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三十三品目 ニグラスの木6

「今も昔もやっていることは変わらないか……なんだ、仮説にしてはよくできているんじゃないか? 話に出てきたエルフが現代のエルフ像そのものであることを差し引いても、現に体制側には序列が存在し、発言力に差があるのは事実だからな。私も砂漠では酷い目にあった。最近のことだから、よく覚えている」

「あら意外ね? アザレアのことだから、とりあえず否定されると思ってたけど。まあ、多少なりとも知識があるのならそれも納得って感じよね」

「なんだ、砂漠にエルフの国がまだあるとはな。やはりお前の言うことは信用ならない」

「え? ああ……私が否定しないから……でもそれは勘違いよ。アンタが勝手に先走ってるだけ。どこで聞いたのかは知らないけど、砂漠のエルフはしっかり……って、なんで私ばっかり話してんのよっ」


 ロサは公平じゃない。そうあからさまに視線を逸らしては、不満げに口を尖らせる。しかしこのサキュバス、元はと言えば自分から語り始めたのであって……へそを曲げるのは勝手だが、それに付き合わされるほうの身にもなれと目を細めていると、不意にカーラが間に割って入ってくる。


「お、お互いに思うところはあるじゃろうが、せめて仮説とやらをすべて語ってからにしてくれぬか……」

「だそうだが?」

「アンタねぇ……まったく。アンタらは特に接し方に気を遣うというか、何に触れて何に触れたらだめなのか分かりづらいんだから、少しは話せそうなことを自分から話したりしなさいよ。でないと、私の立場ってものがないでしょ」

「いまさらだな。それに話せと言われても、お前がいったい何を聞きたいのか、私にはまるで分からない。むしろ話したいのは山々なんだが、これでは――」

「アザレアさん、少し意地悪なんじゃない? ロサさんが何を考えてるのかは僕には分からないけど、一応は善意で話してくれてるみたいだし。ただそれだとアザレアさんも納得できないだろうから、とりあえず貸し一つってことで、どうかな?」

「だそうだけど?」


 おいおい……なんでお前がロサの肩を持つんだとキリボシを目で糾弾するも、特にこれといった効果はない。

 悩むだけ時間の無駄か……ダメ押しにカーラから頼むと上目遣いに見られては、あくまでも渋々であることを主張するように頭をかく。


「分かった。だが、お前が何もかも話してからだ」

「まあ……偶然とはいえ押しかけたのは私の方だし、それでいいわ。ああそれと、もしアンタが答えなかった場合、同じことをキリボシに聞くから。だから嘘だとか、適当に言い逃れしようだとかはなしだから。その代わり、私も嘘はつかない」


 どうだかな……そう思ったが、いい加減やり合うのも面倒になって指摘はしなかった。そしてロサはこれまでの流れを再確認するように改めて言う。

 私たちがダークエルフと呼ぶエルフは、元は砂漠のエルフであり、恐らく体制側だったがよくある権力闘争に敗れて国を追われたのではないかと。もしくはその過程で罪を犯したが、体制側ゆえに極刑を免れ、追放されるにとどまったのだと。


「ダークエルフが自ら国を捨てたなんてのは、私が思うに強がりね。きっと自分たちの祖先が犯罪者なんじゃないかって、エルダーの中でも劣っているから追い出されたんじゃないかって薄々気付いてて。でもそんなの受け入れられないし、信じたくないから必死に過去を否定して……まったく難儀な連中よね」


 続けてロサはどこか独り言のように言う。生まれや血筋に拘ればこだわるほど、その(さが)に翻弄された先祖との繋がりを色濃くしてしまうのに……。


「まっ、だからこそ出自なんか気にしない魔王軍は、能力や性格で評価されたがってたダークエルフにとって悪くない場所だったと思うんだけどね。そう考えると関係性はどうあれ、両者は協力してたと見るのが自然でしょうね」

「やはり奴らは魔王軍と……それでわしは魔王軍に引き渡されたわけじゃな」

「そこまで繋がりがはっきりしてるならそうでしょうね。ただ私が知る限り、この辺りに魔王軍が進出してきたのは、最近のことだから……」


 それとなく森へと視線を流すロサ。そのどこか同情でもするような表情からして、言わんとすることは分からないでもないが……国を追われたダークエルフが歩むことになった道のりがどのようなものであったのか、それは私には分からない。

 ただ砂漠からここまでの移動距離を考えるだけでも、その日々が常に順風満帆であったということはないだろう。


「本当に難儀な奴らだな……」


 泥を全身に浴びながら、解放だの自由だのと叫ぶダークエルフはただただ奇妙だったが、過程を思えばそれも当然なのかもしれない。


「せめて魔王軍で上を目指すぐらいにしておけば良かったのにね。ニグラスだっけ? 周りを見れば分かるけど、どうせ魔力でも集めてたんでしょ? そしてそれを糧に木を育ててた。私は専門じゃないけど、きっとそこには精霊が関係してるわね。分かるのよ、同じようなことをしてる奴に心当たりがあるから」

「精霊……確かにこの森にはドライアドはおらんが……」

「ドライアドとは少し違うと思うけど……私が知る限りだと、精霊は宿して使うものらしいから……」

「そうなのか? ただそれだと一つだけ引っ掛かることがあるんじゃが……奴らはなぜ木を壊されて、喜んでおったんじゃ?」

「さあ? 自棄(やけ)をおこしたとか? なんてね。そんな説明じゃ納得しないか。まっ、あのエルフたちが仮にも巣って、そう木を呼んでたのなら、内側に……」


 そこまで口にしては、ハッとして視線を落とすロサ。すぐに慌てた様子で顔を上げたかと思うと、次の瞬間には勢いよく振りかぶられた空のお椀が、キリボシの手元へと叩きつけられる。


「おかわり?」

「そうそう、精霊って案外美味しいのね――じゃないわよ!」


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