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六品目 生野草2

「シャビエルうし――」

「あ――?」


 走り込んだ勢いそのままに地面すれすれまで体勢を沈み込ませる。それが上段に構えるシャビエル相手への解答……だったのだが。馬鹿みたいによそ見をされたのでは、もはやその後の駆け引きも何もあったものではない。

 だが好都合だと、周囲に見せつけるように振り下ろされた剣ごと腕を切り飛ばしては、ついでに首をはねたのち、すれ違いざま胴を余計に両断する。


「ろ……あ、シャ、あ、やめっ――あ、あ」

「ごめんアザレアさん。邪魔しちゃったかな」

「いや、それよりも気をつけろ。残りの野盗も――」


 手練(てだ)れぞろい。そう続けようとしたところで背後から飛んできた矢をノールックで避けては、続く二射目、三射目を剣で叩き落す。


「キリボシ! そいつを大人しくさせていろ!」


 叫んでは唐突に始まる連携、直後に聞こえてくる鈍い音。キリボシを背に、防いだ矢の数が二十を超えては急に静かになる。


「随分と時間がかかっているようだが……魔法で私をどうにかできると思っているのならやめておけ。お前らと私では、見ての通り出来が違う」

「だっ――騙されるな! こいつは私の雷撃で弱り切っている! そうだ! どう考えても瀕死なんだ!」

「キリボシ」


 静かにさせろ。そう言葉にせずとも阿吽(あうん)の呼吸で聞こえてくる鈍い音。だが男はめげない。木の裏に隠れては息を潜める仲間に向けて、狂ったように叫び続ける。


「ぜ、全員でかかれば……全員でかかれば! いくらこの女が強くても勝てるはずだ! そ、そうだ! こいつはいま何をした! 男を守ったぞ! きっとそれが弱点なんだ!」

「何を言いだすかと思えば……言っておくがこいつは私よりも強い。まあ、冗談だがな。しかし情けない。いや、情けないを通り越して最早くだらないな。レティシアを捨て、冒険者であることも捨て、野盗に身を落としてまで生きながらえたはいいが、その果てにやることが他人の粗さがしか。マルタ村の連中が生きていれば、傑作だと腹を抱えて笑い転げるだろうな」

「黙れ! 否定したところで事実は変わらない! 俺たちはお前を使って城塞都市(バルバラ)に行く! そうだろう! なあ! 何か言えよ……!」


 男の悲痛な訴え、キリボシを狙え。それに対する返答は沈黙。なまじ手練れぞろいであるからこそ見られる統一感だが、もしここまでの流れで負けないまでも、相応のリスクを感じ取ってくれたのなら、それは状況が好転し始めた証だろう。


「お仲間はお前の案に反対、そういうことみたいだな?」

「な……何で、嘘だろ! なんで戦わないんだよ! ここで戦わなきゃ! じゃなきゃ……俺たちは一体なんのために……何のために殺して……奪って……ここまできたんだよ……」

「ここまできた? 笑わせるな。逃げてばかりのお前らが、前に進めるはずがないだろう。もう終わりにしないか? 元とはいえ、同じ冒険者のよしみだ。いま出てくるのなら――やれやれ」


 隠れることをやめたかと思えば敵に背を向けて逃げていく野盗たち。だがそこに関しては手練れとはいえ、意見を一致させることができなかったのか。

 立ち向かう意思を見せる者も現れては、ほどよくばらけてくれたことに心の中でほくそ笑む。


「戦果は上々……となると、こいつももう用済みだな」

「え……?」


 キリボシから預けた男を受け取ろうとしては、振り返るよりも先にどさりと崩れ落ちる音がする。


「やっぱり食べないのに殺すっていうのは、あまり気分がよくないね」

「お前……」


 殺しはよくないぞ。そんなきれいごとが口を突きそうになったのは、知らず知らずのうちにキリボシは殺しをしない、そんな風に決めつけていたからだろう。

 ただよくよく考えるまでもなく、キリボシはゴブリン、ハーピィ……は間接的にだが、昨晩の吸血鬼も含めて、それ自体はよくしていた。

 だというのに――急に引っかかったのは、なぜだろうか。同族だから? いや、そうじゃない。私はたぶん……似合わない。そう、似合わないと思ったのだ。


「アザレアさん。昨日の今日で疲れてるでしょ? 逃げた人たちは僕に任せて。代わりにここはお願いできるかな」

「ああ……いや、待て。駆け出しのお前にはまだ――」

「朝食は野草のスープ、ちょっと青臭いし苦いけど、それも塩をかければ大丈夫。あ、そういえば近くに小さな湖が出来てたよ。魔王軍の仕業かな? 実は帰るのが遅くなったのも、そこで水浴びしてて――」

「分かった」

「ありがとう」


 そういうとキリボシはすぐに木々の向こうに見えなくなった。ちょっと青臭くて苦いか……あいつのちょっとは信用できないからな。


「悪いがさっさとけりをつけさせてもらうぞ。火をおこすのは私の仕事だからな」


 それから水浴びでもして待っていよう。きっとそのうちにまた、腑抜けた顔で帰ってくるに違いない。


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