第4章:ギルド内の評価アップ
魔王アークネメシスへの配達成功から一夜が明けた。
王都ベルザイアの配達人ギルド本部では、朝からざわめきが広がっていた。
「おい、聞いたか? あの“新人”が魔王城に配達してきたってよ」
「しかも、時間通りに。信じられるか?」
「名前、なんだったっけ……赤羽俊? 東の外れの新人ブロックの」
その名は、一晩でギルド中に知れ渡っていた。
一方その頃、俊はギルドの休憩室でコーヒーを飲んでいた。
昨日の疲れがまだ身体に残っているものの、気持ちは晴れやかだった。
「配達って、やっぱりいいな……人の役に立てる」
彼の前に現れたのは、ギルドの上級職員――ミリア。
整った顔立ちに凛とした雰囲気、エリート配達人として知られる女性だ。
「あなたが赤羽俊、ね」
俊が振り返ると、ミリアは腕を組んだままじっと見つめていた。
「あなたの報告書、見せてもらったわ。アークネメシス様への配達、時間厳守、物品無傷。信頼獲得ポイント+50。……これは、驚異的よ」
「ありがとうございます。ただ、運が良かっただけです」
「謙遜は嫌いじゃないけど、事実からは逃げないで」
ミリアは小さく笑い、手元の魔導タブレットを見せた。
《赤羽俊:Sランク職 配達人》
《達成率:100%(現在2件)》
《信頼度:国家機関+ 魔王陣営+ ギルド内評価:急上昇中↑↑》
「あなたのこと、上層部も注目し始めてる。たぶん、すぐにAランクの専属依頼が回ってくるわ」
「……そんなに?」
俊は戸惑った。たった一件配達しただけで、ここまで騒がれるとは思っていなかった。
だがその時、ギルドの放送が鳴った。
《【通達】赤羽俊、評価査定により“銀翼バッジ”の授与が決定しました。午後三時より表彰式を行います。関係者は本部ホールへ集合してください。》
「……なんだそれ」
「“銀翼バッジ”は、配達人の中でも特に注目された人にだけ与えられる名誉よ。新人が受け取るのは、10年ぶりくらいじゃないかしら」
午後3時、ギルド本部のホール。
多くの配達人や関係者が集まる中、俊は壇上に呼ばれた。
ギルドマスターが直々に手渡した銀の翼の形をしたバッジは、彼の胸元に美しく輝いた。
「君の配達魂に敬意を表する。これからも“届けること”の真価を、この世界に示してくれたまえ」
拍手が鳴り響く中、俊は静かに頭を下げた。
表彰後、俊は多くの配達人から声をかけられた。
「魔王城ってどんなだった?」
「スキル、何使ったの?《時間ジャッジ》って本当に使えるのか?」
「今度、魔境方面の配達同行してくれよ!」
慌てながらも、俊は笑って応じた。
自分が“認められている”という実感が、胸を温かくした。
その日の夜、俊はギルドの屋上にいた。
星空を見上げながら、革の配達バッグを抱えていた。
バッジが月明かりに反射して、鈍く光っている。
「次は、どこに届けるのかな……」
彼の手元に、ギルドの伝令が届いた。
>【新規依頼案内】
>依頼主:冥界の女王“セレスティア”
>宛先:冥界の王宮
>内容:生者の世界からの“贈り物”
>備考:生者のまま冥界へ行ける者は限られています
「……おいおい、次は“死後の世界”かよ」
俊は思わず笑った。
だが、心はもう決まっていた。
「届ける先が地獄でも、俺は行くよ。だって――配達人だからな」