でもなく、ただ古くからある家というだけであり、特徴といえば平和主義のお父様による中立の立場を保持していることだ。
派閥争いというのは、どこを取ってもあるものだ。
側妃だって、そう。
それぞれの派閥の令嬢をバランスよくとることで均衡を保つし、側妃内派閥だってどこかの味方につけば、別の派閥からは目をつけられる。
…私はどこにも属することなく、全員から見下されているけれど。
本来なら私は側妃にならなくてもよかったはずだ。
派閥争いの末、どことも争うことを選ばない珍しい中立の我が家のようなところから令嬢を1人募らなければならないほどに、バランスが崩れ始めただけの話だ。
見初められたわけでも、私が特別なわけでもない。
適応年齢、婚約者なし、身分担保と、上手い具合にはまったのが私だったというだけのこと。
側妃に選ばれた時、お父様にはある程度派閥争いの内容は聞かされていたし、きっと辛い目にも遭うと思うと言われていた。
だから、これは私に覚悟がなかっただけなのだ。
「あらあら、昨夜もエイラ様には何もなかったんですってねえ〜。お1人で過ごすための努力をお聞きしてみたいものですわ〜」
「こんなに可愛らしい方ではあるのに、陛下は何がお気に召さないのかしらねえ」
「あら、やだ。可愛らしいだけじゃ、魅力にはなりませんよ」
相変わらず今日も、他の側妃は楽しげに顔を歪めている。
今までは反論することもなかったが、相手の態度が変わらないことは知っているし、それに関しては諦めたのだ。
そもそも、王に気に入られようなんて最初から思っていない。
恙無く暮らせている現状に、不満もない。
だから、これ以上嘲られる理由もない。
お父様のように穏便にと心掛けていたけれど、それも諦めた。
「皆様はさぞ、陛下に心を砕くのに一生懸命でございますのね」
私が声を上げるのが珍しいからか、他の方が一瞬動きを止めた。
「どんなに足掻こうとも陛下の心は王妃様にあると思われるのですが、皆様の涙ぐましい努力、私も見習わなくてはなりませんね。だって、自分が努力していないと惨めだと気付いてしまいますものね」
と、まあ、言いたいことを言ってスッキリした。
中立の家の娘が、反撃しないとでも思うなよ。
いつも先頭を切って私を蹴落としにくる方が、カッと顔を赤らめて、淑女らしからぬ声を上げた。
「なっ!あなた、失礼じゃありませんかっ!撤回なさい!」
「失礼なのはお互い様ではありませんか。人の閨のことをあれこれ騒ぎ立てて、他の話は出来ないかと言うほどにいつも同じ話題でよく飽きませんね」
「一度しか愛されたこともない方に何がわかるというのっ!」
「少なくとも陛下は、その一度でさえ私を無下になさらなかったことだけはわかりますよ」
強く言い返すと、わなわなと震えた側妃方の罵詈雑言が飛んできて、いつも以上に騒がしかった。
挙句、紅茶までかけられたので、さすがにやらかしたな…と思いつつ、綺麗な礼をしてその場をあとにしたのだった。
変化が起きたのは、その日の夜だった。
「今夜、王のお渡りがありますので、お支度なさってください」
ああ、昼間の騒動がもう耳に入ってしまったのか…。
もう諦めて怒られましょう、そうしましょう。
そんなことを考えているうちに、本当に陛下の二度目の訪問があった。
「久しい訪問になってすまなかったね」
「…陛下、申し訳ございませんでした」
「ん?何がかな?」
「父にもくれぐれも大人しくしているようにと言われておりましたのに、その…、側妃派閥まで掻き乱すようなことを…」
「ああ、聞いたよ。随分愉快に盛り上げたそうだね」
「…やってしまいました」
「あははっ、君にしては持った方じゃないかい?」
陛下は楽しげに笑うと、私の腰を抱いてそのままベッドに隣り合って座った。
「君が文句を言わずにいてくれたおかげで、こちらもある程度収めることができたよ」
「…それなら、いいのですが」
「派閥争いの時間稼ぎに付き合わせて悪かったね」
「いえ、はじめからそういうお話でしたし。私では絶対に力不足だと思っていましたので…」
「君が感情豊かで短気だからかな?」
「…すみませんでした」
「おかげで君がいつ爆発するのかスリリングで楽しめたよ」
くすくす笑う陛下を横目に、さすがにそれはお人が悪いのでは…?と不敬なことを思ったりした。
「まあ、君に何かあってからでは遅いからね。苦労をかけたね」
陛下は私の頬を撫でて、少しだけ切なそうに目を細められた。
よかった、陛下の足を引っ張るようなことにはなっていなかったみたい。
「さて、エイラ」
「はい、陛下」
「あらかた片付いたからね、これからは中立の家の君のところにも堂々と通えるわけだ」
「え、あ、はい」
「他の側妃に侮られないほどに通うつもりだから、覚悟しておいてね」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、陛下は私の爪先にキスを落とした。
「ひとまず今日は半年分、君を愛すことにするよ」
「…お、お手柔らかにお願いします」
「ふふふ、ねえエイラ。私が初夜の時に言っていたことは覚えているかな?」
「夜の時間は、お名前で呼ぶ、と」
「そうだよ、エイラ」
「…ルーカス様」
「うん、よくできました」
陛下は満足そうに頷くと、そのまま私を押し倒して、朝まで続く長い夜が始まった。
翌日、陛下がまあわかりやすいところに跡をつけられたものだから、側妃からはいつも以上に非難轟々だった。
余裕のない顔を浮かべて、珍しく笑えていなかった。
今更仲良くする気もないけど、うるさいから勘弁してほしい…。
了
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